蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

タブロイド

2007年11月01日 | 映画の感想
タブロイド

聖書などの書籍のセールスマンのピニシオは、よそ見運転で子供を轢き殺してしまい、現場から逃げようとしたと誤解されてリンチにあいます。その様子を撮影していたテレビ・レポーターのマノロは、逮捕されたピニシオを拘置所内で接触します。
ピニシオは、マノロのチームが撮影したリンチ映像が放映されれば免責されると思い、マノロに「放映してくれれば連続児童殺人事件の犯人の情報を提供する」ともちかけます。
マノロはピニシオがその連続殺人犯本人であると確信し、彼に罪を告白させて大型スクープを獲得しようとしますが、インタビュウをするうち、ピニシオの巧みな弁舌に操られて主導権を握られてしまいます。

信心深い常識人に見えるピニシオが凶悪な連続殺人犯であるかもしれないというニ面性、マノロのジャーナリストとしての功名心と罪悪感のせめぎあい、など一見とっつきにくそうなテーマがわかりやすくコンパクトに描かれていて、さらにサスペンスとしての盛り上がりも十分あるという、映画を見ることの幸せを感じさせてくれる作品でした。

マノロは、特ダネを独占しようと、ピニシオが犯人であることの証拠を警察に明かしません。しかし、やがて証拠をかくしていたことを刑事にかぎつけられ、厄介に巻き込まれるのはごめんと、早々に出国しようとします。マノロのチームのメンバーは(すでに釈放された)ピニシオが犯人だと警察に証言すべきだと、当初は主張していましたが、いざ刑事が目の前に現れると、結局何も証言せず出国してしまいます。彼らも証拠隠滅に加担していたことに変わりなく、やはり面倒な事態になることを恐れたのです。
このシーンを見て私が連想したのは、少し前に発生した特急電車での暴行事件でした。車両内で乱暴されている人がいるのに周りの乗客は見て見ぬふり。車掌への通報すらしなかったそうです。
「じゃあ、お前がその場にいたら、何とかできたのか」と言われると言葉につまるものがあります。普通の人は、自分に災いが降りかかってきそうな気配が少しでもあれば、世の中や他人のために何かをしようとはしないものです。

このエピソードを含め、終盤は後味が悪いシーンが続きます。しかし、それもまた、映画の魅力でしょう。ピカピカのハッピーエンドの映画はすぐ忘れてしまいますが、この作品のように心の中におもりを残していくような映画は長く記憶にとどまるものです。
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