僕のほそ道   ~ のん日記 ~

  
これと言ったテーマはなく、話はバラバラです。 つい昔の思い出話が多くなるのは年のせい? 

 ナカタ家の亀

2008年02月19日 | 雑記

ナカタさんという、僕と同年輩の知り合いの男性がいる。
旧民社党の党員で、一時は地方議会で市議会議員もしていたが、50歳前後で辞めて、いまは議員年金を受けながら、小さなパソコン教室を開業し、のんびりと毎日を送っている。

むかし、ナカタさんが市議会議員をしていたころ、一緒に札幌へ行き、夜に2人で歓楽街・薄野の「エンペラー」という有名なキャバレーへ遊びに行ったことがある。ナカタさんは水割りをチビリチビリやりながら、横に座った女の子に「オレはアダルトビデオの監督なんや」と真面目な顔をして伝えたものだから、すっかり相手は信用してしまって、次々といろんな質問をしていたが、その答えが実にリアルでいかにも本物めいていたのを覚えている。ふだんのナカタさんは、生真面目で、温厚で、冗談一つ言わない人であったのだが、こんなひょうきんな人だとは…と、そのときに初めて知った。

そのナカタさんが数日前に、約半年ぶりくらいに僕の職場を訪れた。僕の職場は市議会議員の寄り集まる場所であり、時々こうして議員のOBも顔を出す。

僕は「久しぶりですねェ」と言いながら、ナカタさんに、
「何か変わったことありませんか?」
と問いかけると、ナカタさんは「そうやねぇ~」
と、ソファに腰を下ろしながら、
「いまは、亀の世話で忙しいねん」
そう言って、煙草に火を点けた。
相変わらず、真面目で、淡々とした口調である。
「はぁ…? 亀を飼ってはるんですか? なんでまた亀を…」

話は、次のようなことであった。

10年ほど前、ナカタさんのマンションのエレベーター前に亀がうろついていた。
どこかで飼われていた亀であろう。体長20~30センチぐらいのごく普通の亀である。やさしいナカタさんはとりあえずその亀を自宅に預かり、マンションの掲示板に写真をつけ「亀を預かっています」と書いた紙を貼り出し、飼い主が表れるのを待った。

しかし、何週間経っても名乗り出る人がいないので、飼い始めたという。

この亀は、なぜかグルメ嗜好の強い亀であった。
ペットショップで販売されている亀専用のエサには見向きもしない。
肉や魚が大好物で、それはまぁいいのだが、並外れて贅沢なのだ。
たとえば、タコは明石産のタコしか食べない。
奥さんが「モルジブ産」のタコを与えると、プイと横を向く。
豚肉も、輸入モノには知らん顔する。
鹿児島産の豚肉を与えると、喜んで食べる。
鶏肉も、地鶏しか食べないのだという。
だけど、明石のタコも鹿児島の豚肉も地鶏も、同じものを続けると、3日目には横を向くのである。

「ほんまに、贅沢な亀やでぇ…」とナカタさんはため息混じりに話す。

食事と排泄は水槽の中でするので、部屋の中を歩かせても、汚さない。
しかし、床を這っている亀の存在を、つい忘れて踏んでしまうと、
「いててて」という感じで、「フーッ!」と息を吐いて怒るのだそうだ。

奥さんが洗濯物を干すのにベランダに出ると、同じように出る。
亀は動作が遅いので、奥さんが干し終わってベランダを締めると、外に残されたままになって、コツンコツンと頭でノックをして「開けろ」と合図する。

「でもまあ、犬や猫と同じで、なかなか可愛いもんやで」
名前を呼ぶと、のそのそと歩いてくるので愛嬌がある。

夜はナカタさんの娘さんの布団にもぐり込んで寝る。
娘さんは、20歳代で、間もなく結婚をされる。
亀は、ナカタさんや奥さんの布団には絶対に入らない。
「若い女性が好きやねん。あの亀は…」

そういえば、娘さんの友達が家に遊びに来てワイワイ騒いでいると、亀はその横を何度も往復して示威行為をするらしいが、奥さんの友達…つまりおばちゃん連中が来てぺちゃくちゃしゃべっている時は、座布団にもぐり込んで隠れている。

「あの亀はちゃっかりしとんねん」とナカタさん。
「なるほど。若い女性好き…ということは、その亀はオスですね?」
「それが、オスかメスかわからんかったんや」
「わからんのですか…? で、その亀はなんという名前ですか?」
「名前はなぁ~。カトリーヌ言うねん」

「カ、カトリーヌ…?」
イメージがまったく湧いてこないような、麗しい名前である。
「娘がつけたんや。オスかメスかわからんけど、とりあえずつけた」
まぁ、ふつう、カトリーヌといえば、女であろう。しかも、美人の。

ところで、亀はいったい何歳くらいまで生きるのだろうか…
よくわからないが、まさか千年も万年も生きまい。
普通の亀は、20年から30年くらいなのだろうか…?

亀のカトリーヌは、性別もわからないが、年齢もわからない。
ナカタさん宅で飼われてから10年経つが、それまで何年生きていたのかは不明である。生まれて数年でナカタさんに拾われたのか、何十年も生きてから拾われたのか…? 鯉の年齢はウロコでわかるというが、亀は甲羅ではわからないらしい。

年はわからないが、贅沢な食生活がたたったのか、最近、カトリーヌは白内障を患ってしまった。ナカタさんはカトリーヌを動物病院に連れて行った。

「亀の患者さんは珍しいですね」
獣医さんがそう言ったように、そこに診察に来ていた患者の犬や猫はみんな、カトリーヌを取り巻いて、珍しそうに眺めていたそうである。

さて、亀のことだから、診察をしようとすると嫌がって首をひっこめる。
これでは診察にならない。
看護婦がカトリーヌのひっこめた頭の部分をコツンと叩く。
すると、カトリーヌは怒ってフーッと息を吐いて怒り、頭を出す。
そこをひっぱり出して、診察するのである。手間のかかることだ。

診察の結果はかなり重い白内障であり、カトリーヌはオスであることも判明した。
「だいぶ高齢のようです…」と獣医さんが言っていたそうだ。

たしかにこれまでカトリーヌは、水槽の上部に両手を置いて懸すいをし、その勢いで水槽外へゴロンと出て脱走することに成功していたが、最近は懸すいはできても水槽の外まで出ることはできなくなったという。

病院の診察券の氏名欄には「ナカタ・カトリーヌ(雄)」と書かれてあった。
年齢は「不詳」である。
まだまだ頑張って、長生きしてほしいものだが、
亀にも「高齢化時代」が訪れているのであろうか?

 

コメント (6)
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