蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ケルベロス 鋼鉄の猟犬

2013年03月13日 | 本の感想
ケルベロス 鋼鉄の猟犬(押井守 幻冬舎文庫)

1941年夏にヒトラーが暗殺されたという設定で、その後のスターリングラードを中心としたドイツ軍の戦いを、宣伝部隊の映画撮影班の日系女性監督マキの視線で描く。

ケルベロスというのは、ヒトラーによって設けられた儀礼用部隊「装甲猟兵大隊」のことで、対ソ戦では実戦部隊として前線に投入されていたことになっている。マキはこの部隊を映画の主役にしようとする・・・という話。

小説の大半が“ドイツ軍観光案内”といった感じで、装甲列車、列車砲、ミリメシ事情、シュトルムティーガー、シャルンホルスト等が詳しく解説される。特に、グスタフ、ドーラという名前の超巨大列車砲は、本書の主役ともいえるほど登場頻度と叙述量だ。

中盤までは、著者のうんちくを聞かされているだけの小説のように思えて、ミリタリー方面に興味がない人には苦痛だろう(もっとも、そんな人はこの小説を手にとったりしないか)し、マニア的知識を持つ人には退屈かもしれないが、私のような半可通程度の者にはけっこう面白かった。

それでいて、スターリングラードからの撤退戦を描いた場面は、物語としてもかなり迫力があって、シュトルムティーガーが大活躍し、最後には(まるで波動砲かソーラレイのような感じで)グスタフ、ドーラ、カールの集中砲火でソ連軍大部隊が壊滅するという軍事ファン垂涎?の場面も用意されていて、大いにカタルシスがあった。

ヒトラーがいないという設定は、あまり生かされていない感じだったが、ドイツ軍を描いた戦争シミュレーション小説としては、かなり上質なものだったと思う。
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