蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

僕が殺した人と僕を殺した人

2020年07月18日 | 本の感想
僕が殺した人と僕を殺した人(東山彰良 文春文庫)

主人公のユンは13歳の中学生、幼馴染のアガンやジェイとつるんで不良っぽく振舞う毎日。ユンは教育熱心で神経質な母親が、アガンは怠け者で浮気性な父親が悩みのタネだったが、ジェイの継父からの暴力はもっと深刻だった。ユンとアガンはジェイの継父の殺人を計画するが、その内容は中学生が考える程度の杜撰なもので・・・という話。

タイトルを見るといかにも叙述トリックのミステリっぽい。確かにそれに近い筋立てもあるのだが、それは軽い味付け程度で、ユンとアガン、ジュイの友情が物語の中心。中学生にしてはマセすぎだろ、と思うものの、台湾の熱帯性の暑さが想起されるような濃密な絆を感じさせてくれる。

著者の著作を読むのは3作目で、いずれも台湾を舞台とするもの。モチーフもよく似ている。「流」もとてもよかったが、ノーマル?な恋愛ものだった。本作は(多分)濃厚なBL系恋愛がテーマであったが負けず劣らずの出来だ。
「流」は直木賞をとったことでとても有名になったが、本作の3つの文学賞を受賞しているとのこと。そのわりに評判になってなかったなあ(私が知らなかっただけか?)。内容からしてももっと評価が高まるべきだと思うのだけれど。
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ブロックチェーン革命

2020年07月18日 | 本の感想
ブロックチェーン革命(野口悠紀雄 日本経済新聞出版社)

インターネットが一般人にも普及しはじめたころ、電話回線でパソコン通信を楽しんでいた私は(世間の多くの人と同じく)「そんな信頼性の低いものが普及するわけないよな」と思っていた。
実は信頼性の低さとそれを補う様々な工夫こそがインターネットのキモだったわけだが、インターネットの発展を予言していた著者(これは、そのころ確かにエッセイで読んだ記憶がある)は、そうしたインターネット懐疑論と同じことが現在のパブリックブロックチェーンにも発生しているとする。
そういわれると、ブロックチェーンへの批判の中心はセキュリティの低さ、あるいは得体の知れなさにあるわけで、著者の主張がもっともらしく思えてくるのだった。

ブロックチェーンは管理者がいないのに改竄が非常に難しい。
従来は信頼性が高い組織(例えば政府や銀行)が管理していないと信頼できず、そのために運営コストが高くなっていたのだが、パブリックブロックチェーンならほぼコストなしで(資産などの)移転記録と保管ができる。これは、インターネットでは難しかった経済的価値の移転ができることを意味し、通貨や金融に「革命」を起こす、というのが本書の主張。
ここまでは、納得できるのだけど、さらにDAO(経営者がいない企業組織)にまで発展していくと言われると首をかしげざるをえないのだが、本書によるとそれはすでに実現しているのだという。
うーん、インターネットの時と同じことが起きるのか?

ただ、著者も懸念しているが、ブロックチェーンでも既存の組織が運営する(プライベートブロックチェーン)のでは意味が薄くなってしまう(社会的コストが低下しない、人が介在しない自律的な運営でなくなる→社会をフラット化させるといわれたインターネットが、かえってGAFAMに代表される少数者に支配される社会を導いてしまったようになる)ということで、こちらもすでに現実化しているのも事実だ。
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進化のからくり

2020年07月18日 | 本の感想
進化のからくり(千葉聡 講談社ブルーバックス)

著者は遺伝に関する研究者で、本書でも進化に関する解説は登場するが、研究者としての日常や研究チームのこぼれ話が中心。

投稿論文の査読過程(掲載されない場合の慰め?のコメント、同分野のライバルの論文が先に掲載された時の焦り、10年の精進?の末に掲載決定、とかが興味深い)、
マイマイ(カタツムリ)の楽園:小笠原がフィールドワークの達人のアンガス(研究者とは思えないタフガイ)との冒険行などが面白かった。

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