蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

闘う君の唄を

2020年11月14日 | 本の感想
闘う君の唄を(中山七里 朝日文庫)

幼稚園教諭の凛は埼玉県の田舎の幼稚園に赴任する。その園では昔、送迎バスの運転手が複数人の園児を殺害するという事件があり、それ以来父母会に頭が上がらなくなり、園の教育方針にまで介入するようになっていた。凛はそんなモンペたちに苦しみながらも独自の方法論で次第に信頼を獲得していくが・・・という話。

ミステリというよりお仕事小説という感じで、実際中盤までの凛先生の活躍ぶりの方が面白くて、ミステリ部分は平凡で無理筋な感じだった。
タイトルや副題は「ファイト!」から取ったもので、中島みゆきファンがみたら手に取らざるをえない。ちょっとずるいなあ。
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絶対に挫折しない日本史

2020年11月14日 | 本の感想
絶対に挫折しない日本史(古市憲寿 新潮新書)

人名や事件、年号を極力排して歴史の大きな流れを叙述することを目的とした解説本。

第一部の通史編は、平凡な感じだったが、第二部のテーマ史編は面白かった。

コメ編→コメが主食になったのはせいぜい100年前で、イメージほどの伝統食ではない。コメの消費量は減少しつづけており、糖質を敵視?する風潮からもその未来は明るくない。

神話編→神話は時の権力者によって都合よく利用されるが、明治維新で(天皇を国の中心に据えた)日本は古代を参照せざるをえなくなり、古事記や日本書紀がリバイバルした。

土地編→これが一番面白かった。タイムマシンで大昔に行ったのび太の例え話がわかりやすい。年貢を納めるということにより保護者が明確になるので、年貢も悪いことばかりではなかった、という見方が新鮮だった。

家族編→家族を作る動物は人間だけ。江戸時代、平和で豊かな社会になって(それまでキリスト教社会に比べれば高かった)女性の地位が低下した。一方で大都市江戸は男性の数が圧倒的に多く男色が流行した。

戦争編→徳を失った王朝は滅ぼしていいという易姓革命が否定された日本では天皇家を存続させ他国に比べて大規模な戦争は少なかった。

歴史語り編→多くの紀記が散逸した中で日本書紀や古事記を今でも読めるのは、特定の個人や家の努力があったから。アーカイブが溢れる現代を分析する未来の歴史学者は史料の多さに困ることになるだろう、と著者は予想している。でも電子データって紙より簡単になくなっちゃいそうだけどなあ。
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最後の紙面

2020年11月14日 | 本の感想
最後の紙面(トム・ラックマン 日経文芸文庫)

アメリカ人富豪のオット家がローマに設立した新聞社は、国際紙を発刊してそれなりの地位を築いてきた。しかし創業者の息子、孫とオーナーが移るにつれてしだいに新聞社経営の熱意は薄れていく。記者、訃報欄の担当者、校正係、報道部長、編集主幹などを主人公にして、傾いていく新聞社の行方を描く短編集。

それぞれの短編にオチがついていて、主人公にとって暖かくやさしい結末となるものもいくつかあるのだが、大半が苦い結末になっていて、時には残酷すぎるというか、「それはないだろう」といいたくなるようなラストのものが多い。

私にとって特に厳しく思えたのは報道部長メンジーズが主人公のもの。若く才能豊かな妻が浮気する話なのだが、最後の1行で見事に甘い結末を期待していた読者をたたきのめしてくれる。

新聞社の最後のオーナー:オリバー・オットを描いた最後の短編も救いがない結末だった。

まあ、メンジーズの話もオリバーの話も予想通りといえばその通りの筋。しかし、読者の機嫌をとるような?甘いエンディングに慣れてしまった私のような読み手にはなんともビターな物語だった。
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昆虫こわい

2020年11月14日 | 本の感想
昆虫こわい(丸山宗利 幻冬舎新書)

昆虫学者の著者が、研究のためにアフリカや東南アジアの国々を訪れた際の経験を記した旅行記。採集・撮影した昆虫の紹介も多数。

ベストセラー級に売れた「昆虫はすごい」はかなり真面目路線だったが、扉の著者近影のヘンテコな表情から想像できるように、本書はハメを外して思いのままに綴られており、面白く読める。
文末が「楽しい」「嬉しい」で終わっていることが多い。海外で新種や未見の昆虫を見つけるたびそういう感想が述べられている。多分、研究費を使って渡航していると思うので、ここまで本音で書いちゃって大丈夫なのだろうか?と、思えるほど。
ポケモンのようなゲームでさえ、見知らぬモンスターを発見すると嬉しくなるのだから、現実世界で似たような体験をするとゲーム内とは比べものにならないくらい感動するだろう、と想像はできるが、それにしても無邪気なまでに「楽しい」「嬉しい」を連発されると、読んでいる方もなんとなく嬉しくなってくるから不思議だ。
職業を道楽化することが人生最大の幸福だ、と喝破した人がいたが、著者こそこの言葉にぴったり当てはまっているのでは?と思えた。
本書で紹介されているツノゼミの形態は素人目にもバラエティに富んでいて興味深かった。次は(著者が同じ)ツノゼミの本を見てみようと思う。
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