2021年02月14日プレイリスト「ウォール・オブ・サウンドで棚からひとつかみ」
1. BLUE VALENTINE'S DAY / 大瀧詠一 "ナイアガラ・カレンダー '78" '77
2. WHY DO FOOLS FALL IN LOVE / THE BEACH BOYS "SHUT DOWN VOL.2" '64
3. NEW YORK'S A LONELY TOWN / THE TRADEWINDS '65
4. HANG ON / THE WALL OF SOUND '67
5. (BABY) YOU DON'T HAVE TO TELL ME / THE WALKER BROTHERS '66
6. THAT'S HOW IT GOES / THE BREAKAWAYS '64
7. CONGRATULATIONS / THE ROLLING STONES '64
8. ALL THIS (HE DOES TO ME) / THE ANITA KERR SINGERS '68
9. 色・ホワイトブレンド / 竹内まりや "リクエスト" "エクスプレッションズ" '87
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■内容の一部を抜粋
「山下達郎です。昨夜の地震で被災されたみなさまに、心よりお見舞い申し上げます。本日のサンデー・ソングブックは、それ以前に収録されたものでありますことを、あらかじめお断り申し上げておきます」
・近況
「2月14日。バレンタインズ・デイでございますね。でも、今年はこういうウイルス騒ぎでございますので、イマイチ盛り上がりに欠けると言いましょうか。うちのオフィスの女子はですね、全員、総代で、チョコレイト一個きました。うふふ。ワーナーの女子諸君もですね、いつもは8人くらいで、どっと来るんですが、今日は3人だけ。後が怖いですね、でもね。なんかこうみんなでまとまってるっていうか。くわばら、くわばらという感じで。でも、まぁ、気は心でありまして。毎年ありがたく(笑)、気持ちだけいただいておりますけれども」と達郎さん。
・ウォール・オブ・サウンドで棚からひとつかみ
「フィル・スペクターが先日、亡くなりました。フィル・スペクターは1960年代から70年代にかけて、大変に大きな影響力を持った人なんですが。いろいろと人間的な毀誉褒貶も多くて、いろいろなスキャンダルに溢れた人でもありまして、結局、刑務所でコロナにかかって亡くなってしまったという、アレですけれども。でも音楽は残っております。実際にひじょうに、彼の音楽制作手法というのは、後に大きな影響を残しておりますので。で、いろんなところでフィル・スペクターの特集をやっておりますけれど、もう出尽くしてるので、話が。ですので今日はひとつですね、フィル・スペクターのそうした制作とか音作りに影響されて、僕もやってみようという人がたくさんいますので、そういうフィル・スペクターの音、マネっこした音をですね、今日は(笑)、棚からひとつかみ。題して、ウォール・オブ・サウンドで棚からひとつかみ。ウォール・オブ・サウンドとはなんですかって。そういうのはネットで調べたらいくらでも出てますので。音聴くほうが大事なので。今日はそういうものから選びましてですね。でもまぁ、正直申し上げて始めて後悔しております(笑)。あの、かけてもかけてもキリないんです。ですのでもう、枚挙にいとまがないというアレなので。本当に棚からひとつかみです」と達郎さん。
・BLUE VALENTINE'S DAY
今日はバレンタインズ・デイなので、大瀧詠一さんの1977年の暮れに出た『NIAGARA CALENDAR '78』から「BLUE VALENTINE'S DAY」。「今聴くと本当に歌がうまい」と達郎さん。
・ウォール・オブ・サウンド
グショグショのリバーヴ、十数人で寄ってたかってやる多人数録音、モノラル録音。それによって音圧というかグルーヴを出す。全ては音の壁を作ることによってグルーヴを出す。ポケット・シンフォニーとフィル・スペクターは自分で言っていた。ティーンエイジ・ポップとのワーグナー的展開というような言い方もしていた。人によって受け止め方が違って、初期はそれほどリバーヴはなくて、だんだんエスカレートしていったという歴史もある。達郎さんの感想は音の壁というか、リバーヴによるグルーヴ、今日はそういうものを中心に選曲したそうだ。
・WHY DO FOOLS FALL IN LOVE
フィル・スペクターの音にものすごく影響を受けたのがビーチボーイズのブライアン・ウィルソン。何度もそういうトライアルをしていて、フィル・スペクターに曲を使ってもらいたくて、ボツられたとかいろいろある。1964年のアルバム『SHUT DOWN VOL.2』に入ってる「WHY DO FOOLS FALL IN LOVE」は、1956年のフランキー・ライモン&ザ・ティーンネイジャーズのヒット曲を、ウォール・オブ・サウンドで構築した、大変優れたトラック。日本で『SHUT DOWN VOL.2』が出たとき、「HAWAII」という曲と差し替えられて、「WHY DO FOOLS FALL IN LOVE」はシングルのB面でしか聴けなかったという。CDになったので今ではどこでも聴けるようになった。
・NEW YORK'S A LONELY TOWN
とにかく関係した人がフィル・スペクターの音の作り方に驚愕して、そういうものを目指した。具体的にフィル・スペクターのスタッフのソングライターとかそういう人たちがそういうものを志向している。その中のソングライター・コンビ、アンダース&ポンシア。ドゥー・ワップ・グループからスタートして、トレードウィンズという名義で1965年に出したシングルで全米32位。この曲もフィル・スペクターに使ってほしくて、使ってもらえなかった曲。この曲はデモがレコードになったような音像なので、デモだと言われている。達郎さん自身もカヴァーしている「NEW YORK'S A LONELY TOWN」。
