蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

奉教人の死

2008年11月02日 | 本の感想
奉教人の死(芥川龍之介 新潮文庫)

「切支丹もの」と呼ばれる、戦国時代後半の日本におけるキリスト教信者にまつわる作品を集めた短編集。

著者の、キリスト教信者や牧師、あるいは教会組織といったものに対する視線は、ずいぶん醒めているというか、冷たいものだなあ、と感じた。
切支丹の秘めた信仰とか殉教について同情的な物語だという勝手な先入観があったので、意外だった。

表題作は、主人公の信者をこそ美しく描いているものの、教会は冷酷な組織として登場する。
「黒衣聖母」とか「神神の微笑」は、信仰をいかがわしいものとして扱っているような気がするし、「おぎん」、「おしの」、(細川ガラシャを嘲笑的な視点で描いた)「糸女覚え書」に到ると、もはや反キリスト教といっていいほどの内容だった(と私は思った)。

「報恩記」は牧師こそ登場するけれど、本筋にキリスト教はあまり絡んでいなくて、3者の異なる視点から事件を描写する、「藪の中」みたいな構成になっている。ただし、「藪の中」とは違って、謎解きはとても明快で、上質のミステリとも言えると思う。
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