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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「ブラック・ダリア」(著:ジェイムズ・エルロイ/訳:吉野 美恵子)

2021-06-10 22:59:12 | 【書物】1点集中型
 ルメートル「わが母なるロージー」解説より。1947年1月にLA市内で実際に起きた、若き俳優志望の女性の惨殺事件「ブラック・ダリア」に取材したフィクションである。
 あのルメートル作品に出てくる話とあって期待して読み始めたんだけれども、ボクシングが苦手なので、冒頭のボクシング話長いしなかなか事件が見えないし、で危うく事件に入る前に挫折しそうになった(笑)。とはいえ、ボクシングは主人公バッキーとその刑事としてのパートナーになるリーの関係構築とそれぞれの人物像にあって重要な要素なので、否定はしないんだけども。ちょっと流し読みみたいにはなりましたね。

 事件捜査に移ってからも、物語は事件よりも、事件を介して生まれる人間模様が主に描かれているように見えた。ちっとも事件の核心に近づかないのである。謎を解くには情報があまりに遠回り。「ブラック・ダリア」が誰なのかにたどり着くまでも長い。そして犯人を追うために彼女の人生をひもといていく中で、バッキーはエリザベスへの感情移入をどんどん深めていく。さらにリーがいなくなってからが本番という感じだったな。人脈とそれぞれの物語が見えすぎて、いったいこの事件にはどう収拾がつくのかと思っていたら、最後は怒涛のようにいろんなものが全部つながって、なるほどお見事、という謎解き。
 「ロス暗黒史」と呼ばれるうちの初回作だけあって、何もかも一見落着というわけにはいかない。社会の暗部が闇を残したけれど、「ブラック・ダリア」の人生を追うバッキーの旅路は、出会いと別れと再生の物語になった。ミステリだけど、ただのミステリでは終わらなかった。ブライチャート家に幸あれ。そして遂に解かれることのなかった謎、現実に生きていたエリザベス・ショートその人の魂の安らかならんことを。


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