羽鳥操の日々あれこれ

「からだはいちばん身近な自然」ほんとうにそうなの?自然さと文化のはざ間で何が起こっているのか、語り合ってみたい。

初めての物語-5-

2005年08月12日 09時45分40秒 | Weblog
終戦の日が近づきました。
亡くなった父の話を、これからの伏線として、少しだけお話しておきたいと思います。

1944年・昭和19年、陸軍の輸送部隊に所属して、中国港湾都市蓁皇島に渡った父に課せられた任務は、前線の兵隊に必要な物資を輸送することだったそうです。
トラック部隊は、満州の奥地へと進みます。
ある日、上官から呼ばれて、特別な任務を命令された父は、これはただ事ではない予感に震える思いがしたといいます。幹部候補生として、目をかけられていた父に与えられたひとつの仕事。それは、日本軍がおこなっていた「阿片」にかかわる仕事だったと、癌に侵され、死を目前としたときに、父から聞かされました。

今年、戦後60年を迎えて、先の戦争にかかわる本が出版されています。そのなかで、『阿片王-満州の夜と霧』(新潮社)の著者・佐野真一氏の記述は、父の話を裏付けてくれるものでした。
何も知らなかった若き兵隊だった父は、行動を開始して、その任務の意味を悟ったといいます。
「ソ連の侵攻で満州国が崩壊の危機に瀕したとき、関東軍は倉庫にあった12万トンのアヘンをひそかに日本国内に運び出そうとした。…阿片は鉄道敷設や要塞づくりのための苦力(ク-リ-)集めに欠かせない重要物資だった。苦力が何をおいてもほしかったのは、塩と阿片だった。」(『阿片王』32ページ)

この本を読んで、断片的に父から聞かされた言葉の文脈の底に流れるおぞましい歴史が、ひとつの輪郭を持ち始めました。

「夜の世界」を疾走する主人公に重ねて、作者の体験が形を変えて投影されているのではないか深読みできるのも当然のことかも。
そんな深読みを許してくれるのは、おそらく若いときから作者と一緒に著書を読み続けたのではなく、2004年にもなって五木氏の作品を一気に読み込んだからかもしれませんね。
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