マガジンひとり

オリンピック? 統一教会? ジャニーズ事務所?
巻き添え食ってたまるかよ

読書録 #16 — 失踪日記(再読)ほか

2019-10-22 15:44:59 | 読書
山本ゆり/syunkonカフェごはん レンジでもっと! 絶品レシピ/宝島社2019
ロンハーのなぜよりによってこの人のファン?という企画の、グラドル杉原杏璃のグッズを貯め込んで足の踏み場もない汚部屋と化した中年男性。親も入らせないが番組の予算で清掃。わが国の一人あたりゴミ排出量を世界一とさせる恥ずかしい構造の一端がかいま見える。手間ヒマや素材、何らかのこだわりを自慢しがちなレシピ本が多いなか、本書は電子レンジで簡便に作れ、見栄えよく、洗い物も少ないよう配慮。薄味でも肉魚野菜を豊富に使うからおいしいし、何より冷蔵庫の食材を余らせて捨てることが劇的に減った。著者は主婦ブロガーになるまでは広告代理店で営業をしていたそうで、私の苦手なタイプの女ではあるがまあ朴大統領父娘的な実用主義ということで

ハイマン・ミンスキー/投資と金融 資本主義経済の不安定性/日本経済評論社1988・原著1982
ポスト・ケインジアン叢書の一つで、金融不安定仮説を提唱したため死後リーマンショックの際に再評価された経済学者の論文集。原題はCan It Happen Again?、すなわち1930年代の大恐慌のようなことはまた起るかという。彼の学説によれば、金融市場が周期的に混乱するのは、景気と金利、税収、財政赤字と貿易赤字、起業マインド、銀行・証券・保険の仕組みなど複雑で大規模な体系が宿命的に内在するもの。金融の仕組みをヘッジ・投機・ポンジ(短期で破綻する詐欺)の3つに分け、景気が過熱するにつれ富裕層向けプライベートバンキングなどからもより危険な投機・ポンジを促すような動きがみられ、大きな破綻につながると警鐘を鳴らす

片山まさゆき/ぎゅわんぶらあ自己中心派①/講談社漫画文庫1997・原著1987
知名度が高く、文庫になっているならとのことで買ってみたが、これはひどい。カイジとその系列漫画なら、ナニ金・ウシジマくんとは比較にならず、私が学ぶところはないけれども読みものとして暇つぶし程度は保証される。ぎゅわんぶらあは漫研の高校生が描いたような絵、ありきたりでテキトーな進行、暇つぶしにもならん。子どもの無責任な自由さで、大人の資本主義を利用して遊べることが、人口ボーナス期に広く読まれた漫画の共通要素といえるのでは。キャッチーな題名、主人公「持杉ドラ夫」みたいな単純化も必須。Madonna・Eminem・ベッキー・ヒカキンなどなど一語を名乗り、他人を押しのける自信とあつかましさこそネオリベ現世で「愛される理由」

ハンス・エンツェンスベルガー/意識産業/晶文社1970・原著1963
ナナメ読み。ドイツの詩人による社会批評論文集で、意識産業(The Consciousness Industry)とは現状の権力による支配をより強固に永続化させるため報道・書籍・映画・(とくに)観光旅行などが暗に連携して人びとの意識を管理し平均的・欺瞞的な方向へ誘導することを指す彼の造語。厳格なマルクス主義の立場から、物質的な進歩や便利さ、さまざまな情報を得ようとすることそれ自体が人の心を縛って、容易に搾取される依存体質に変えてしまうと説く。さしずめいまなら人間に代わって働いてくれる筈のAI(人工知能)は実際にはグーグルやアマゾンなど新しい権力が連携して世界中の人間を依存させて収益を得るための道具に過ぎないという形になるでしょう

ヘルマン・ヘッセ/ヘッセ詩集/みすず書房1962・原著1910~20年代
「夜の感情」と題された詩より=月と星宿の姿とが現れ出る・とつぜんな雲の裂け目から・魂のほのおがその洞穴から立ちのぼり・熱を増しつつ燃えさかる・それは蒼ざめ煙る星の世界の中で・夜が・竪琴(ハープ)を弾いているためだ。頭おかしいんか。目がすわってるで。ロンハーの遠野なぎこさんは「こんな私でいいの?ってのめり込んじゃうけどじき冷める」とのことでスピード結婚離婚。恋愛やスポーツやギャンブルや酒、誰もが生きている実感を得たい、魂を燃やしたい。ヘッセのロマン主義は風や鳥や草木、大自然と人間を対置することで、心が自由に飛翔し、一瞬は永遠になるというように孤独な精神性を称揚する傾向がある。前掲の詩は「とにかく今日・このように私は生きている!」と結ばれる

