蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ブレイブストーリー

2006年12月07日 | 本の感想
ブレイブストーリー(宮部みゆき 角川文庫)

主人公の少年の父親は昔の恋人とヨリが戻って、少年と母親を捨てて家を出てしまった。母親は絶望し少年と心中をはかる・・・という現実世界の話が全体の三分の一くらいの分量をかけて語られる。(少年は人間の空想力が生み出した別世界「幻界」に君臨する女神に依頼すれば現実世界の状況を変えられることを知り「幻界」へひとり旅立つ。ここから先はRPGのお約束に忠実に従ったストーリー展開となって、この部分はあまりおもしろくなかった)

主人公の少年にふりかかった不幸は、世間のどこにでもある「ありふれた不幸」ではある。その渦中にある本人には非常に辛くて、そんな世をはかなんで命を絶つ人もいるわけだが、しかし、他人からみれば「よくあること」にすぎない。
「名もなき毒」の感想でも触れたことだが、そんな「ありふれた不幸」も宮部さんの筆にかかると、体験している本人のように、読者はその辛さ、絶望感を味わうことができる。

そんな絶望的状況にあった少年は、「幻界」の旅の果てについにめぐりあった女神に自分の家族の再生という当初の願いをかなえることを望まなかった。
「ありふれた不幸」はいつでも誰にでも起こる。その度に他人の力に頼っていては、自分の人生や運命を切り開いていくことはできないことに、旅の過程で気づいたからだ。
(以下、文庫下巻435ページより引用)
「そして、ようやくたどり着くことができた今、わかったんです。幻界の旅は、運命の塔というゴールにたどり着くことに、意味があったのではなかったと。この旅そのものが、僕にとってかけがえのないものだったと。この旅が、僕に教えてくれたのです。女神さまのお力にすがり、運命を変えることができようと、所詮それはひととき限りのものだ。僕はこれかも、喜びや幸せと同じように、悲しみにも不幸にも、何度となく巡り合うことでしょう。それを避けることはできない。ましてや、悲しみや不幸にぶつかるたびに、運命を変えてもらうわけにはいかないのです」
コメント
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