蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

イン・ザ・プール

2006年12月16日 | 本の感想
イン・ザ・プール(奥田英朗 文藝春秋)

不定愁訴、被害妄想、依存症、強迫神経症等に悩む人が、総合病院の神経科に治療に行く。
そこの医者(伊良部)は、大金持ちの医者の惣領息子だが、注射フェチで言動が常識はずれであるため、親が経営する総合病院の地下倉庫のようなところに押し込められて神経科を営んでいる。
患者は初めは伊良部の破天荒な治療(?)にあきれてしまうが、次第に彼を頼りに思うようになり、やがて治癒につながっていく。

“知る人ぞ知る”くらいの知名度だった著者を一気にブレイクさせた作品で、いまさら感想を書くのも気がひけますが、せっかく読んだので書いてみます。

小説家は、一人で部屋にこもって黙りこくったまま長時間根を詰めて行う仕事なので、精神的な疾患を抱えている人が多いようです。そのためか傍目には順風万帆に見えた人が自殺したりします。(最近では野沢尚さんとか)
奥田さんが書いたエッセイを2冊読んだことがあります。いずれもユーモラスな語り口なのですが、その陰に「この人は精神的に追い詰められているのではないか」と感じさせるものがありました。(ひとりよがりな印象にすぎませんが)

「イン・ザ・プール」では患者が、伊良部の滑稽な行動(たいてい患者のおかしな行動をデフォルメして再現している)を観察することで、自分の病気の原因や悩みを客観視できるようになり、それが治療となっています。
著者はこの作品を通して同じような症状に悩む、あるいは、そこまではいかないが「やがてこうなるのでは」と不安を抱えている読者に「あなたの病気(悩み)はそうたいしたもんじゃないよ」と呼びかけているのではないかと思います。そしてこの作品を書くことで、著者自身をもそのように納得させようという望みを持っていたのではないでしょうか。

私も強迫神経症(例えば、家を出た後、鍵をかけたか異常に気になり、家までもどって確認するまで安心できないような症状)気味なので、「いてもたっても」(この本の最後の短編)を読んで自分の不安のバカバカしさみたいなものが見えたような気がしました。
コメント
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