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「オーマイ ケセィラ セラ」萩尾望都(小学館プチコミックス萩尾望都作品集10巻ほか)
セィラ・マーリのママはおしゃれなネクタイ店を営み、言い寄る男たちをあしらうのが上手なプレイガールだったとか。パパと結婚して翌日には離婚。産まれてきたセィラをあやしながら歌うように言ってた…「ケ・セィラ・セラ。なるようになる」。ママが亡くなって、アメリカで仕事に夢中のパパはセィラを女子校へ放り込んだきり顔も見せない。その女子校がお隣りの男子校と合併することになり、セィラの心をざわめかせる、ママと同じ目の色の年下の男の子…。
『この娘うります!』萩尾望都(小学館プチコミックス萩尾望都作品集15巻ほか)
15才のドミニク・シトロンは、子ども服デザイナーのパパのたいせつな箱入り娘で、本人も重度のファザコン。そんな彼女をまったく知らない世界へ導く、男か女かも謎な扮装でパリの街を闊歩するモデルクラブの面々。中でも女装が巧みだが実はモデルなんかよりカメラをやりたくてたまらないクラバットはドミニクの心を惹いたのに、どうも彼の態度は煮え切らないしドミニクも売れっ子としてイタリア映画にまで出ることになってすれ違いばかり…。
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ギャンブル人生。一か八か。ことわざ辞典を引くとこうある。《いちかばちか。結果が思いどおりになるかどうかわからないが、運を天に任せて思い切ってやってみること》。運を天に任せる。なるようになる。ケセラセラ。
『闇金ウシジマくん』のフーゾクくん編で、営業努力してこつこつ積み上げるタイプの風俗嬢・瑞樹が「男に金使うのも若いうちはいいけど、後悔するよ。私いっぱい見てきたんだから!」と忠告するのに対し、体を売って稼いだ金を全部ホストにつぎ込んじゃう風俗嬢アサミは「いいのいいの。今が楽しければ」と。
それなのにがんばって貯めた3000万円をアサミに持ち逃げされてしまう瑞樹。傍で見てるぶんにはおもしろい結末。アサミにはハッピー、瑞樹にはアンハッピー。すっかり打ちひしがれた瑞樹には仕事もなくなってしまって風俗業の悲哀を噛みしめるが、あれだけ仕事を仕事と割り切ってこつこつ努力できた彼女のことである。いずれ浮かぶ瀬もあろう。
そしてマンガ家さんというのがまさに掲載誌のアンケートなどで左右されてお客さんへのサービスに努めねばならない風俗産業。中でももっともそうしたことと縁遠い理知的な作風で知られる萩尾望都さんといえど、タイトルからしてズバリ『この娘うります!』。2つの作品とも週刊少女コミックに掲載されており、読者層に迎合したようでもあるけれども彼女自身ほんとうに楽しんで描いていることが伝わるハッピーなラブコメ。友人と道を歩いていていきなり「雨に唄えば」を口ずさんで足をパッと上げるようなミュージカル好きの一面も彼女にはあるのだとか。
そういうミュージカルみたいなドタバタした、ご都合主義で結果オーライの物語なのだけど、後年の作品で語り口が淀んで重苦しくなってきてるのに比べ、とにかく軽くて明快。ノリがよろしい。ファッションやスイーツやパリ・ローマのヨーロッパ観光もいっぱい出てきて少女読者へのサービスも満点。パイ、ケーキ、マーマレード、甘いパン甘いパン。少女マンガの大きな特徴として、大胆なコマ割りとか枠線を飛び越えた演出などで雰囲気を盛り上げるけれども、そうした面のよく出た『この娘うります!』のエンディング。まるで映画のようなドミニクの逃避行。彼女がクラバットの船をめがけてポンヌフ橋から飛び降りるシーンでは、数年後の「エッグ・スタンド」でユダヤ娘ルイーズが屋根から墜落するシーンが脳裏をよぎった。その時期にはもはや甘いご都合主義のハッピーエンドなど描けなくなってきてたんでしょか。
いずれにせよ他の作品ともなんらかの連関が。ケセラセラという言葉も、元はドリス・デイが歌ってヒッチコック映画で用いられたヒット曲の、アメリカ人がラテン・イメージで思い描くテキトーなスペイン語なのだとか。その原曲はよく知らないがスライが1973年の『Fresh』で麻薬でへろへろになったような秀逸なカバーを。爆発的な作曲能力を誇った彼もそのアルバムが最後の輝き。同じ年に萩尾望都さんが「オーマイ ケセィラ セラ」を執筆している。なるようになる。とわいえ、音大生より美大生のほうが普通の仕事でつぶしが利いて、風俗嬢にならなければならない可能性が低いように、音楽家よりマンガ家のほうが風俗産業といえど持続的可能性に恵まれた職種であることを示唆しているのではないだろうか。
