電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

モンゴメリ『アンの青春』を読む(3)

2009年07月11日 05時57分40秒 | -外国文学
モンゴメリ作『赤毛のアン』シリーズ(*1)第二作『アンの青春』を、松本侑子訳の集英社文庫で読んでいます。アヴォンリーの学校で教師生活をしているアンの日常は、派手な色恋沙汰とは無縁ながら、相変わらず愉快です。

第21章「すてきなミス・ラヴェンダー」第22章「人それぞれの近況」。夏休みが終わって学校が始まり、アンは学校に戻ります。秋を迎えた金曜の夕方、アンはダイアナと一緒に歩いて出かけます。ところが分かれ道で間違った方へ行ってしまい、森の小径で小さな石の家にたどり着いたのでした。そこは魔法の家ではなくて、ずっと昔に、ポール・アーヴィングの父親と婚約していたという、ミス・ラヴェンダー・ルイスが、お手伝いの娘と一緒に住んでいる「こだま荘」でした。ミス・ラヴェンダーを、アンは「心の友」と感じます。ポールの父スティーヴン・アーヴィングとミス・ラヴェンダーが、どうして仲違いをして婚約を解消したのか、アンの見解は

「後になってみると、全然大したことじゃなかったかもしれないわ。人生は小さなことのほうが、大きなことよりもずっと厄介をひきおこすのよ」

とのこと。うーむ。なかなか深い洞察であるなあ。
第23章「ミス・ラヴェンダー、昔の恋を語る」第24章「預言者は地元では信用されないというが」。12月の雪の中、アンはこだま荘を訪れ、御年45歳の独身女性の昔の恋の話を聴きます。ちょっとした行き違いと不機嫌が双方のプライドに後押しされて、ついに別れ別れになってしまった話。なるほど、これはきっと、アンとギルバートの行く末に対する教訓なのでしょう。一ヶ月後に、同行したポールと対面して、もしかしたら自分にも生まれていたかもしれない子供の姿に、ミス・ラヴェンダーの心はひそかに波立つものがあったことでしょう。
それはさておき、シャーロットタウンの新聞に「アヴォンリー覚え書き」という匿名記事が掲載され、その中にある嵐の予報記事がたまたま当たってしまったために、アンクル・エイヴが預言者のようになってしまったそうな。しかし、相当の被害ですね、これは。
第25章「アヴォンリーの仰天事」第26章「曲がり角のむこう」。またも新聞の匿名記事のおかげで、気難しい隣人ハドソン氏の奥さんが押しかけ、別居中の夫婦の「よりが戻る」結果に。ギルバートがホワイトサンズの学校の教師をやめ、秋には島を出て大学に行くとの知らせを伝えたレイチェルの夫君が亡くなります。マリラはアンに大学に行くようにすすめ、自分はレイチェルと一緒に暮らすつもりだと伝えます。アンとギルバートの二人が村を出たら、ダイアナは寂しくなりますね。
第27章「こだま荘の昼下がり」第28章「王子様、魔法の宮殿にもどる」。無邪気なデイヴィとの会話を打ち切り、アンはポールを連れてこだま荘を訪ねます。ポールがお父さんの話をすると、ミス・ラヴェンダーの美しい顔に、今もさっと赤みがさすのです。失われた希望、失われた夢、失われた喜びのこだまの中で、20年以上も過ごした日々を思うのか、ミス・ラヴェンダーは近頃元気がないのです、と、アンを崇拝する、主人思いのお手伝いの娘シャーロッタ四世(^o^)は心配しています。大学に行くことになり、学期末を区切りに教師生活をやめることになったアンとの別れを、子供たちは悲しみます。子供たちを教えながら、逆に教わることのほうが多かった、という描写も、たぶん経験からくる作者の実感だったのでしょう。そしてポールの父スティーヴン・アーヴィングが帰郷し、石の家にかつての婚約者を訪ねるのです。その結末は……言わずもがな、でしょう。
第29章「詩のように見る人、平凡に見る人」第30章「石の家の結婚式」。スティーヴン・アーヴィングとミス・ラヴェンダー、そしてダイアナとフレッド・ライト。様々な婚約と幸福に、若い娘アンが心を動かさないはずはないのです。結婚式の終わりに、石の家の施錠を引き受けた赤毛の娘は、一人物思いに沈みます。そんなアンに声をかけてきたギルバートと共に歩くアンは、レドモンド大学での生活の向こうに、夢と笑い声と人生の喜びを見るのです。



わが娘が結婚するとき、たしか「恋は情熱だが、愛情には理解と忍耐が必要だ」という言葉を贈ったものでした。賢明な青年に成長したギルバート君は、理解と忍耐の必要性を、どうやら充分に知っているようですね。

(*1):モンゴメリ『赤毛のアン』を読む(4)~「電網郊外散歩道」より
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