電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

宮城谷昌光『管仲』上巻を読む

2013年09月19日 06時02分19秒 | -宮城谷昌光
文春文庫で、宮城谷昌光著『管仲』の上巻を読みました。記録によれば、初読は2005年の冬、2月に図書館から借りてきた単行本でした。この文庫本は2006年11月に読了とありますので、ほぼ7年ぶりの三読め。上巻は、恵まれた貴族の子である鮑叔(ほうしゅく)と不遇な青年管仲との友情の物語です。

中国の春秋時代の前期、東国の斉の大夫の三男である鮑叔は、周の都・洛陽に遊学し、召公の高弟の一人、管仲に師事し、互いに信頼を得ます。偶然に鄭の太子との関わりができますが、中原の諸国を旅し見聞を広めている途中で、鄭の公子に再会します。鮑叔は、家庭的には不幸で社会的には不遇な境遇にあった管仲を鄭国に招きます。

太子のもとで不幸な娘(木へんに需叔)を下賜された鮑叔は、彼女を愛し妻にすることを決意しますが、好悪の激しい鄭の太子曼伯は、鮑叔を高く評価しながら、間諜ではないかとの予断から、管仲を招こうとはしません。鄭と周とが戦ったとき、管仲は生活のために一兵卒として鄭に従軍しますが、敵の間諜との疑いを受け、自軍に捕えられて拷問を受けます。実は、管仲が命を助けた巣画が、自分こそ敵の間諜であることを、逃亡先から書簡を送り、釈放させたのでした。生来、明るい性格の鮑叔は、鄭の太子に厚遇されますが、もともと陰性の管仲は鄭とは相性が悪いようです。

管仲は鮑叔をさそい、行商を始めます。資金も乏しいため、鮑叔は太子にかけあい、南陽の情勢を探りレポートするという名目で、資金を引き出し、同行します。

「わたしは見識と予見をもっているつもりです。あなたの不幸が大きければ大きいほど、不遇が長ければ長いほど、比類ない幸福と厚遇とが、未来にあるようにおもわれてならない」

このように、鮑叔の陽気な信頼が、ともすれば崩れようとする管仲の感情を支えたであろうことは疑いありません。

牛車を引きつれた二人の行商の成果は、管仲にとっては妻となる女性・梁娃との出会いですし、鮑叔にとっては調査報告を受け取った鄭の太子の信頼と、斉への帰国命令でした。鮑叔は、斉王に管仲を強く推薦し、二人は斉の公子のために仕えることとなります。ただし管仲は召忽が傅をつとめる公子糾の家宰となり、鮑叔は公子小伯の傅となります。二人の公子を比べてみると、才能のある公子糾のほうは、残念ながら召忽という傅と管仲という家宰の方針とが、大きなところで必ずしも一致していませんが、平凡な公子小伯は、鮑叔の教育方針によって徐々に成長しているようです。

なかなかおもしろい。二人の対照的な性格と相互の信頼は、好感が持てますし、二人のまわりにいる脇役の人たちの描き方も魅力的です。


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