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偏愛と放浪の記録

「宇宙消失」(著:グレッグ・イーガン/訳:山岸 真)

2011-12-04 23:03:21 | 【書物】1点集中型
 久しぶりにイーガンの長編。自分自身、ちょっと理解してきたような気がするようで、実は全然そうでもない量子力学がベースのひとつになっている物語。

 量子力学から生まれる話については、並行世界の存在がキーになってくると思っていたけど、この作品の場合は(解説にもあったけど)今、自分がいる世界とは別に、並行世界が存在するという考え方ではなく、さまざまな可能性世界から1つを選び取った=波動関数を収縮させた結果が今、自分がいる世界である、という逆転の発想が最終的なキーになる。
 つまり、単一の結果の世界を生きるということは、「可能性世界の自分たちを虐殺すること」なのである。言いえて妙。
 しかし、「拡散」で宇宙の多様性を回復させること――劉曰く「ありとあらゆること」があり「なにも失われなくなる」世界を生きることと、「収縮」によって固有状態の世界を生きることと、結局どちらが人間の世界なのか? という話に、最後はなってくる。そして無限に拡散し続ける人々の世界が、ついにパンクした――という印象を受けた。

 指数関数的に「拡散」していく世界、その拡散の出発点になる「選択」のタイミングって、実際はどういう点なんだろう。たとえばこうして、いくつかの言葉を頭に浮かべて選び取った時点で、頭に浮かんだ言葉の数だけ世界は拡散していくのか? 浮かんだ言葉の数-1だけ、存在は失われていくのか。
 失われた存在は、失われた世界で枝葉を伸ばして生き続けるのか。ニックが選び取った世界のほかに、拡散し続ける人々が今も生き続けているのか。それは結局、わからない。わからないけどニックは、平凡な日常がある「ここ」を生きている。そして、拡散を知らない何億もの人々も。結局、人がこの世をどう生きているかを、やっぱりイーガンは描いているということなんだろうか。

 しかし、やっぱり量子力学の話は頭がこんがらかる(笑)。いくつか量子学の本も読んではみているが、我ながら無謀な挑戦ではあった。でも解説を読むともう少しわかってくる感じはあるので、本当ならその「ちょっとわかったかも?」的な時点で再読するともっといいんだと思う。

 あとディテールの話をすると、モッドの価格が紹介してあるのがちょっと面白かった。おかげで、ぶっ飛んでるはずの小説世界が妙に生活に近くなる感じで(錯覚なんだけど)。笑いを誘うというわけでは全くないけど、ユーモラスというかウィットを感じさせるというか、そんな雰囲気を出してくれる。


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