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旧作探訪#76 『アメリカン・ヒストリーX』

2009-10-18 23:21:48 | 映画(レンタルその他)
American History X@レンタル、トニー・ケイ監督(1998年アメリカ)
兄さん、僕たちの物語は、憎しみの歴史にピリオドを打てるだろうか─。
デレク(エドワード・ノートン)はかつて高校の優等生だった青年。しかし、消防士の父が黒人に殺されたことをきっかけに、白人至上主義の活動にのめり込んでいく。限界まで鍛え上げた肉体、左胸にナチス崇拝を意味する鍵十字の入れ墨を彫り、マイノリティを攻撃することに怒りのはけ口を見出すデレク。そんな彼に強烈な憧れを抱く弟ダニー(エドワード・ファーロング)は、兄のデレクが黒人に対するエスカレートした憎悪から犯した殺人で、刑務所に入れられた後、兄の意志を受け継ぐかのようにその活動組織に足を踏み入れていく。やがて3年の歳月を経て、デレクが出所した。獄中で何があったのか、別人のように変わってしまった兄の姿を見て困惑するダニー。この後、二人の兄弟に想像を絶する事件が待ち受けていた…。



「カウチポテト族」なる言葉があったっけ。ポテトチップスこそ食べないものの=あ、たまには食べます=くつろいで寝そべって、コーヒーなど飲みながらレンタルDVDを見る。「旧作探訪」ではすでに定評のある映画を見ることが多いので、物語が進むにつれ、興奮して立ち上がったりしゃがんだり、うろうろ歩き回ったり、ということが5回に1回くらいは起こる。この映画。
寝そべってはいられない。主要なテーマは2つ。「兄弟や家族」と「人種差別主義」。親兄弟がおらず、日本から出たこともないオラにはどちらも関わりの薄い。それらを緻密に重層的に描いて、我がことのように感じさせ、寝そべっていられなくさせる、すばらしい映画。重大なテーマで、かつセンシティヴな問題を多く含むので、こればかりは先週の『エル・マリアッチ』のような低予算で済ませるわけにはいかない。プロの俳優と専門のスタッフをたくさん雇って、できるかぎり最善をつくさなければ。中でもすごいのが、ハリウッドきっての演技派ともされているらしきエドワード・ノートン。極右組織を操る初老の男からも、特にそのカリスマ性を見込まれて、表向きのリーダーを打診されるほど。それが打って変わって刑務所では…。そのあたりを、弟が黒人教師からリポートの書き直しを命じられて、過去を回想する形で、モノクロ映像で描き出すというやり方も秀逸。
この中から後に「カリスマ性」や「心酔」といったテーマに絞って、エドワード・ノートン自ら製作・主演で描いた『ダウン・イン・ザ・バレー』も印象的な佳品でした。副次的なテーマを、後から掘り下げて1本の映画にまでふくらませる姿勢は、たとえば『闇金ウシジマくん』の以前のエピソードでさりげなく描かれたことが、ずっと後のエピソードで中心的に描かれるのとも似た。現在の「楽園くん」の主要な題材である覚醒剤は、初期の「若い女くん」でも軽く描かれたが、もっと掘り下げて描くべきだと踏んで温めておいた作者の誠実さに拍手を贈りたい。
この映画にも『闇金ウシジマくん』と共通するテーマが随所に見られ、その最たるものは「悪意や憎悪はいったん始まると連鎖して歯止めが利かなくなる」ということであり、またその土壌となる、貧困、酒、煙草、麻薬、入れ墨、銃といったものども…。その延長上にカリスマ、あるいは教祖といったものもあるのは、われわれとも無縁ではない。
極右・白人至上主義の人びとが演説をぶつ口調には一定のパターンがみられる。《あなたがた善良な白人の職を、黒人とか不法入国者とかが奪う。あなたがたは悪くない。黒人やユダヤ人やアジア系やヒスパニック系が悪いのだ》。媚びがみられる。テレビの司会者や、日本人の音楽からも同じものが感じられることがある。さだまさしなどの音楽のイントロや歌い出し、あるいはみのもんたや島田紳助の話法に。関係が薄いということはない。デレクとダニーの兄弟や家族や仲間たちは、われわれとも近しい隣人だ。


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