電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

モーツァルト「弦楽五重奏曲第4番ト短調」を聴く

2013年06月30日 06時38分59秒 | -室内楽
通勤の音楽に、再びモーツァルトの弦楽五重奏曲を聴いておりました。今回は、第4番ト短調、K.516です。自宅でゆっくりと耳を傾けると、あらためて「なんてすてきな音楽なのだろう」と感嘆します。

この曲は、第3番ハ長調と並行して作曲され、完成したのは約一ヶ月後の1787年5月16日だそうです。モーツァルトは31歳。歌劇「フィガロの結婚」を初演しプラハでの大ヒットを経て、父親レオポルトの死と歌劇「ドン・ジョヴァンニ」の作曲の時期です。交響曲の第40番と41番の関係と同様に、第3番ハ長調とは対照的な「モーツァルトのト短調」の曲。

第1楽章:アレグロ、ト短調、4分の4拍子。第1主題の不安と憂いと焦燥感などの表情が、実に印象的な始まりです。暗い夜に、シャーロック・ホームズとワトスンが馬車に揺られて急行するようなドラマの一場面に、BGMとしてピッタンコの曲想かも。
第2楽章:メヌエット、アレグレット、ト短調、4分の3拍子。メヌエットと緩徐楽章の配列順序に「おや?」と思いますが、曲想からみて、やっぱり第1楽章とこの第2楽章を続けたほうが良いのかもしれません。ト短調・急~ト短調・緩~変ホ長調~ト短調です。
第3楽章:アダージョ・マ・ノン・トロッポ、変ホ長調、4分の4拍子。五人とも弱音器をつけているのでしょうか、優しい緩徐楽章です。途中のひそやかな転調も、実に効果的。好きですねえ、こういう音楽。
第4楽章:アダージョ~アレグロ。ト短調、4分の3拍子の長い序奏のあと、ト長調、8分の6拍子のロンドへ。曲中、テンポを変え、音域を変え、中心となる主題がずっと鳴っているように感じます。

大胆な転調、細やかで鋭いリズム。主題は心にするりと入ってくるような印象的なもので、悲哀を感じさせます。多感な若い時代ならば、思わず背後に何か深刻なドラマを想像してしまいますが、悲哀の深刻さだけを誇張すると、モーツァルトの音楽が別なものに変わってしまいます。明と暗、喜びと悲哀が入り混じった色調で、バランスを取って奏でられるのがモーツァルトの音楽だろうと思いますが、この曲はバランスが悲哀の方に大きく振れた曲なのでしょう。

演奏は、スメタナ四重奏団にヨセフ・スークがヴィオラ奏者として加わっています。全曲の録音の中では、第3番とともに一番最初に録音されており、1976年の6月に、プラハのスプラフォン・スタジオで収録されたPCM/デジタル録音です。DENON のデジタル録音の中でも、比較的早い方に属し、スプラフォン社との共同制作になっています。制作担当はエドゥアルト・ヘルツォーク、録音担当はスタニスラフ・シーコラとクレジットされており、この頃はまだヨーロッパ録音もよちよち歩きの時期だったのかもしれません。LP:OZ-7065、CD:COCO-70430 です。

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