蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

チャイルド44

2009年01月02日 | 本の感想
チャイルド44(トム・ロブ・スミス 新潮文庫)

実話をヒントにしたミステリ。1950年代のソ連各地で子供の連続殺人事件が起きる。
ソ連では、理想の社会が建設されているという前提のもと、凶悪犯罪は存在しないというタテマエがあった。従って殺人らしい事件があっても、事故や病気とみなしてしまうことが多かったという。ましてや子供を狙った連続殺人なんて、“ありえない”事態であった。

独ソ戦のヒーローで、KGBの前身組織・国家保安局のエリートである主人公は、同僚のジェラシーをかってそのワナにはまって地方警察に追放される。そこで“ありえない”事件が起きているのを察知し、身の危険を顧みず、犯人をさがす。

著者略歴を見ると、ドラマの脚本などを書いた経験がある人のようで、けっこう込み入った筋で、暗鬱なソ連社会を背景にしながら、50ページに1回くらい小さな山場を作って読者を飽きさせない。また、上巻冒頭のすさまじい飢餓状況の描写は一気に読者をひきつける効果があったと思う。

そういったテクニカルなうまさ(ただ、終盤はご都合主義的な展開になるのがちょっと残念)を除いても、隣人や友人の密告を常に恐れなければならず、ちょっとした油断が人生の終焉を意味してしまった閉塞社会の描写が恐ろしくリアルで、読み応え満点。各種ランキングの上位を占めるのも十分理由があることだと思う。

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