電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山形弦楽四重奏団第32回定期演奏会を聴く~メンデルスゾーン6番とハイドン「皇帝」等

2009年07月27日 05時51分44秒 | -室内楽
なかなか梅雨が明けない天候不順な夏の夜、山形県郷土館文翔館にて、山形弦楽四重奏団第32回定期演奏会を聴きました。以前の経験(*)から、冷房がしっかりきいていることを考慮して、長袖のシャツを持参しました。

アンサンブル・とも's によるプレコンサートは、ハイドンのヴァイオリンとヴィオラのための6つのソナタより、第3番。弦楽器2人だけで、こんなにチャーミングで、豊かな音楽になるのですね。
続いてプレトークはチェロの茂木明人さん。本日の曲目について、ハイドンのOp.20-2では、モーツァルトに出会う前の職人芸の見事さを、Op.76-5「皇帝」は、ハイドンセットを献呈してくれたモーツァルトはすでに没した、晩年の作品だが、マンネリに陥らない生命力を感じてほしいと話します。もう一曲、メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第6番については、あまり多くを語らずに、「リハーサルの最中に雷が鳴ってただならぬ雰囲気に。はたしてどうなるか、お聴きください」とのことです。

議場ホールに、四人の奏者がそろいます。第1ヴァイオリンの中島光之さん、グレーのシャツに、黒地にプリントの長いネクタイをして、腕まくりをして登場。第2ヴァイオリンは駒込綾さん。黒のドレスで、髪型が涼しげなショートカットになっています。ヴィオラの倉田譲さん、ブルーグレイのシャツにネクタイ、サスペンダーが粋なアクセントに。そしてチェロの茂木明人さん、黒っぽい(濃紺?)シャツに明るい色のネクタイと、皆さん夏の夜を意識して、おしゃれなスタイルです。

第1曲、ハイドンの弦楽四重奏曲ハ長調、Op.20-2「バグパイプ・メヌエット」。第1楽章、モデラート。ハイドンらしい伸びやかな音楽です。第2楽章、カプリッチョ:アダージョ。同じ主題を四人で合奏した後で、それぞれの楽器がメリハリのきいた音楽を奏します。夢見るような緩徐楽章ではなく、カプリッチョ(奇想曲)の名のとおり、やや風変わりなアダージョです。第3楽章、メヌエット:アレグロ。ここのドローン(保続音)がバグパイプを連想させることから、このような愛称がついたのだそうです。第4楽章、Fuga a 4tro sogetti Allegro というのはどういう指示なのでしょうか。速いフーガだというのはわかりましたが(^o^) 曲の終わりに、弓を離して音を響かせ、エンディングがばっちり決まりました!

続いてメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第6番ヘ短調Op.80です。姉ファニーが亡くなったことを旅先で知らされたメンデルスゾーンが書いた、運命に対する怒りも混入しているような、嘆きと悲しみの音楽。
第1楽章、アレグロ・ヴィヴァーチェ・アッサイ。とても vivace(輝かしく) とは縁遠い、不安気な始まりです。荒れ狂うような、Vc-Vla-2nd.Vn-1st.Vn と続く、不安と嘆きの劇的な連鎖。
第2楽章、アレグロ・アッサイ。これも激しい感情の渦巻くような音楽です。曲中、最も短い音楽ですが、最後は目立たぬピツィカート?で、感情は未解決のままに終わります。
第3楽章、憤りを抑えた、優しいアダージョです。たいへん美しい音楽です。
第4楽章、フィナーレ:アレグロ・モルト。チェロに続き、第1ヴァイオリンが低い音で。そういえば、メンデルスゾーンは、この曲全体で、ヴィオラのお株を奪うような低い音でヴァイオリンを使っています。それが、単に甘美なだけの音楽ではない、生々しい感情を表すことに成功しているようです。劇的なフィナーレです。

ここで、15分の休憩が入ります。雨天にもかかわらず、お客さんはだいぶ入っており、すてきな和服の女性もいらっしゃいました。お隣の男性も貫禄があり、なんとなくお医者さんのような雰囲気で、もしかすると庄内の笛吹き balaine さんと kanon さんのご夫婦なのかな、などと想像しておりました。そういえば、お手洗いに立つような風情で二階に上がったり、少し館内を散歩していると、山形交響楽団の団員の方々のお顔もちらほらと見えるようです(^o^)/

そしてハイドンの弦楽四重奏曲ハ長調Op.76-5「皇帝」。
第1楽章、アレグロ。おお、ハイドンだ!メンデルスゾーンの荒れ狂うような憤りと悲しみの世界とは打って変わって、人生の酸いも甘いもかみわけた人の音楽世界。
第2楽章、ポコ・アダージョ・カンタービレ。旧オーストリア国歌で、現ドイツ国歌なのだそうですが、思わず聞き惚れます。チェロとヴィオラがお休みして、二つのヴァイオリンが奏でる歌に聞き惚れたり、ヴィオラが独特の音色でしっとりと歌ったり。軍楽隊の吹奏楽でやるとまた違うのでしょうが、ほんとにいい旋律ですなぁ。ちょっぴりだけヴィヴラートをかけた 2nd の だちゅ さんの新しい楽器、いい音色でしたよ~(^o^)/
第3楽章、メヌエット:アレグロで。楽しいメヌエットです。中島さんの第1ヴァイオリンが終始リードします。
第4楽章、フィナーレ:プレストで。後期のハイドンらしい、実に緊密なアンサンブル。抽象的だが、充実した音楽の世界です。室内楽を聴く愉しみを、存分に味わうことができました。

アンコールは、モーツァルトの歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」から、四重奏で「アリア」だそうです。オペラの中の歌をカルテットで演奏されるのを聴くのは、こちらも初めての経験です。某評論家は、モーツァルトの「声楽の中に器楽を聴く」と言いましたが、私はやっぱり「器楽の中にも思わず声楽を聴いてしまう」ほうですね~(^o^)/
今回も、充実した演奏会でした。帰りの雨もなんのその、妻と二人で、良かったね~、と話をしながら帰途につきました。

【余談】
私の Ubuntu-Linux に用いられたかな漢字変換 Anthy-SCIM で、中島「光之」さんを変換しようとしたら、中島「密輸機」さん、だそうで。戦前の中島飛行機が旧陸軍に納めた特殊航空機みたいで、字面がもっともらしく見えるところがすごい。久々に、コンピュータのおバカさに爆笑しました(^o^)/

(*):山形弦楽四重奏団第24回定期演奏会を聴く~「電網郊外散歩道」2007年7月
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