電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

畠中恵『ぬしさまへ』を読む

2008年05月28日 05時35分11秒 | 読書
シリーズ初作が長編でも、ニ作めからは短編集となってしまうという例は、平岩弓枝著『はやぶさ新八御用帳』シリーズのように多数あると思いますが、畠中恵著『ぬしさまへ』はずいぶんとまたまた思いきりの良い短篇化です。

第一話「ぬしさまへ」、仁吉の水際だった男ぶりにぽーっとなった娘と、情より欲が勝った娘と。たしかに、昔の手紙は手書きでしたので、金釘流筆跡がばれてしまいます。今ならばワープロで書いて自筆書名すれば、それほど悪筆は目立ちにくいかも。若者よ、気をつけたまえ(^o^)/
第二話「栄吉の菓子」、いくら下手っぴいでも、あまりの不味さに心の臓が止まって死んでしまうという想定は、さすがにちとおおげさ過ぎるのでは。案の定、博徒はやっぱり博徒という結末でした。
第三話「空のビードロ」、出だしが猫の頭というのは、いささかぎょっとします。いくら先の見通しが暗いからといっても、犬猫殺しの行動とは直接には結び付きにくいものでしょう。若旦那の異母兄である松之助の不遇が、青いびーどろで救われます。
第四話「四布の布団」、誤って届いた布団は、夜に女の泣き声がする代物でした。届けた田原屋は、主人が「こめかみに青筋を浮かべた蟷螂」のような男で、店で発見された遺体も、凶器が見つかりません。若旦那の推理が冴えます。
第五話「仁吉の思い人」、お話としてはいい話の部類なのですが、よくよく考えると千年の思い人という「しつこさ」はいささか不気味です。ただし、仁吉のは片思いでして、妖怪らしからぬ純情の中に、実は若旦那・一太郎のルーツが描きこまれています。
第六話「虹を見し事」、悪意の妖(アヤカシ)が一太郎を狙います。こちらはうまく防ぐことが出来たのですが、若旦那に片思いをしていたおまきの櫛だけが若旦那のもとに。では、おまきはどこへ?若旦那の自立への意志が新鮮です。

大まじめであるほどおかしさが目立つ、ということはありえます。第五話における仁吉の純情は認めつつ、鈴君を千年も待ち続ける古狐のイメージは、いささかしつこすぎるようで、どうも超絶・究極のストーカーみたいですね。でも、まあ、ちょいといいお話です。おおいに楽しみました。

写真は、今が見頃のテッセンです。なんとなく、夜には妖怪に化けそうですね。



コメント (4)    この記事についてブログを書く
« J.S.バッハ「管弦楽組曲」第2... | トップ | 一人暮らしで簡単・美味しい... »

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
まさしく! (きし)
2008-05-31 00:27:30
夜には化けそうです!
真ん中のところが、とって喰われそうな口みたいだからですよね。
綺麗で好きな花ですが、どこかキモチワルイと思っていた理由がわかってすっきりしました。
返信する
きし さん、 (narkejp)
2008-05-31 06:00:19
コメントありがとうございます。宵闇に浮かぶテッセンは、実に見事ですね。とって喰われそうな(?)口元も、離れて見ればアクセントで、妖艶な美女と同じく、あまり近付かない方がよろしいのかもしれません(^o^)/
寒いですね。セーターがほしいほどです。
返信する
Unknown (藍色)
2009-09-14 15:03:12
こんにちは。
トラックバックさせていただきました。
http://1iki.blog19.fc2.com/blog-entry-1201.html
トラックバックお待ちしていますね。
返信する
藍色 さん、 (narkejp)
2009-09-14 21:43:40
トラックバックをありがとうございます。こちらからも、トラックバックいたしました。
返信する

コメントを投稿

読書」カテゴリの最新記事