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セィラ・マーリのママはおしゃれなネクタイ店を営み、言い寄る男たちをあしらうのが上手なプレイガールだったとか。パパと結婚して翌日には離婚。産まれてきたセィラをあやしながら歌うように言ってた…「ケ・セィラ・セラ。なるようになる」。ママが亡くなって、アメリカで仕事に夢中のパパはセィラを女子校へ放り込んだきり顔も見せない。その女子校がお隣りの男子校と合併することになり、セィラの心をざわめかせる、ママと同じ目の色の年下の男の子…。
『この娘うります!』萩尾望都(小学館プチコミックス萩尾望都作品集15巻ほか)
15才のドミニク・シトロンは、子ども服デザイナーのパパのたいせつな箱入り娘で、本人も重度のファザコン。そんな彼女をまったく知らない世界へ導く、男か女かも謎な扮装でパリの街を闊歩するモデルクラブの面々。中でも女装が巧みだが実はモデルなんかよりカメラをやりたくてたまらないクラバットはドミニクの心を惹いたのに、どうも彼の態度は煮え切らないしドミニクも売れっ子としてイタリア映画にまで出ることになってすれ違いばかり…。
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この娘(こ)うります! (白泉社文庫)萩尾 望都白泉社このアイテムの詳細を見る |
ギャンブル人生。一か八か。ことわざ辞典を引くとこうある。《いちかばちか。結果が思いどおりになるかどうかわからないが、運を天に任せて思い切ってやってみること》。運を天に任せる。なるようになる。ケセラセラ。
『闇金ウシジマくん』のフーゾクくん編で、営業努力してこつこつ積み上げるタイプの風俗嬢・瑞樹が「男に金使うのも若いうちはいいけど、後悔するよ。私いっぱい見てきたんだから!」と忠告するのに対し、体を売って稼いだ金を全部ホストにつぎ込んじゃう風俗嬢アサミは「いいのいいの。今が楽しければ」と。
それなのにがんばって貯めた3000万円をアサミに持ち逃げされてしまう瑞樹。傍で見てるぶんにはおもしろい結末。アサミにはハッピー、瑞樹にはアンハッピー。すっかり打ちひしがれた瑞樹には仕事もなくなってしまって風俗業の悲哀を噛みしめるが、あれだけ仕事を仕事と割り切ってこつこつ努力できた彼女のことである。いずれ浮かぶ瀬もあろう。
そしてマンガ家さんというのがまさに掲載誌のアンケートなどで左右されてお客さんへのサービスに努めねばならない風俗産業。中でももっともそうしたことと縁遠い理知的な作風で知られる萩尾望都さんといえど、タイトルからしてズバリ『この娘うります!』。2つの作品とも週刊少女コミックに掲載されており、読者層に迎合したようでもあるけれども彼女自身ほんとうに楽しんで描いていることが伝わるハッピーなラブコメ。友人と道を歩いていていきなり「雨に唄えば」を口ずさんで足をパッと上げるようなミュージカル好きの一面も彼女にはあるのだとか。
そういうミュージカルみたいなドタバタした、ご都合主義で結果オーライの物語なのだけど、後年の作品で語り口が淀んで重苦しくなってきてるのに比べ、とにかく軽くて明快。ノリがよろしい。ファッションやスイーツやパリ・ローマのヨーロッパ観光もいっぱい出てきて少女読者へのサービスも満点。パイ、ケーキ、マーマレード、甘いパン甘いパン。少女マンガの大きな特徴として、大胆なコマ割りとか枠線を飛び越えた演出などで雰囲気を盛り上げるけれども、そうした面のよく出た『この娘うります!』のエンディング。まるで映画のようなドミニクの逃避行。彼女がクラバットの船をめがけてポンヌフ橋から飛び降りるシーンでは、数年後の「エッグ・スタンド」でユダヤ娘ルイーズが屋根から墜落するシーンが脳裏をよぎった。その時期にはもはや甘いご都合主義のハッピーエンドなど描けなくなってきてたんでしょか。
いずれにせよ他の作品ともなんらかの連関が。ケセラセラという言葉も、元はドリス・デイが歌ってヒッチコック映画で用いられたヒット曲の、アメリカ人がラテン・イメージで思い描くテキトーなスペイン語なのだとか。その原曲はよく知らないがスライが1973年の『Fresh』で麻薬でへろへろになったような秀逸なカバーを。爆発的な作曲能力を誇った彼もそのアルバムが最後の輝き。同じ年に萩尾望都さんが「オーマイ ケセィラ セラ」を執筆している。なるようになる。とわいえ、音大生より美大生のほうが普通の仕事でつぶしが利いて、風俗嬢にならなければならない可能性が低いように、音楽家よりマンガ家のほうが風俗産業といえど持続的可能性に恵まれた職種であることを示唆しているのではないだろうか。
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