電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

宮城谷昌光『楽毅』を再読して

2015年02月22日 06時09分34秒 | -宮城谷昌光
宮城谷昌光著『楽毅』は、新潮文庫で四巻からなる長編です。いちばん最初に読んだ時(*1)は、要するに名将の軍事の物語であって、為政者としてよりも将軍としての事績が主となっており、将軍の活躍の前提条件は命じる王の理解と支持であることから、それほど高く評価しておりませんでした。

ところが、なぜか本書を手に取り再読(*2)する頻度が高く、しかも二読・三読するうちに、この長編の構造と密度が、作者の作品の中でもかなり優れたものと感じるようになりました。若い時代、中山の将としての無名時代、山岳ゲリラ戦で名をあげる時代、中山の滅亡で燕に行き斉を占領する時代、そして斉王に追われて趙で晩年を送るなど、境遇が大きく変転し、読者の緊張感の弛緩を許さないのだと思いますが、作品の終わりごろになるとしばしば歴史の駆け足的説明に終わってしまう傾向のある作者にしては、最後までドラマとしての緊張感を保ったままに終結します。

たぶん、作者が気力・体力ともに充実した時期に、人物としても最後まで共感でき、周囲の脇役にも恵まれた主人公であり、物語の時代性だったのではないかと思います。

(*1):宮城谷昌光『楽毅』(二)~(四)を読む~「電網郊外散歩道」2005年8月
(*2):宮城谷昌光『楽毅(一)』を読む~「電網郊外散歩道」2013年10月
(*3):宮城谷昌光『楽毅(二)』を読む~「電網郊外散歩道」2013年10月
(*4):宮城谷昌光『楽毅(三)』を読む~「電網郊外散歩道」2013年10月
(*5):宮城谷昌光『楽毅(四)』を読む~「電網郊外散歩道」2013年10月


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