・HANG ON
達郎さんはウォール・オブ・サウンドが好きで昔から聴いてきたという。フィル・スペクター・クローンのいちばん最たるものが1967年のザ・ウォール・オブ・サウンドというグループ。もちろんでっち上げ。バズ・クリフォードとジャン・デイヴィスのコンビによる作品で「HANG ON」。
曲をかけ終えて。この曲は達郎さんも本物のシングルを持ってないそうだ。今はCDになってるので簡単に聴ける。
・ウォール・オブ・サウンドを知るきっかけになった曲
中野区の超常連のリスナーから「達郎さんがウォール・オブ・サウンドを知るきっかけになった曲は誰のなんていう曲でしょうか?」という質問。
中学に入るぐらいにラジオで「BE MY BABY」とかかかっていたけれど、達郎さんにとって最初のウォール・オブ・サウンド体験はウォーカー・ブラザーズ。中学2年とのときに買ったウォーカー・ブラザーズのアルバムがエコーの世界で、「なんだこれは」と思ったそうだ。番組で今日これまでかけた曲はアメリカ録音だが、イギリスのほうが録音技術が上の部分があって、特にウォーカー・ブラザーズの作品は本家のフィル・スペクターの録音を超えてる迫力を持っている。ウォーカー・ブラザーズの作品はほとんどライチャス・ブラザーズのクローンみたいに作っているが、ある意味でライチャス・ブラザーズを超えてる部分がある。それは中学生の時分には感動的な世界があったとか。
・(BABY) YOU DON'T HAVE TO TELL ME
そんな中でも「(BABY) YOU DON'T HAVE TO TELL ME」はエコーの世界の迫力に圧倒されたという。1966年、全英13位だが、アメリカではシングル・ヒットしなかった。達郎さんはこれがウォーカー・ブラザーズのエコーの世界ではこれが最高傑作の一作だと思ってるという。もともとは同じ年にボビー・コールマンが発表した曲。邦題は「心に秘めた想い」。
ここまで一気呵成にやってきたがガール・グループが一曲もない。3月のひなまつりのときにガール・グループ、ガール・シンガー特集を予定していて、「ウォール・オブ・サウンドしばり」で選曲するつもりなんだとか。
・THAT'S HOW IT GOES
そんな訳で今日は一曲だけ。ザ・ブレイカウェイズはリバプール出身の3人組女性グループ。ひじょうに実力のある人たちでセッション・シンガーとしてたくさんのレコーディングに参加している。でも一曲もヒット曲がない。1964年の3枚目のシングル「THAT'S HOW IT GOES」。作曲、アレンジ、プロデュースはトニー・ハッチ。トニー・ハッチのウォール・オブ・サウンド志向の作品の中では最高の一作と思われる。日本盤シングルが出ていて邦題は「恋のなりゆき」。
・未来へ 17アクション
NHKが今年一月からスタートしている、持続可能な開発目標、SDGsキャンペーン「未来へ 17アクション」のテーマソングに、達郎さんの「フェニックス」が使用されることになった。2003年にNHKの地球環境番組『地球だい好き!環境新時代』のテーマソングとして書き下ろした「フェニックス」。アルバム『SONORITE』に収録している。今回は「フェニックス」のアカペラ・ヴァージョンを作ったそうだ。3月から徐々にオンエアされてゆく予定。詳しくは山下達郎オフィシャルサイトにて。
https://www.tatsuro.co.jp
・CONGRATULATIONS
イギリス人のプロデューサーやソングライターはフィル・スペクターへの憧れが強い。1960年代の中期にローリング・ストーンズのプロデュースをしていたアンドリュー・オールダムもウォール・オブ・サウンドやリバーヴの世界が本当に大好き。自分がやってるストーンズにもそういうものを導入しようとしたけれど、ストーンズはバンドなので十分な効果が出ない。でも気は心ということで何曲かある。例えば「TELL ME」なんかもそう。1964年のアルバム『12×5』に収録されている「CONGRATULATIONS」。シングル「TIME IS ON MY SIDE」のカップリング。
・ALL THIS (HE DOES TO ME)
ウォール・オブ・サウンドは1960年代中期から後期にかけて活躍したスタジオ・ミュージシャンのプロジェクト、レッキング・クルーを使っていたので、そのメンバーを集めて来れば、大体同じような音が出る。スタジオの選択もそのようなところにすれば同じような音が出る。ジ・アニタ・カー・シンガーズの1968年のシングル「ALL THIS (HE DOES TO ME)」。
・色・ホワイトブレンド
達郎さんが作ったウォール・オブ・サウンドで、自分でよくできたと思うのは「ヘロン」なんだとか。でも最近、番組でよくかけているので今回は外したという。デジタル時代のウォール・オブ・サウンドは音像が全く変わるが、でもリバーヴとグルーヴで一所懸命がんばったそうだ。
1987年の竹内まりやさんのアルバム『REQUEST』から中山美穂さんに提供した曲のセルフ・カヴァーで「色・ホワイトブレンド」。
■リクエスト・お便りの宛て先:
ハガキ
〒102-8080 東京FM
「山下達郎サンデー・ソングブック」係
メール
https://www.tfm.co.jp/ssb/
2021年02月21日は引き続き「ウォール・オブ・サウンドで棚からひとつかみ」
http://www.tatsuro.co.jp