電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

『マエストロ、それはムリですよ…』を読む

2009年07月26日 06時26分06秒 | クラシック音楽
「日本最小のオーケストラが激変?観客動員数180%増のキセキに迫る!~指揮者・飯森範親がムリを当たり前に変えた、真実の物語」という帯のついた本、『マエストロ、それはムリですよ…』という本を購入し、読みました。「~飯森範親と山形交響楽団の挑戦~」という副題のついた、写真の上段真ん中にある、B6判 200ページ弱の本です。
だいたい、クラシック音楽畑の本なんて、売れない本の代名詞みたいな存在です。ところが、Yamaha music media corporation 刊のこの本、当地の一般書店で平積みになっており、結構な数が売れていて、最近三度目の増刷がかかっているのだとか。当方が購入したのは、増刷版でした。

本書の構成は、次のとおりです。

第1章 飯森範親と山響の出会い
第2章 新しいボスがやってきた
第3章 しなやかな発想と大胆な行動
第4章 もっと山響が聴きたい
第5章 飯森範親"極私的"インタビュー

第1章の常任指揮者就任までのエピソードは、初めて知りました。
第2章、新しいボスの下で、運営面の改革を進めていく話は、リアルタイムで経験した話ですので、実によくわかります。山形県民会館でなく、山形テルサホールを使うことで、郊外から車で演奏会に行くのが、格段に便利になりました。また、カラーのパンフレットが実に素晴らしく魅力的で、定期演奏会が週末に組まれることになったこととあわせて、定期会員に申し込む気持ちになりました。それまでは、変則夜間勤務の生活だっただけに、とてもじゃないが、平日夜の演奏会に足を運ぶことは不可能だったのです。
第3章、企画力と、それを実現してしまう力。この章で最大の魅力は、山響のCDだと思います。二管編成の、響きの美しいオーケストラによる意欲的な演奏がデジタル録音され、楽団独自の原盤権のもとにリリースされる。それが、すでに六枚になっており、今後も続々とリリース予定とのこと。今までに発売されたものは全部購入していますが、さて今日は何を聴こうかとCDを探すとき、かなりの頻度で手が伸びます。コンピュータ・フリークとしては、できれば国内オケがどこもやっていない(と思われる)ネット配信などに、全国に先駆けて進出すると、面白いだろうと思います。
第4章、今後の山響の方向性です。8年がかりのモーツァルトの交響曲全曲演奏、映画「おくりびと」のエピソードなど、多彩な内容です。
第5章、普通高校から音大へ進んだ飯森さんのハードな学生時代。もしかしたら、途中で潰れていたかもしれない若者を支えた、ジャン・フルネ氏の "Excellent" の一言の価値。苦しい努力を続ける若者にかけられる励ましの言葉の、千金の重みです。



実際に飯森さんがこの本を書いたのではなく、ライターの松井信幸氏が取材し構成した本です。ですから、基本的にはビジネス書の雰囲気です。音楽ビジネスの成功事例。でも、専門家がプロとして改革を成功に導いた点が新鮮です。非専門家が門外漢として組織の長になり、様々な改革に取り組む話は多く、面白くはあるのですが、なぜプロフェッショナルがプロとして活躍できるよう、環境作りが行われないのか、という疑問のほうが強いものがあります。お医者さんが病院で存分に腕をふるい、教育家が教育に専念できるように、です。音楽のプロが組織を成功に導くという話は、これまであまりなかったように思いますが、素人の床屋談義のような改革論はもう飽きてきて、音楽や楽団経営を知り尽くした、プロフェッショナルらしい改革の視点が新鮮でした。でも、裏方で頑張る、一生懸命な山響事務局の方々には申し訳ないことながら、一番印象的だったのはやっぱり常任指揮者への就任を要請に出向いたときのエピソードでした(^o^)/

コメント