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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「死のドレスを花婿に」(著:ピエール・ルメートル/訳:吉田 恒雄)

2021-12-05 22:40:58 | 【書物】1点集中型
 ルメートルのデビュー2作目だということで。
 自分の記憶が曖昧になっていく、ものを失くす、失くしたはずのものが気づけば出てきている。仕事も生活もままならなくなり、さらに気づけば身近な人が、どう見ても自分が殺したとしか思えない死に方をする。ソフィーは、もう何が何だかわからないまま逃げ続けている。

 ヴェルーヴェン警部シリーズほどどぎつい残酷シーンはないけども、単に血や暴力が少ないという意味である。そのぶん、心理的にどこまでも追い詰められていく怖さにはルメートルらしい迫力充分。犯人のやり口は、あり得ないと思いつつも、一方でもしかしたらあり得るのかもしれないと思わせる絶妙のリアリティで、その動機が被害者である主人公ソフィーには不条理なだけに余計空恐ろしく感じる。目次で各章のタイトルを見たら流れ自体はわかる。が、そうしておきながら、いやむしろそうしてあるからこそ、犯人のサイコパスっぷりが際立つのかもしれない。

 それにしてもソフィーの父親がいなかったらどうなっていたことか……なんだけども、この父娘のタッグも「目には目を、歯には歯を」状態で、なかなかに恐るべしだな。特に父のトリック。ルメートルの人悪さ、さすがである(褒めてる)。


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