●社説 <’17衆院選>希望の党公約 政権選択と言えるのか
中日 2017年10月7日
希望の党が衆院選の公約を発表した。政権選択選挙を掲げる割には、主要政策で自民党との違いが見えず、首相候補もいまだ明らかではない。これで政権を選べと言われても、無理な話ではないか。
希望の党の公約は九項目からなり、党の考え方を示す十分野の政策集が付随する。代表の小池百合子東京都知事はこのうち消費税増税凍結、原発ゼロ、憲法改正が公約の三本柱だと強調した。
政権交代を迫る自民党と明確に違うのは消費税増税凍結だろう。
安倍晋三首相が主導する成長重視の経済政策を「一般国民に好景気の実感がない」と批判。景気回復を確実にするため、消費税率10%への増税を凍結し、代替財源として大企業が利益を蓄積した内部留保への課税検討を打ち出した。
消費税の増税は、低所得者の実質的な税負担が重くなる逆進性が指摘される。そもそも税率引き上げが妥当なのか。増税凍結は自民党との明確な対抗軸になり得る。
しかし、残る二本柱はどうか。
原発については「二〇三〇年までにゼロを目指す」ことを掲げ、政策集で「原発ゼロを憲法に明記することを目指す」と記すが、同時に原発の再稼働も認めている。全廃期限を区切ったことは評価できても、再稼働を認めるのなら自民党とさほど変わらない。
憲法改正も同様だ。自衛隊の明記など四項目を中心に改憲を目指す自民党に対し、希望の党は「憲法九条を含め改憲論議を進める」としている。九条に自衛隊を明記する自民党案に賛同するのなら、政権選択は無意味に帰す。
政権選択選挙が現実味を帯びてこないのは、希望の党の首相指名候補がいまだ明確でないことと無関係ではあるまい。
小池氏は首相指名について、前提となる衆院選への自らの立候補を重ねて否定し、「衆院選が終わってから、いろんな結果を受けて行うものだ」とも述べている。安倍氏以外の自民党議員の首相擁立を想定しているのかもしれない。
かつて細川護熙、羽田孜、村山富市各氏ら各党間の連携で首相が選ばれた例はあるが、政党・政策本位の小選挙区制が衆院に導入される前だ。現行制度下ではそぐわない。希望の党は首相指名候補を明確に掲げるべきだ。
政権交代を託して希望の党に投票したら、結局できたのは自民党首相政権だった。そうなれば、悲劇を通り越して喜劇ですらある。有権者を欺いてはならない。
●(社説)衆院選 「希望」公約 浮かぶ自民との近さ
朝日 2017年10月7日
自民党との違いを出そうと苦心しながらも、むしろ自民党との近さの方が印象的である。
希望の党が公約を発表した。
自民党との対立軸を意識したのは「消費増税凍結」と「原発ゼロ」だろう。だが急ごしらえを反映し、実現への道筋はあいまいで説得力を欠く。
消費増税2%分、5兆円余の代替財源をどうするのか。歳出削減や大企業の内部留保への課税をあげるが、税制の制度設計には時間がかかる。2年後の財源とするのは乱暴すぎる。
原発は「日本の将来を担うエネルギーとは考えない」とし、「2030年までに原発ゼロをめざす」との目標を掲げた。
では、それをどうやって実現するのか。具体的な行程表はこれからつくるという。
消費増税凍結も原発ゼロも、現状では、政策というより「主張」の域を出ない。
一方で、自民党に寄り添うような公約が目立つ。
憲法改正では「9条を含め憲法改正論議を進める」ことを公約の3本柱の一つに掲げた。
小池百合子代表は記者会見で「希望の党の存在が、これからの憲法改正に向けた大きなうねりをつくる役目を果たしていくのではないか」と語った。
民進党が憲法違反だとして白紙撤回を求めてきた安全保障法制については「現行の法制は憲法に則(のっと)り適切に運用する」と容認した。
米軍普天間飛行場の辺野古移設も、小池氏は「着実に進める立場」と言い切った。
小池氏は「安倍1強を倒す」といいながら、みずからの立候補は否定し、希望の党としての首相候補も決めていない。
同時に、選挙後の他党との協力について「結果を見て。政治では当たり前の話」と語る。安倍首相が退陣すれば、他の自民党首相のもとで連携する可能性を示唆したとも受け取れる。
だが200人以上の立候補予定者を擁し、政権奪取を掲げる事実上の野党第1党である。
自民党に代わる選択肢をめざすのか、それとも、場合によっては自民党の補完勢力となる可能性も排除しないのか。
基本的な党の姿勢を明らかにして1票を求めるのが、有権者への最低限の責任ではないか。
公約のつくり方にも疑問がある。希望の党はまだ党規約もなく、党の意思決定の仕組みさえ整っていない。すべてが小池氏の号令一下で決まっているかのようだ。
立候補予定者の幅広い論議もなく作成された公約には、大きな疑問符がつく。
●社説 日本の岐路 希望が公約を発表 「立ち止まる」余裕はない
毎日 2017年10月7日
希望の党が衆院選公約を発表した。重点9項目などからなり「国民ファーストな政治の実現」を掲げた。
とりわけ目を引くのは、消費増税の凍結を公約の筆頭に掲げたことだ。小池百合子代表は記者会見で「原発ゼロ」、憲法改正を含めた3点が柱だと説明した。
再来年秋に予定される消費税率の10%への引き上げについて公約は「一度立ち止まって考えるべきだ」と記した。小池氏は昨年の東京都知事選挙でも築地市場の豊洲移転を「一旦立ち止まる」と訴え、凍結した。それを念頭に置いた表現だろう。
だが、国と地方の借金は1000兆円を超し、団塊の世代が全員75歳以上になる2025年も8年後だ。財政危機と社会保障財源の確保に「立ち止まる」余裕などない。
小池氏は「立ち止まって社会保障全体を見直す」と説明した。社会保障の構想も固めず、負担から背を向けるのでは責任政党とはいえまい。
外交、内政全体のビジョンがあいまいなまま「小池カラー」の個別政策を並べた急ごしらえ感も漂う。
公約に盛られた各種の給付拡充策には新たな財源を要する。財源とあてこむ企業の内部留保課税は二重課税にふれるおそれもある。
議員定数削減など身を切る改革を掲げつつ、負担先送りを説く手法はいくつかの政党が繰り返してきた。一種の大衆迎合だろう。
経済政策は政策集で「ユリノミクス」として規制改革を強調した。成長重視の基本的方向性は「アベノミクス」とあまり変わらない。「安倍自民」への明確な対立軸が示されたとはいいがたい。
「30年原発ゼロ」と年限つき目標を示した点には自民党との差別化への意欲がうかがえる。ただし、説得力ある工程を示すべきだろう。
憲法改正は「自衛隊の存在を含め、時代にあった憲法のあり方を議論する」と9条も議論の対象とした。「知る権利」や地方自治の規定などを改正の目標としたが、安倍晋三首相が提起する9条加憲方式への賛否はあいまいだ。
公約は、策定過程がほとんど明らかにされずまとまった。急な対応を迫られたとはいえ、小池氏の一存で政策まで決まるのでは政権奪取を目指す政党として大いに不安である。
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