蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

オシムの言葉

2006年02月05日 | 本の感想
「オシムの言葉」(木村元彦 集英社インターナショナル)

オシムとは、JリーグのJEFユナイテッド千葉の監督の名前である。Jリーグ1部で最も低予算のチームを率い、低予算ゆえに毎年主力選手が引き抜かれていくにもかかわらず、就任以来、常に優勝争いに絡み、今年はクラブ初のカップ戦優勝も果たした。

その手腕もさることながらこの監督はそのユニークなコメントでも有名で、専門誌紙のみならず一般紙でも度々取り上げられている。私がこの監督のことを知ったのも朝日新聞の特集記事だった。

この本はその独特な発言を逐一解説したものではなくて、ユーゴスラビアという今はもうない国の出身でその全盛時のナショナルチームを率いた人物の、来日するまでの評伝が中心である。

国家が民族毎に分断される過程にあって、ユーゴのナショナルチームに召集されてそれに応じることは所属する民族への裏切りと解釈されかねず、代表となることを拒否する選手がいた。イタリアW杯準々決勝のアルゼンチン戦はPK戦にもつれ込んだが、ほとんどの選手がPK戦への参加をいやがった。PKを決めても外しても、それぞれの属する民族間の関係に悪影響をおよぼしかねないからだ。(結局、自ら志願した二人だけがPKを決め、監督に指名された三人は外すという結果となった)

この本の最後のエピソードで、こんな話が紹介されている。
JEFがナビスコ杯の決勝でPK戦となった時、ほとんどの選手がPK戦参加を志願した。W杯の準々決勝とは試合の重みが違うし、民族間の対立なんてシリアスで重い背景もない。しかし、PKの経過を見るのがイヤでベンチにいなかったオシムは、(PKの結果ではなく、志願した選手が多かったことが)とてもうれしかったのではないかという気がする。
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