電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

高田郁『夏天の虹~みをつくし料理帖(7)』を読む

2013年06月29日 06時06分54秒 | 読書
これまで、境遇に負けず、忍ぶ恋をあたためながら成長してきた澪に、はじめて降りかかる失意と悔恨、悲しみの涙の第7巻。高田郁著『夏天の虹~みをつくし料理帖(7)』です。



第1話:「冬の雲雀~滋味重湯」。武家奉公から小松原さまこと小野寺数馬に嫁ぐ道を選ばぬことに決めた澪は、小松原さまに直接に断らなければと思い詰めます。出会いの場でもあったお稲荷さんの前で、思いを打ち明けますが、小松原さまはすべてを自分の胸におさめて、自分の胸におさめて、自分が一切の責任を引き受けることにします。うーむ、武士の面子もあるだろうし、それしかないのかなあ。

第2話:「忘れ貝~牡蠣の宝船」。言ってみれば婚約解消のあとの始末の気の重さ、でしょうか。ふと振り返って見れば、料理番付に載るような新しい献立を考えていない。ずいぶん悩みますが、お客さんの喜ぶ姿を見るのが嬉しく、考え出したのが牡蠣の宝船というものです。具体的には、薄手の昆布で宝船を作り、この上に牡蠣の剥き身をのせて酒を振りかけて七輪であぶります。うーむ、このメニューなら私でも食べたいぞ。小松原さまの急な結婚に、澪の胸はいたみますが。

第3話:「一陽来復~鯛の福探し」。こんどは、澪さんの嗅覚が麻痺してしまいます。おそらく精神的なものか、という設定のようです。味覚障害が亜鉛との関連で起こるのは知っていますが、さんざん牡蠣を食べたばかりで亜鉛不足は考えにくい。それで嗅覚障害としたのでしょうか。吉原の料理人・又次が手伝ってくれることになり、「つる家」はのれんを下さずにすみました。
ところで、鯛の福探しというのは、若い時に鶴岡在住の頃に、妻と一度だけやったことがあります。庄内の冬の名物、甘鯛。高かったけれど、実に美味でした。鯛には九種の宝の骨があって云々というのは、魚屋さんで聞いた台詞だったか、妻が教えてくれたのだったか、私には懐かしい記憶です。

第4話:「夏天の虹~哀し柚べし」。二か月という期限で助っ人に来てくれていた又次でしたが、ふきに料理の手ほどきをしてくれていました。ところが、又次が帰ったその夜に吉原で大火があり、吉原が炎上してしまいます。あさひ太夫(野江)を救い出したものの、又次は大火傷を負い、死んでしまいます。「つる家」に戻り、又次が作って軒下に下げてくれていた柚べしを食べたとき、澪は嗅覚が戻っていることに気づきます。映画ならば、炎上する吉原の迫力と、故人を偲ぶ情感ある見事な場面の連続となったことでしょう。

既刊で残るはあと一冊、最新刊『残月』のみとなりました。

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