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或る大阪近鉄バファローズファンの
偏愛と放浪の記録

「わが母なるロージー」(著:ピエール・ルメートル/訳:橘 明美)

2021-01-22 00:38:49 | 【書物】1点集中型
 「悲しみのイレーヌ」に始まり、「その女アレックス」と続き「傷だらけのカミーユ」で完結してしまったカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズのボーナスステージ(だと思ってる)。時系列的には「アレックス」と「カミーユ」の間。といっても個人的には3部作を読んだのが相当前なので、あんまりその辺はピンと来てないんだけど。まあ、わからなくても読むのには問題はない。

 今回は中編ということと、3部作のきつい事件の場面で慣れていたので、ある意味安心して読める。とはいえやっぱりインパクトのある事件から始まるわけだけれども。
 7つの爆弾が1日1つずつどこかで爆発する。自ら名乗り出てきた犯人ジョン(自称ジャン)は供述の相手にカミーユを指定して、そんなとんでもない告白をしてきた。爆弾について教える代わりの要求は今こうしている自分と、殺人容疑で拘留中の母親ロージーの釈放と、オーストラリアでの新しい生活。警察としてはもちろんそんな取引ができるわけはないので、カミーユはなんとか情報を引き出そうとするものの、ジャンは暖簾に腕押し。しかもその母親といえば、ジャン自身の恋人を殺害している。

 俯瞰すると、今でいう「毒親」と息子の話ということになるだろうか。このシリーズではカミーユと母親の関係も折に触れて描かれてきて、それはもちろんジャンとロージーとの関係とは違うんだけれども、カミーユ自身の中にある母親への思いがジャンとロージーへの接し方にも影響を及ぼしているようにも見えなくはない。
 でも、ジャンとロージーの親子関係が、少なくともジャンの側からは決して良いだけではないものだったのは、母親との対面で見せた緊張感からも窺い知れる。ジャンは母の犯した罪が自分に起因するものだと当然理解していたに違いない。それでも母親から離れようとしなかったその心の中は、本当はいかなるものだったのだろうか。あまりにも呆気ない結末は、その可能性が充分に見えていたものではあったが、ジャンにはそれしか残されていなかったということなのだろうか。自らをジョンではなくジャンと称したのは、やはり母の軛から抜け出したい思いがあったからなのだろうか。突然断ち切られた物語に、思わされることは多い。


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