いしいひさいち/女(わたし)には向かない職業/東京創元社1997
再読(処分含み)。「あんたクラスでも初版が3万なの」「オウムとか地震で単行本が売れないのよ」「少女漫画なんて一発ヒットすればたちまち初版100万部だわ」。ウソつけー!!(フジモンの素早い突込み)。ロンハー・アメトーク・ゴッドタンは芸人を若い頃からフォローし、先輩後輩やコンビ解消や同居やアルバイト、彼らの関係性を番組内でおもしろおかしく演出する。これと似たことを漫画でずっと早く始めて4コマ漫画の一大市場を生み出したいしいひさいちさん。タブチくんアサシオくんなど実在人物をパロディ化する場合とバイトくんたちなど独自に創案する場合。本書の藤原瞳は90年代新人ミステリ作家が輩出されたことから創案されたとみられるキャラで、朝日新聞『ののちゃん』の先生としてもメディアを股にかけ活躍。編集者にとって常に60点以上の原稿を上げてくれるいしいさんは有難い存在だったろうが、私にとって80点以上の本がなく在庫を圧迫するサブカル紳士録の一人としてやはり処分

倉田真由美/だめんず・うぉ~か~⑧/扶桑社SPA!文庫2008・原著2005
この巻はいつものだめんず体験聞き取り漫画に加え、倉田氏自身の恋愛観や理想の男性像が齋藤孝氏との対談などで示される。「喫茶店でどうでもいい話を2時間できる相手と結婚すべき」。私だって千野くんとラブラブだった頃は飽きることなくおしゃべりしたし、沖縄が世界的な長寿地域なのは人の世話を焼くタイプの人が多いから。人間がいちばん栄養満点。しかし上野BAKA千鶴子「モテたいならコミュニケーションスキルを磨け」はおためごかしで、そうはいっても話を聞いてくれるブ男より自己中なイケメンを選ぶ筈。女の社会性や対人能力は、たとえば創価学会やエホバの証人なら末端で献身的に活動するのは大半が女という形で現れるし、近年はそうした人とつながらなければ生きてゆけない本能がさらに利用されて老若男女がバカホの・GAFAの・政府の奴隷に。私は孤独を強みに替えたい。女のおしゃべりなんか御免だ

鈴木大介/最貧困シングルマザー/朝日文庫2015・原著2010
援交・パパ活・若い女のデフレ。トウの立った子持ち女にとって性風俗店がセーフティーネットになる場合もあるが、いまや店側から需要があるのはひと握りのエリート。出会い系での個人売春に流れることに。夫の浮気やひどい暴力から逃れてきた女がほとんどであるのに、得体の知れない男に金銭だけでなく、つかの間の安らぎさえ求める女がいるのはどうしたわけか。著者が聞き取り取材した対象には、母子家庭という烙印をおされる以前に、女として女社会に馴染めず、学校や職場でイジメを受けた者が少なくない。なので女同士の互助組織であるシングルマザーのためのNPOへの相談をためらう者も。私が思い出すのは、『母がしんどい』などで知られる田房永子さんのトークイベント=客席はほぼ全員女性=にて、彼女が星野源が好きだと言って曲をかけたこと。対人が巧みそうだが音楽の才能はなさそうな星野イコールもっと底辺の女が出会い系にうわべの安らぎを求めること。人も動物であり、オスとメスの違いは動物的な本能が生み出すのかも

マーク・フィッシャー/資本主義リアリズム/堀之内出版2018・原著2009
SF的な悪夢。コールセンターでは客と係員の双方が傷つく不毛な争いが繰り返され、係員は単なる苦情サンドバッグで、客の不満が経営側に建設的に伝わることはありえない。このことを、著者のような優秀な人物ですら切実に感じているということが、本書の説得力を確かなものにしている。わが国では、カルト的な映画や小説、あるいはドゥルーズなど思想家から引いてくる者は、ほぼ衒学の豚である。ところが著者の手にかかると、古今の思想や表現が現在の諸問題=資本主義が構造化されて官僚主義・新自由主義と結びつき、人間を分断し疎外すること=に結びつく警鐘として生き生きよみがえる。資本主義の延命が自己目的化し、人びとは「大文字の他者」の監視下で不安と冷笑主義(シニシズム)に追いやられる—

吾妻ひでお/失踪日記/イーストプレス2005
「冷やし中華がもう出てるのか」。さっ・ささっ「あんたカゴも持ってないしダメ!」「うううう」。最初に読んだときと重みが違う。年取るとエエことあるな。今回とくに切実に感じられたのは、警官たちや学生らしき3人連れ、ホームレスの吾妻さんを普通に「コジキ」と呼んで蔑むこと。直接に物乞いをせずとも、ゴミを漁って暮らしているような身分。資本主義は階級や差別を必要とする。たとえば私が10年前より若い女から視線を向けられることが多くなったのは、年寄り・債権者vs若者・債務者という構図が強まり、羨望と憎悪がないまぜになっているためでは。と同時に、わが国がゴミの一人あたり排出量ダントツ世界一である事実は、個人よりもスーパーコンビニや事業系ゴミによるもので、生活保護などより金銭本位かつ競争原理のセーフティーネットとして、それ自体が資本主義の隠された目論みといえるのではないか。死ぬまで何度でも読みたい。日本のサブカルが生み出した宝石。吾妻ひでおさんのご冥福をお祈りします

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 19-Oct-2019 Top 20 Hits | トップ | 26-Oct-2019 Top 20 Hits »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読書」カテゴリの最新記事