蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士

2019年12月15日 | 本の感想
デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士(丸山正樹 文春文庫)

元警察事務官の荒井は、警察の裏金作りを告発して退職に追いやられる。唯一の特技といえる手話を生かして手話通訳士の仕事をしている。警察にいたころ、手話ができることからろう者である殺人事件の容疑者(門奈)の尋問や面会に立ち会わされる。その17年後にその事件の被害者の息子(能見)も殺害される。そしてまたもや門奈が容疑者となるが、荒井は17年前の面接時にいたはずの門奈の次女が存在していなかったと言われたことに違和感を抱く・・・という話。

手話には「日本手話」(手指の他に表情や頭の動きも加えて伝達する手話)と「日本語対応手話」(一つ一つの言葉に手指の動きをあてはめていく手話。通常手話というとこちらを指している)があるそうで、ろう者の方にとっては「日本手話」は言語に近く、感情も含めた豊かな内容を伝達できるらしい。

荒井はコーダ(両親がろう者である子供)ながらろう者ではないため、子供のころから親の通訳を日本手話で務めたために、今でも日本手話がうまい、という設定になっている。

こうした“ろう者の世界”みたいなものを紹介した序盤は非常に興味深かった。中盤ちょっと間延びした感じだったのが、最後になって事件の真相があきらかにされる過程は非常に感動的に変わり、終盤はまさに一気読みさせられる。

単行本が出たのは2011年なのだが、最近書店で文庫の平積みをよく見かける。再評価にふさわしい、ミステリとしてもろう者の世界?の入門としても非常によくできた作品だと思う。
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サラリーマン球団社長

2019年12月14日 | 野球
サラリーマン球団社長

先週号(2019年12/12号)の週刊文春から清武英利さんの「サラリーマン球団社長」というタイトルのノンフィクションの連載が始まりました。おお、満を持して持してジャイアンツの、そして「清武の乱」の内幕を語るのか、と思って読み始めたら、どうも対象はタイガースとカープの社長のようでした。

「えー、巨人の話をしてよ」と最初は感じたのですが、第一回を読んだだけでもとても面白そうな話になりそうでした。
全国的には「阪神」といえば「タイガース」のことなのですが、(当時親会社の)阪神電鉄から見ると、タイガースは一事業部門に過ぎず、マスコミにもみくちゃにされることもあってタイガースの幹部になることは阪神電鉄グループ内では左遷に近いイメージだったとのこと。系列の旅行会社の営業のエースだった野崎さん(のちの球団社長)もタイガースに異動するときはイヤイヤだったみたいです。

清武さんって、強化方針を大きく変更するなど、現場トップとしての水際だった手腕(実際、この育成路線を続けていたらジャイアンツはダントツの存在になっていたでしょう)からして、もともと野球に詳しい人(スポーツ記者とか)かと思っていたのですが、ジャイアンツから放逐された後で出した本(で最初にベストセラーになったの)は破綻後の山一證券を描いたもので、(私にとっては)とても意外でした。
でも、もともと読売新聞の社会部の敏腕記者だったんですね。
その「しんがり」の後も何冊もベストセラー級の著作をものにしているので、プロ野球マニアしかその存在や業績を知らないような球団スタッフをしているより、いろんな意味でで良かったんじゃないかと・・・まこと人生は塞翁が馬。

そして連載第二回では「第一回を読んで、大半の読者は巨人時代の話がないのを残念におもっているだろうな」と見透かして、さっそく冒頭で本筋とは関係ないサブローのトレードの真相?を綴っています。

マリーンズファン以外はもう忘却の彼方でしょうが、2011年のサブローのトレードは衝撃的でした。日本一になった直後にチームの主力選手と、どうみても釣り合わない選手の交換トレードで、当時は陰謀説も含め真相を詮索する向きも多かったのです。清武説によれば、理由はしごく単純。日本一になって選手の給料が上がってしまったことを懸念したろってのオーナーから経費削減を厳命された瀬戸山さん(マリーンズを含めいくつかの球団社長を務めた辣腕の人)が泣く泣く高年棒のサブローを放出せざるを得なかった、ということらしいです。
(巨額の宣伝費を使うロッテグループから見たら10億~20億円の赤字なんかたいsたことないだろ、なんて思えるのですが、重光さん(オヤジさんの方)は厳しかったんですね。球団が黒字化したとたん戦力補強に積極的になったのもうなずけるところです)

これからも、こうしたサービス?も含めてますます面白くなりそうな連載に期待したいです。
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米中もし戦わば

2019年12月03日 | 本の感想
米中もし戦わば(ピーター・ナヴァロ 文春文庫)

現アメリカ大統領の補佐官が著者と聞くと、エクセントリックな内容が想像されるところですが、本書の内容はそれなりに論理的で、ソースが多少偏っているような気がするものの学術的な裏付けもあるマトモな本でした。なお、実際の戦闘のシミュレーションをするかのような邦題ですが、そういう内容ではありません。

世界の製造業の太宗を占めるまでに発展した産業力と、そこから得た資金力をもってすれば、現時点では圧倒的な米軍を脅かすような軍事力を、近い将来中国が保持するだろう、
ハイテク分野でも他国からの剽窃を含めてすでに十分な競争力をもっている、
などというのは誰もがぼんやりと抱いているイメージだとは思うのですが、これでもか、と何度も著者に叩きつけられると、読者の方も切迫感が湧いてきます。

東アジアの米軍基地の無防備さ(飛行機が露天で駐機しているこか)も何度も強調されるところで、空母戦闘群や基地は非対称兵器(破壊対象に対して非常に安価な兵器。空母に対する中距離ミサイルなど)によって簡単に無力化される恐れがあるというのも、うなずけるところです。そして、空母のような象徴的な兵器が破壊されたりすると(国内世論が沸騰するなどして)エスカレーションが止められなくなるのが非常に危険だという指摘もなるほど、と思えました。

冷戦下でも米ソ間には対話チャネルが豊富であったことが破局を招かなかった一つの原因であるとの指摘もありました。これに対して米中間にパイプらしきものが乏しく、人民解放軍の実権を本当に握っているのか誰なのか外部からはうかがえないことと合わせて不気味な感じです。


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マイ・プレシャス・リスト

2019年12月01日 | 映画の感想
マイ・プレシャス・リスト

キャリー(ベル・パウリー)はIQ185でハーバードを飛び級で卒業した才媛。しかし、他人とのコミュニケーションに難があり、フランクに話ができるのは父親が雇ったセラピストのペトロフのみ。ペトロフは年末にかけて6つの課題(ペットを飼う、デートをする、大晦日をだれかと過ごす・・・など)をこなすよう、リストを渡すが・・・という話。

うーん、キャリーが天才であるという設定がうまく活かされていないように思える。
ただの小説好きのオタクみたいな感じだ。
キャリーの宝物が昔父親から買ってもらった「フラニーとゾウイー」というのはとても素敵なのだが。

キャリーの恋物語ともいえず、父親との家族の絆の話ともいえない、どっちつかずで中途半端な感じだった。
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