蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

剣嵐の大地

2021年12月13日 | 本の感想
剣嵐の大地(ジョージRRマーティン ハヤカワ文庫)

中原(そういえば、この言葉本作には登場しないな。河間平野のあたり)では、ブラックウォーター会戦の戦後処理が進められ、タイウィン公が実権を握る。ジェイミーとブライエニーの旅は(アリアの旅と交錯しつつ)終わるが、ジェイミーは右腕を失ってしまう。
ロブはフレイ家との約束を破って勝手に結婚してしまい、キャトリンと対立する。
ジョンは壁の向うで野人と暮らすがやがて戻りマンス・レイダー率いる野人軍団と戦う。
デナーリスは自由都市を次々攻略するが、側近との距離ができてくる。
ティリオンは、ジョフリー王殺しの疑いで裁判にかけられる・・・あたりまでの話。TVシリーズだとシーズン4くらいまでで、そちらを見た後に読んだ。

登場人物がてんこ盛り(人物紹介だけで何十ページを要する)の複雑すぎる話なのに、映像化はかなり忠実にされてるなあ、と読むたびに思う。もちろん、異なる点もいっぱいあって、本書を読んで最高のサプライズは最後のエピローグでの話だが、これはテレビシリーズではなかった。
あと、テレビでは悪者の親玉クラスにのし上がって?きたラムジーは、ほとんど登場しない(これから出てくるのかもしれんが)。

本書で一番印象に残ったのはピーターの故郷(フインガーズ)でのエピソード。諸悪の根源(実際お話の中ではそういう人だが)のようなピーターの裏側を語って(ちょっとイイ話系という嫌らしさはあるものの)物語に深みを与えてくれたように思えた。これもテレビシリーズではなかった。(というか、ピーターがなぜキャトリンにご執心なのか、テレビではよくわからないと思う。そういえばエピローグの話がピーターにどう影響してくるのだろう?)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

歌の終わりは海

2021年12月10日 | 本の感想
歌の終わりは海(森博嗣 講談社)

高名な作詞家:大日向慎太郎の妻:聖美は、夫の浮気調査を探偵の小川令子に依頼する。令子は助手?の加部谷とともに慎太郎の豪邸を監視するが、浮気の兆候は全くない。そのうちその豪邸内で(敷地内の別棟で同居していた)慎太郎の姉の死体がみつかる、という話。

森さんの小説のうち、スカイ・クロラシリーズと自伝的内容のものは面白かったのだが、本家のミステリはどうにも性が合わなくて、いつも読んだことを後悔する。
それなのに本作を読んでみようと思ったのは、本屋でプロローグ(慎太郎の生い立ちが要約されている)を読んだら私好みの内容に思えたから。しかし、有体に言って、最後まで読んだ後、後悔した。

生き続ける意義と死の位置付けがテーマだと思うが、そのテーマに対する答も姉の死の真相も、読者の想像にお任せします、みたいなのはエンタテインメントとしてどうかな、と思う。著者ほど多作だと、形式的な謎解きやありきたりのエンディングは飽き飽きしているのだろうけど。

事件そのものより、ほんのちょっとだけ描写される女性の探偵二人の生き様みたいなものの方が興味深かった。後から知ったのだが、本作は小川令子が登場するシリーズものとのこと。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やさしい猫

2021年12月09日 | 本の感想
やさしい猫(中島京子 中央公論新社)

奥山マヤの父は病死し、保育士の母(ミユキ)と二人暮らし。ミユキは、震災ボランティア先で知りあったスリランカ人のクマラと近所の商店街で再開する。クマラは就職難のスリランカから日本に来て自動車整備工場で働いていた。やがて二人は結婚することになるが、直前にクマラの勤務先が廃業しオーバーステイ状態となってしまう。これを解消しようとして入管に申請にいこうとしたクマラは職質を受けて逮捕され収容されてしまう・・・という話。

