マガジンひとり

自分なりの記録

娯楽の記号

2018-09-21 19:07:16 | マンガ
いま読んでいるビッグデータの本の著者は米国の数学者で、金融工学・リスク分析・eコマースを専門とする。金融とハイテクに象徴される、米国の資本主義の最先端にいる人物なのだが、AI・ビッグデータは人間を幸せにしないという見地で綴られている。いかに膨大なデータであろうと、いま現在の鏡に過ぎず、データに将来を創造する力はない。消費履歴や行動範囲・交友関係などが蓄積されても、一人一人の顔やポテンシャルは分らない。1円でも多く儲けたい、できれば税金も払いたくない企業としては、金持ちには高級リゾートや生涯学習や金融商品を、貧乏人にはジャンクフードやギャンブルや高利貸しを紹介する。格差はますます開き、医療費など社会保障は膨れ上がる。

本の中では、大学の格付け、就職活動、クレジットスコア(クレヒス)、ソーシャルメディアを通じたフェイクニュースの拡散などにより、人間が数値として仕分けされ、ハイテク企業や既存の富裕層の肥やしとなる様子がこれでもかと描かれる—




前回の読書メーターまとめ記事の中で高橋留美子さんの初期短篇集を扱ったのですが、彼女のギャグ短篇が意外なほど面白くなかった理由として、同じ時代には先鋭的に映っても、基本保守的な娯楽なので、うる星やつらのような強力なキャラがいないことから保守性・凡庸さだけが際立ってしまう。

地球侵略を賭けた鬼ごっこの相手として諸星あたるを指名し、負けたけど「結婚してやるっちゃ」と言って押しかけ女房となるラムちゃんの引きはものすごいものがある。あたるもまた、好色・乱倫・無責任を絵に描いたようなキャラで、うるせいやつらというタイトルどおり、彼とラムちゃんを中心にもののけや宇宙人などさまざまなキャラが集まってくる様子は爆発的な面白さだ。




高校の級友で、いまも親交のある釘宮くんが『麻雀放浪記』の文庫本を学校で読んでいて、当時はヘェ~としか思わなかったが、阿佐田哲也(色川武大)さんといえばひとかどの人物ですから、懐かしさもあって入手してみると、やはり読ませますね。ギャンブルのイロハが分らなくても引き込まれる。

最初はチンチロリンのサイコロ賭博だ。偶然性が支配する。主人公はもっと複雑なルールで、読みや駆け引きなど技量を磨きたいと麻雀の道へ。背景として敗戦直後のため、国土は焼け、軍人や政治家の名誉は地に堕ち、ハイパーインフレや闇市など、政府や警察の統制がなくなったなかバクチといえど腕一本で生きてやるというアナーキーな自由さがある。イカサマや暴力沙汰も避けられないが、何が起っても本当の自己責任だ。

画家フランシス・ベーコンが、決まりきった日常より何が起るか分らないギャンブルの偶然性こそ本当の贅沢だということを言っていたのも、これに近い人生観だといえよう。最初の命題「ビッグデータは人を幸せにしない」に戻ります。諸星あたるには不都合なことも起る。「アホかいっ!」と突っ込んでくれる人がいる。イケメン(レイ)や金持ち(面堂)より庶民のあたるが選ばれたというロマンもある。ソシャゲーは虚無である。記号でしかない。


Go @Go_8yo 9月20日
お前たちは成長した担当アイドルに訴訟を起こされる運命なんだよ

訴訟は起されないと思うが、ソシャゲーがあなたをチヤホヤしてくれるのは、企業がユーザーの時間とお金を奪って儲けに換えるためだ。そんな時間が贅沢な筈がない。生きながら、AI・ビッグデータに葬られ—


先頭画像:田村信「ゴエモンろっく」1977

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