蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

あなたの本

2024年03月10日 | 本の感想
あなたの本(誉田哲也 中公文庫)

ミステリ風、SF風の味わいの多い短編集。

表題作は、父の残した本に自分の人生の経緯が記載されていることを発見した男の話。彼はその本の先を読むことを恐れる。もしかして同じような設定の小説がほかにもあるのかもしれないが、私としては初体験だったので、とても面白く読めた。ただ、オチはちょっと軽すぎるかなあ、もう一捻りほしかったところ。

その他の収録作も、設定は興味深くて、かつ「これからどうなるの?」感が強い展開部もいいのだが、最後がイマイチかなあ、というものが多かった。まあ、短編だからといって結末の意外さばかりを求めてはいけないのだろうけど。
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春の海

2024年03月10日 | 本の感想
春の海(宮城道雄 岩波文庫)

箏などの和楽器の演奏家で作曲も描けた宮城道雄の随筆集。

著者は、幼い頃に視力を失い、以来、箏や三味線などの修行を積み、当代一の演奏家となって、「春の海」などの作曲でも名を馳せた(そうである)。

視力に障害があることを嘆くような記述は一切なく、聴覚と触覚などの残された感覚を使って、音楽や生活、内田百閒や水谷八重子などとの華やかな交際をこなしていく。
筆致はどこまでも軽快で、戦中に疎開した経験を記したような箇所においても、どこかユーモラスな雰囲気を帯びている。

出色は「四季の趣」で、聴覚で季節の味わいを表現した内容は、何度読み返しても、ふんわりと気分を高揚させてくれる。
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獲る 食べる 生きる

2024年03月10日 | 本の感想
獲る 食べる 生きる(黒田未来雄 小学館)

NHKの「ダーウィンが来た!」などのディレクターをしていた著者は、狩猟を始め、単独で狩猟区に入り鹿を撃ち、やがて念願のヒグマを仕留めた・・・という話。

マタギの手記などを何冊か読んで、これもその手の本かな、と思って読んでみたが、猟をテーマにしているだけで私の想像していた内容ではなかった。

マタギの手記(や聞き書き(は、職業(の一つ)として猟をしている点に魅力があり、淡々とした、しかし素人から見るとマニアックな描写に興味をひかれることが多い。

本書では、やたらと猟で仕留めた鹿や熊を自分自身で食べていることが強調されているが、どうにも言い訳じみているし、ヒグマの母子を撃った場面の自己正当化?はとても大げさに響いた。猟を仕事にしている人は、そんなこと言わないよね。獲物を仕留めないと生活が成り立たないのだから。

著者にとっては、猟は趣味(あるいはそれ著作活動をするためのネタ)であって、どこまでいっても生業でないところにウソくささを感じてしまう。
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リバー

2024年03月03日 | 本の感想
リバー(奥田英朗 集英社)

群馬県と栃木県の両方の渡良瀬川河畔で若い女性の連続殺人・死体遺棄事件が起きる。場所や手口が10年前の未解決連続殺人とほぼ同じだった。群馬・栃木県警は警察のメンツにかけて捜査に乗り出す。心証は真っ黒の期間工が別件逮捕されるが、物証は皆無で全く供述を得られない・・・という話。

犯人捜しの要素はとぼしくて、警察小説という傾きが強い。刑事や元刑事たちが主役だが、容疑者(サイコパスの池田がいい)やその周囲の人物(特に期間工の恋人のスナックのママ:吉田明菜がいい)、マスコミ(新米事件記者の千野がいい)、オタクっぽいが有能な心理学者、10年前の事件の被害者の父、といった脇役も皆魅力的で、600ページ以上の長丁場もあまり気にならなかった。

一方で、600ページも読んできたのだがら、ラストでもう少しカタルシスがあった方がよかったかな、とも思った。(たぶん、類型化を恐れて、わざとそういう筋立てを回避しているような気もするが)
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