蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

トラや

2008年05月18日 | 本の感想
トラや(南木佳士 文藝春秋)

昔、あるお金持ちの自宅を訪問したことがありました。
お金持ちだけあって立派なお宅でしたが、猫を十匹以上飼っていらっしゃって、玄関をはいると独特のケモノくささがあって、廊下には猫の毛らしきものがチラホラ。
猫を飼ったことがないので、化け猫屋敷に来てしまったような気がして、立派なソファに座っていても何やら尻のあたりがムズムズしてきたような記憶があります。

本書は、パニック障害、うつ病を患った著者が、飼い猫のトラになぐさめを得て回復していく過程を描いています。
トラは、完全に家族の一員であり、寝るのはいっしょの布団だし、自立した息子たちも実家への電話でまず聞くのはトラの消息、といった調子。
「オレは猫といっしょの布団じゃ寝られないな~」と思ったが、冒頭の愛猫家のお金持ちのように長年飼っていると誰でもそうなってしまうのでしょう。

トラは安売りのペットフードだと見向きもしない、というのもけっこう驚いた。著者の家の軒先へエサを求めて集まった子猫たちは残飯でも何でも食べた、というエピソードが添えられていて、ぜいたくな環境に馴れてしまうのは人間と同じだなあ、と思った。

著者は医者なので、パニック障害やうつ病の恐ろしさ、患者としてのつらさが、とても分析的にわかりやすく表現されていた。描写がリアルなので、「オレも明日突然こうなるかも」と少し怖くなった。
コメント
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