蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

やさしい猫

2021年12月09日 | 本の感想
やさしい猫(中島京子 中央公論新社)

奥山マヤの父は病死し、保育士の母(ミユキ)と二人暮らし。ミユキは、震災ボランティア先で知りあったスリランカ人のクマラと近所の商店街で再開する。クマラは就職難のスリランカから日本に来て自動車整備工場で働いていた。やがて二人は結婚することになるが、直前にクマラの勤務先が廃業しオーバーステイ状態となってしまう。これを解消しようとして入管に申請にいこうとしたクマラは職質を受けて逮捕され収容されてしまう・・・という話。

入管での収容は(帰国しない限り)無期限で、5年以上収容されている人もいるそうである。日本に知り合いとかがいても出所(仮放免)はかなり困難とのこと。
こうした知識は本書で始めて得た。
海外から働きに来ている人が何百万人もいる国でこうした扱いはひどいなあ、というのが率直な感想だが、本書は収容される側の視点で書かれているので、管理する側にはまた違った言い分があるのかもしれない(悪質な入国者もいる、とか)。

こうした入管に関する知見を得られることは本書の魅力の一部分に過ぎない。
クマラさんを出所させようとするミユキやマヤ、マヤの友人で博識のナオキ、弁護士の恵などのキャラクタが立っていて、
父がいないマヤとクマラの交流、BL系のナオキとマヤの微妙な関係、クマラの出所をめぐる裁判(特に訟務検事が弾劾証拠を提出するあたりが盛り上がる)などのストーリー展開もとてもいい。
年に1回か2回くらい巡りあえる、読むことができて本当によかったと思える小説だった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする