蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

森に眠る魚

2013年03月30日 | 本の感想
森に眠る魚(角田光代 双葉社)

「他人と比べることで人は不要な不幸を背負いこむ。学生のとき、容子はすでにそう悟っていた。それは容子のなかでまぎれもない真実だった。人は人。私は私。その線引きをしっかりさせて日々を送りたいと思っていたし、実際そうしてきた。けれど気がつけば、親しくなった人のマンションをこっそり見にいってしまうような自分がいる。そんなことはやめろ、やめろと思いはするのだ。みっともないと自覚もしている。けれど、彼女たちがどんなところに住んでいるのか知りたいと一度でも思うと、じりじりしてたまらなくなる。」
(単行本P118)

幼い子供を持つ母親が知り合い、自宅に訪問しあうほど仲良くなるのだが、子供の「お受験」をきっかけとして、子供の優劣や家庭・経済環境がお互いにに気になりはじめ、心理的追いつめられる母親も出てきて・・・という話。

いわゆるお受験殺人事件をモチーフにいた心理劇的小説。冒頭の引用部分のように、母親たちは互いに牽制しあい、自分より相手の子供の方が出来がいいのではないか、相手の方が裕福なのではないか、陰で私のことを謗っているのではなか、そんな疑心暗鬼にとらわれて自分で自分を追い詰めていく。

確かに、不幸は比較から始まることが多い。そうわかっていても、他人のあふれるような幸福には誰しも嫉妬を覚えるし、他人の不幸は蜜の味なのである。逆にそういったほの暗いジェラシーをエネルギーに変えて人間は進歩していくという面もあるのだろうが。

本書は賞を受けているし、角田さんの代表作の一つとされているが、「対岸の彼女」と違って重苦しさが最後まで続いてしまうし、「八月の蝉」と違って救いもなく、「最後まで読み通してよかった」という感じがどうしてもわかなかった。
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麒麟の翼(映画)

2013年03月30日 | 映画の感想
麒麟の翼(映画)

大手メーカの事業部長が日本橋の上でナイフで刺されて死亡しているのが見つかる。当初現場近くにいた(メーカをクビになったばかりの)男が犯人と疑われたが、その男は警察に追われて逃げるうちに車に轢かれて死んでしまう。加賀(日本橋所轄署の刑事)は被害者の息子が何等かの事情を知っているとみて、息子の周辺を調べ始める・・・という話。

有名な名所なのに、実際行って見るとガッカリ・・・というので代表的なのがシンガポールのライオンとデンマークの人魚姫(ともう一つは忘れた)と、聞いたことがあるが、この映画を見て日本橋の麒麟を見に行ったら同じ感じになってしまうのでは?と心配になった。仕事の関係でほぼ毎日日本橋を渡るので見慣れているせいもあるのだろうけど、映画ではロマンチックな雰囲気すら漂わせているけど、実際は・・・。

被害者が江戸橋近くの地下道(ここは昼間でもちょっと通るのを避けたくなるような風情の場所)で、刺された後、数百メートル離れている麒麟像まで移動したのはなぜか?というのが、謎解きの重要なキーになっているのだけど、映画の中では、ちょっと説明に説得力が乏しかったように思えた。

よく言えば伝統がある、悪く言えば古くさい日本橋周辺を舞台にしているので、全体にレトロなムードが漂う演出にしている感じだが、効果はイマイチかな、というところ。準主役の新垣さんの魅力が十分に出ていなかったのが残念。
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