夜中に突然大きな声が聞こえて、目が覚めた。
「みさおー みさおー」
ご近所中に響き渡るほどの大声である。
ぐっすり眠っていたこともあって状況が飲み込めないまま階下に降りると、母がソファに腰掛けて、あらん限りの声を振り絞っていた。
たずねてもラチがあかない。
わけのわからないことを、興奮しながら喋っている。
こちらも心臓がドキドキとして、そのまま共倒れになりそうな気配。
しばらくして興奮がおさまってきた母をその場に残して、二階へあがり若年性認知症の家族会の仕事をしている親戚に電話をした。
「恐かったんだと思うよ。静かにさすってあげて、抱きしめてあげて、それから朝になったら、ケアマネージャーの人に電話を入れなさい」
さすって、抱きしめて、そこまではしてあった。
ひとしきり話をしていると、下の様子は静かになった。そっとしたまま私も床に入って休んだ。
明け方4時ごろ、今度は階下のトイレでゴソゴソと何事かの気配が感じられた。
階下に降りてそっとのぞくと、尿とりパットを破ってしまったらしく、中に入っている微粒子が散らばったのを、一生懸命に拭き取っている母がいた。
それを手伝って、再び、床につかせた。
さて、ぐっすり眠ったらしく、7時ごろ起きて来た時には、ものすごくご機嫌がいい。
「気分がいいの」
そう、のたまう。
食欲もあった。
9時になるのを待ってケアマネージャーの方に電話をし、いくつかの指示を受けた。
昨年の秋に申請を出した特別養護老人ホーム第一候補の施設に電話をし、どのくらい待つことになるのかを聞きながら、こちらの状況を伝えた。
後日、紹介されたディケアサービスをたずねて、話を聞き様子を見せていただいた。
そして今日は午後から予約してある介護付き有料老人ホームを見学することになっている。
実は、昨年の秋にもディケアサービスやショートステイの手配をしても、ことごとく拒否されて、いつの間にか半年近い歳月が流れてしまった。
不思議なことに、その後、母とは穏やかな日々を過ごしている。
これまでにないほど、いちばんよい母と娘の関係が築けた、と思う矢先のことだった。
正確にいうと、母と娘が立場が逆転しているのだが。
それでも内緒で動いているこの間の母は落ち着いて穏やかである。
まったく不思議というしかない。
ふと、思う。
一艘の小舟で大波小波を乗り越え、私は母をどこに送り届けるのだろう。
昨日の朝のこと。
畳の上に半身をせり出してぐっすり眠っている母の様子を見ていた。
「息してるのかなー」
とても静かだ。
ちょっと心配になる。
こういうときは救急車でなく、かかりつけのお医者さんを呼んだ方がいいのかもしれない。
いや、このまま息を引き取ったら、母にとっては幸せなんじゃないだろうか。
脳裏をよぎった。
思いは、短い時間に、浮かんで消えた。
しばらくして目を覚まし起き上がった母は、とても元気に、ほがらかに、話しかけてきた。
「畳の上で寝てたのね」
昔の日本人は、畳の上で死ぬことを願ったのよね。
さすがにこの言葉は、すぐさま呑み込んだ。
できれば我が家で最期までみてあげたい。
その気持ちにまったく嘘はない。
それでも施設見学には行ってみようと言う思いは変わらない。
「満室ですが、いらしてください。よろしければご予約を……」
電話で聞いたその言葉の向こうの出来事を想像して、複雑な思いに駆られる私である。
本日は晴天なり。
道々、天気がよいことに救ってもらおう。
「みさおー みさおー」
ご近所中に響き渡るほどの大声である。
ぐっすり眠っていたこともあって状況が飲み込めないまま階下に降りると、母がソファに腰掛けて、あらん限りの声を振り絞っていた。
たずねてもラチがあかない。
わけのわからないことを、興奮しながら喋っている。
こちらも心臓がドキドキとして、そのまま共倒れになりそうな気配。
しばらくして興奮がおさまってきた母をその場に残して、二階へあがり若年性認知症の家族会の仕事をしている親戚に電話をした。
「恐かったんだと思うよ。静かにさすってあげて、抱きしめてあげて、それから朝になったら、ケアマネージャーの人に電話を入れなさい」
さすって、抱きしめて、そこまではしてあった。
ひとしきり話をしていると、下の様子は静かになった。そっとしたまま私も床に入って休んだ。
明け方4時ごろ、今度は階下のトイレでゴソゴソと何事かの気配が感じられた。
階下に降りてそっとのぞくと、尿とりパットを破ってしまったらしく、中に入っている微粒子が散らばったのを、一生懸命に拭き取っている母がいた。
それを手伝って、再び、床につかせた。
さて、ぐっすり眠ったらしく、7時ごろ起きて来た時には、ものすごくご機嫌がいい。
「気分がいいの」
そう、のたまう。
食欲もあった。
9時になるのを待ってケアマネージャーの方に電話をし、いくつかの指示を受けた。
昨年の秋に申請を出した特別養護老人ホーム第一候補の施設に電話をし、どのくらい待つことになるのかを聞きながら、こちらの状況を伝えた。
後日、紹介されたディケアサービスをたずねて、話を聞き様子を見せていただいた。
そして今日は午後から予約してある介護付き有料老人ホームを見学することになっている。
実は、昨年の秋にもディケアサービスやショートステイの手配をしても、ことごとく拒否されて、いつの間にか半年近い歳月が流れてしまった。
不思議なことに、その後、母とは穏やかな日々を過ごしている。
これまでにないほど、いちばんよい母と娘の関係が築けた、と思う矢先のことだった。
正確にいうと、母と娘が立場が逆転しているのだが。
それでも内緒で動いているこの間の母は落ち着いて穏やかである。
まったく不思議というしかない。
ふと、思う。
一艘の小舟で大波小波を乗り越え、私は母をどこに送り届けるのだろう。
昨日の朝のこと。
畳の上に半身をせり出してぐっすり眠っている母の様子を見ていた。
「息してるのかなー」
とても静かだ。
ちょっと心配になる。
こういうときは救急車でなく、かかりつけのお医者さんを呼んだ方がいいのかもしれない。
いや、このまま息を引き取ったら、母にとっては幸せなんじゃないだろうか。
脳裏をよぎった。
思いは、短い時間に、浮かんで消えた。
しばらくして目を覚まし起き上がった母は、とても元気に、ほがらかに、話しかけてきた。
「畳の上で寝てたのね」
昔の日本人は、畳の上で死ぬことを願ったのよね。
さすがにこの言葉は、すぐさま呑み込んだ。
できれば我が家で最期までみてあげたい。
その気持ちにまったく嘘はない。
それでも施設見学には行ってみようと言う思いは変わらない。
「満室ですが、いらしてください。よろしければご予約を……」
電話で聞いたその言葉の向こうの出来事を想像して、複雑な思いに駆られる私である。
本日は晴天なり。
道々、天気がよいことに救ってもらおう。
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