電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

深水黎一郎『詩人の恋』を読む

2021年09月05日 06時00分23秒 | 読書
読書の秋の手始めに、深水黎一郎著『詩人の恋』を読みました。角川書店刊の単行本で、2020年9月に第1刷が発行されている音楽ミステリーです。本書の構成は、次のとおり。

第1部 杜塞道夫(デュッセルドルフ)1856年秋
第2部 伝記的事実
第3部 奇蹟のように美しい五月に
第4部 手紙
第5部 薔薇に百合 鳩に太陽
第6部 伯林(ベルリン)
第7部 君たちに解るかい この棺桶がどうしてこんなに巨大で重いのか

第1部は、夫R.シューマンが亡くなり、子育てと生活に奮闘するクララ・シューマン一家のもとにJ.ブラームスが訪れ、夫人から脅迫状が届いていることを相談されます。シューマンの歌曲集「詩人の恋」の秘密を暴露する証拠の手紙を三万ターラーで買え、という内容のものでした。ブラームスはクララを安心させ、念のために自分がベルリンに向かうと申し出ます。
第2部は、ローベルトとクララのシューマン夫妻とブラームスに関して、物語に必要な伝記的事実を簡潔に整理したもの。
第3部は、日本の男子高校生が偶然にも「詩人の恋」のCDを購入することとなり、片思いしながら1日1曲ずつ聴いていくという、現実的とは言えない想定の青春モノ。
第4部は、シューマンの秘密の手紙の全文。もちろんこれは作者の創作であって、実在するものではありません。
第5部は、大学公認の混声合唱サークルを舞台にした楽曲の解釈をめぐるやりとりが、顧問の先生を通じてドイツにある自筆楽譜の確認へと発展していく一方で、大学生たちの今風の恋愛模様を描いたもの。
第6部は、ベルリンの古書店で未発表のシューマンの自筆の手紙を目にした私大の独文の准教授が、せっかく入手の許可を得たのに、古書店はテロで焼けてしまうという不運が描かれます。でもなあ、これって、作者による証拠隠滅だよなあ。
第7部、国際的なテノール歌手・藤枝和行と、一回り年下の「芸術探偵」神泉寺瞬一郎による「詩人の恋」の分析です。ここで提示される新解釈がこのミステリーの眼目であって、結末はブラームスに委ねられています。



なるほどね。作家は「詩人の恋」を題材に、ローベルトとクララの夫婦とブラームスのエピソードを織り交ぜながら、伝記的事実といくつかの創作と楽曲の解釈を材料にピースを作り、ジグソーパズルのような作品を作り上げたのだな。長短さまざまな文章を読んでいくと、やがてパズルがぴたっと合わさったときのような興奮が得られる、という仕掛けのようです。自分がこういう解釈をどう思うかは別として、本書をきっかけに久々に R.シューマン「詩人の恋」を聴き直し、あらためて「いい曲だなあ!」と感嘆するばかりです。

YouTube より、フィッシャー・ディースカウ(Bar)とイェルク・デムス(Pf)による1957年の録音。
Schumann - Dichterliebe - Fischer-Dieskau / Demus


こんどはテノールで。フリッツ・ヴンダーリッヒ(Ten)とヒューバート・ギーセン(Pf)、1965年。
Fritz Wunderlich - Dichterliebe (Robert Schumann)



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