入管での収容は(帰国しない限り)無期限で、5年以上収容されている人もいるそうである。日本に知り合いとかがいても出所(仮放免)はかなり困難とのこと。
こうした知識は本書で始めて得た。
海外から働きに来ている人が何百万人もいる国でこうした扱いはひどいなあ、というのが率直な感想だが、本書は収容される側の視点で書かれているので、管理する側にはまた違った言い分があるのかもしれない(悪質な入国者もいる、とか)。

こうした入管に関する知見を得られることは本書の魅力の一部分に過ぎない。
クマラさんを出所させようとするミユキやマヤ、マヤの友人で博識のナオキ、弁護士の恵などのキャラクタが立っていて、
父がいないマヤとクマラの交流、BL系のナオキとマヤの微妙な関係、クマラの出所をめぐる裁判(特に訟務検事が弾劾証拠を提出するあたりが盛り上がる)などのストーリー展開もとてもいい。
年に1回か2回くらい巡りあえる、読むことができて本当によかったと思える小説だった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

廃都の女王

2021年12月06日 | 本の感想
廃都の女王(グイン・サーガ137 五代ゆう ハヤカワ文庫)

続編シリーズ第7弾。ザザとウーラに導かれてスカールとスーティはフェラーラに赴く。グインが訪れた頃は栄えていたフェラーラはキタイ兵に破壊され女王リリト・デアとごく一部の住民が廃墟の神殿に潜んでいるだけだった。スカールは打開策をさぐるが・・・という話。

主に外伝で登場したフェラーラの後日談という感じで序盤は盛り上がらなかったが、グインとスカールがカギを握る世界生成の秘密の謎解きがちょっと進むなど、続編シリーズ特有のいきなりのドラスティック?な展開で、けっこう面白かった。

後半は、ヴァレリウスとその弟子志願のアッシャの会話が延々と続くのだが、これも栗本本編でもよく見られたもので、これが退屈という人もいたようだが、私にとっては魅力の一つだったので、こちらも楽しめた。

ところで、続編シリーズの刊行が1年以上止まってしまっているようだ。不人気のせいなのか、著者の具合が悪いのか原因はわからないが、ちょっと心配だ。
ついに「豹頭王の花嫁」を読める日は訪れないのだろうか??
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

同志少女よ、敵を撃て

2021年12月02日 | 本の感想
同志少女よ、敵を撃て

1942年、故郷の村がドイツ兵に襲われたセラフィマは救助に現れた赤軍兵のイリナにスカウトされて狙撃の訓練を受ける。
セラフィマは、同時期に訓練を受けたシャルロッタ、アヤ、ヤーナと小隊を組織し、イリナに率いられて、スターリングラード、ケーニヒスベルクと転戦し目覚ましい戦果をあげる・・・という話。

独ソ戦をドイツ側から描いた小説はいっぱいある。しかしソ連側から描いた作品は、(翻訳を含めて)少なくとも日本ではほとんどみかけない。数少ない例外として「卵をめぐる祖父の戦争」がある。これがとても素晴らしい作品だった。

本作は早川の小説賞を受賞した作品で、華々しい宣伝文句といっしょに書店に並んでいたので珍しくすぐに買って読んでみた。

さすがに「卵をめぐる・・・」にはかなわないが、ミリタリー小説としても読んでも破綻がなく、
タイトルに表象されるテーマ「ソ連の女性兵士は何と戦っていたのか」や、
非常に危険な兵種なのに孤立しがちな狙撃兵の悲哀
が追求されていて読みごたえがあった。

実在の人物リュドミラ・パヴリチェンコを絡ませたのもよい効果をあげていたと思う。

セラフィマや小隊のメンバーのキャラがいわゆる”ガールズ”っぽいノリなのがちょっと残念かな?
もしかして狙いなのかもしれないが、もうちょっとハードボイルドな方が私としては好み。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする