広瀬川白く流れたり 時さればみな幻想は消えゆかん
歌ったのは萩原朔太郎である。
高崎と前橋に、野口三千三の足跡をたずねる旅も5回目となった。
一昨日、群馬師範学校があった場所を確かめた昼過ぎ、前橋駅までの途中で左折し、「前橋文学館」に立ち寄った。
文学館は広瀬川のほとりにたっている。
3月19日の昼下がりのこと。
花の季節にはほんの少しだけ早かったが、川面に長く垂れ下がっている柳の新芽は緑麗しく、川の青さと相まって春の命を描き出していた。
広瀬川は疏水百選に選ばれているそうだ。
水量は豊か、流れは早くうねっている姿は、川幅こそ狭いが、利根川水系一級河川の面目を十分に保っている。
野口三千三の旅は、一旦、お預けにして、私はしばし詩の世界に迷い込んだ。
この文学館は、「萩原朔太郎記念 水と緑と詩のまち」と銘打っているだけあって、文学の香りが前橋ゆかりの文学と文学者をやさしく紹介している素敵な場所だった。
特別展「接吻」中本道代を楽しむ空間は、近代史から現代史へと詩の道のりを自然に導いてくれるものだった。
最後に18分ほどの「前橋の風土と文学」と題したDVDを拝見した。
なんと嬉しいことに、詩の朗読は幸田弘子さんによるものだった。
「ここで、幸田さんに、声だけでも出会えるなんて」
心が、懐かしいと!喜びにむせぶ。
この数年はご無沙汰していていることを、密かに詫びた。
この文学館で過ごした時間は、野口三千三とは無縁の前橋なのだろうけれど、ゆかりの文学者たちが豊かな言葉の世界を作り上げていったことに、風土の奥深さをしみじみと味わうひと時となった。
徒歩で前橋駅に戻り、高崎行き電車が出たばかりとのこと、コーヒーにドーナッツを頬張って30分ほどの時間をゆったりと過ごした。
過ごすうちに、ふと思った。
野口三千三の語録は、詩ではなかったか?
いや、あれはまさに詩である。
私は確信した。
“からだ”と“うごき”を内面化し、近代詩を超える超近代の詩の世界を、野口はつくり上げたのではなかったか。
一昨日を境に、私の中では、三千三は朔太郎と同郷の詩人の一人になってしまった!
許せよ! 朔太郎ファンの皆々様。
今朝も、広瀬川のうねりの水音とやわらかな柳の緑が風にそよぐ姿が思い出された。
幻影だろうとなかろうと、新しい発見ができた早春の群馬行きだった。
川は詩情をそそる。
*****行程*****およそ10時間の旅
高崎駅からはじめ
高崎市立中央小学校 烏川 高崎中央図書館 上信電鉄の無人駅「佐野のわたし」 高崎市立佐野小学校 前橋群馬県民会館 萩原朔太郎 蔵・書斎客間移築 前橋文学館 広瀬川詩の道
前橋駅から帰宅の途につく
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