JF(国際交流基金)のお招きで、とても面白いレクチャーに参加することができた。
アメリカ、ミシガン州出身のアメリカ人にして“詩人”、アーサー・ビナードさんによる講演だ。
アーサーさんは学生時代にミラノでイタリア語を1年半ほど学んだのち、インド南部でタミル語に5ヵ月間「没頭」。その後アメリカに戻り卒論を書いているときに漢字にたまたまふれる機会があり、文字の魅力にひかれて日本語学習を始めて来日・・・という完全なる「語学オタク」。
『日本語ぽこりぽこり』で第21回講談社エッセイ賞受賞(2005年)、詩集『釣り上げては』で中原中也賞受賞(2001年)するという、れっきとした“日本語の詩人”である。
1990年に来日されてからの日常を、ユーモラスにお話いただき、私たちはすっかりと彼の軽妙な語りに引き込まれていった。
特に感心したのは、さり気なく話題を変えながらも講演が終わってみるとそれらがすべて一本の線のように結ばれていたことだ。
美しい日本語の選び方もさることながら、1時間という限られた時間の中で計算されつくした美しい話の運び方にすっかり舌を巻いた。
来日当初、池袋の小さなワンルームアパートで暮らしていた彼が最初に覚えた日本語は毎日のようにやってくるあの、「竹や~さおだけ~」。
そのフレーズのみならず、さお竹を車で売りに来るという文化に衝撃を受けたそうだ。
そのうち「2本で1000円、20年前からお値段は変わっておりません」という“語り”もすっかり覚えた。で、何年かのちにはたと気づいた。
「待てよ。ボクが来て5年たつのにまだ“20年前”と言っているのはおかしいじゃないか。25年前じゃなきゃ」
そして、さお竹屋は今でも堂々と「20年前と・・」を繰り返している。私たちにはどうでもいいようなことを、彼の感性は鋭くチェックしていて、それがとてもおかしい。
近所の古い商店街をこよなく愛し、店主と立ち話をしながら日本の文化をいろいろと教えてもらうのが大好きだという彼は、近所に大きなスーパーができた今でも買い物は商店街と決めているそうだ。
「ボクは商店街に“魚”を買いに行くんです。スーパーには“死体”を買いに行く」
話の中でビナードさんは、あるステキな詩を朗読してくれた。
“Zebra” Gavin Ewart
White men in Africa,
Puffing at their pipes,
Think the zebra's a white hourse
With back stripes.
Black men in Africa,
With pipes of different types,
Know the zebra's a black hourse
With white stripes.
“シマウマ” ガヴィン・ユアート(アーサー・ビナード訳)
ぷかりぷかりパイプをふかす
アフリカの白人の男たちは思う―
「シマウマっていうのは白馬で
黒の縞がついているんだな。」
ぷかりぷかりちがうタイプのパイプをふかす
アフリカの黒人の男たちは知っている―
「シマウマっていうのは黒馬で
白の縞がついているんだ」と。
彼のような人が、国語の先生になってくれたら
子どもたちはどんなに日本語を誇りに思うだろう。
母国語に誇りをもてることこそ、教育の原点ではないだろうか・・・ふとそんなことを考えながら、彼のあくなき語学への興味・探究心はきっと、あの「ダーリンは外国人」のダーリン、トニーさんに通じるものがあるよなぁ、きっとふたりは気が合うに違いない、などと勝手に想像していた。
と、その瞬間、まさにそのトニーさんが部屋に入ってきて死ぬほど驚いた。
日本語ぽこりぽこり
アメリカ、ミシガン州出身のアメリカ人にして“詩人”、アーサー・ビナードさんによる講演だ。
アーサーさんは学生時代にミラノでイタリア語を1年半ほど学んだのち、インド南部でタミル語に5ヵ月間「没頭」。その後アメリカに戻り卒論を書いているときに漢字にたまたまふれる機会があり、文字の魅力にひかれて日本語学習を始めて来日・・・という完全なる「語学オタク」。
『日本語ぽこりぽこり』で第21回講談社エッセイ賞受賞(2005年)、詩集『釣り上げては』で中原中也賞受賞(2001年)するという、れっきとした“日本語の詩人”である。
1990年に来日されてからの日常を、ユーモラスにお話いただき、私たちはすっかりと彼の軽妙な語りに引き込まれていった。
特に感心したのは、さり気なく話題を変えながらも講演が終わってみるとそれらがすべて一本の線のように結ばれていたことだ。
美しい日本語の選び方もさることながら、1時間という限られた時間の中で計算されつくした美しい話の運び方にすっかり舌を巻いた。
来日当初、池袋の小さなワンルームアパートで暮らしていた彼が最初に覚えた日本語は毎日のようにやってくるあの、「竹や~さおだけ~」。
そのフレーズのみならず、さお竹を車で売りに来るという文化に衝撃を受けたそうだ。
そのうち「2本で1000円、20年前からお値段は変わっておりません」という“語り”もすっかり覚えた。で、何年かのちにはたと気づいた。
「待てよ。ボクが来て5年たつのにまだ“20年前”と言っているのはおかしいじゃないか。25年前じゃなきゃ」
そして、さお竹屋は今でも堂々と「20年前と・・」を繰り返している。私たちにはどうでもいいようなことを、彼の感性は鋭くチェックしていて、それがとてもおかしい。
近所の古い商店街をこよなく愛し、店主と立ち話をしながら日本の文化をいろいろと教えてもらうのが大好きだという彼は、近所に大きなスーパーができた今でも買い物は商店街と決めているそうだ。
「ボクは商店街に“魚”を買いに行くんです。スーパーには“死体”を買いに行く」
話の中でビナードさんは、あるステキな詩を朗読してくれた。
“Zebra” Gavin Ewart
White men in Africa,
Puffing at their pipes,
Think the zebra's a white hourse
With back stripes.
Black men in Africa,
With pipes of different types,
Know the zebra's a black hourse
With white stripes.
“シマウマ” ガヴィン・ユアート(アーサー・ビナード訳)
ぷかりぷかりパイプをふかす
アフリカの白人の男たちは思う―
「シマウマっていうのは白馬で
黒の縞がついているんだな。」
ぷかりぷかりちがうタイプのパイプをふかす
アフリカの黒人の男たちは知っている―
「シマウマっていうのは黒馬で
白の縞がついているんだ」と。
彼のような人が、国語の先生になってくれたら
子どもたちはどんなに日本語を誇りに思うだろう。
母国語に誇りをもてることこそ、教育の原点ではないだろうか・・・ふとそんなことを考えながら、彼のあくなき語学への興味・探究心はきっと、あの「ダーリンは外国人」のダーリン、トニーさんに通じるものがあるよなぁ、きっとふたりは気が合うに違いない、などと勝手に想像していた。
と、その瞬間、まさにそのトニーさんが部屋に入ってきて死ぬほど驚いた。
日本語ぽこりぽこり