蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ザ・万字固め

2016年08月17日 | 本の感想
ザ・万字固め(万城目 学 文春文庫)

著者の小説は一つも読んだことがないのだが、朝日新聞の土曜版に連載されていた食に関するエッセイ連載(本書に収録)がとても面白かったので、本書の前作「ザ・万歩計」を読んでみたところ、これまた良かった(特にモンゴルの旅行記がよかった)ので、本書を購入した。

冒頭の「ナチュラル・ボーン」がいきなり良い。人間の骨に興味を持つ受験生が日本で唯一骨の研究をしている東大に8浪して入学する話。どうも作り話っぽいが、それでも面白かった。

冒頭で述べた新聞連載の中では、特に浜松?での鰻の話とモンゴルでのミルクティーの話がいい。

ギリシャの島々への旅行記(島をカブで走り回る話)は、景色の描写が素晴らしい。

そして、極め付きは「やけどのあと」。著者は配当目当てに東電株を1000万円分くらい買うが、その直後に東日本震災が発生して、東電株は大幅な値下がりを見せる。納得できない著者は株主総会に出席するが、かえって不条理感を強めるだけに終わる・・・という話。うーん、普通の人なら絶対表沙汰にしたくなさそうなこんなプライベートな話までネタにしてしまうなんて・・・作家の業というものでしょうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

帳簿の世界史

2016年08月17日 | 本の感想
帳簿の世界史(ジェイコブ・ソール 文芸春秋)

複式簿記が、企業会計のみならず、国家財政の記録と財政状態の把握に果たした役割を様々な例をあげて検証する内容。

「会計が文化の中に組み込まれていた社会は繁栄する、ということである。ルネサンス期のイタリアの都市ジェノヴァやフィレンツェ。黄金時代のオランダ。18世紀から19世紀にかけてのイギリスとアメリカ。本書で取り上げたこれらの社会では、会計が教育に取り入れられ、宗教や倫理思想に根付き、芸術や哲学や政治思想にも反映されていた。」(334P)
というのが本書の主張。

本書の中核である“複式簿記の利点“の説明がほとんどないのがイマイチかな、と思った。多分、ある程度会計知識がある読者を想定しているためだろうが。

以下は、ど素人の個人的意見。
複式簿記の利点は(本書でも少々言及されているように)期間利益がある程度迅速・正確に把握できることにあると思うが、もう一つ、資本的支出と費用的支出の分別もあると思う。
そしていくら正確に帳面をつけていても、期間利益、支出の分別についての解釈に規律(保守性)がないと役に立たないどころか様々な害悪をもたらすこともある。

本書で紹介されたエピソードで印象に残ったのは、次の2点。
・スペイン全盛期の王:フェリペ2世は「その広大な領土に遠征することはほとんどなく、エル・エスコリアル宮殿に閉じこもって政務に精を出した。その執務室には膨大な量の書類や報告が運び込まれ、フェリペ2世は「書類王」と呼ばれたほどである。王は世界中から送られてくる報告書を読み、返事を書こうと努めたものの、書類の数は年間10万通以上にもおよび、とても人間業で処理できる量ではなかった。」(P117-118)

・2000年代、アメリカの大手会計事務所では(利益のあがる)コンサルティング部門が幅をきかせ、本来業務の監査は軽視されがちだった。これがエンロンやリーマンといったその後の様々な不祥事につながった。
「シカゴにあるアーサー・アンダーセンの本社を訪れた人は、監査部門が相変わらず冴えない地味なオフィスで仕事をしているのに対し、コンサルティング部門は立派な家具を据え付けた豪華なオフィスで働いているのを見て衝撃を受けたにちがいない。」(P324)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする