電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ第10番」を聴く

2008年06月10日 05時22分45秒 | -室内楽
このところ、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第10番に、文字通り「はまって」います。単身赴任のアパートで、小型スピーカでも意外にいけることがわかって以来、夜の食卓でも、通勤の音楽としても、くり返し聴いてきました。この週末には、自宅のステレオ装置で、ピアノの音が満足できる程度に大きめの音量で聴き直し、大満足。あらためて言うのもなんですが、いい曲ですねぇ!

ヴァイオリンソナタのジャンルでは、「クロイツェル」ソナタ(*)のあと9年間の沈黙をやぶり、作曲者42歳の1812年、ちょうど第8交響曲が作曲された年に完成しています。ヴァイオリニストのロードと、ルドルフ大公のピアノにより、ロプコヴィッツ伯爵邸にて初演され、ルドルフ大公に献呈されているとのことですが、それよりもこの曲の印象を強めるのは、ゲーテに会い、青木やよひさんによれば「不滅の恋人」とされるアントーニア・ブレンターノと親しくなった、まさにその時期の作品であるという事実です。

きわめて集中力に富んだ、しかし静穏な気分の中に喜ばしい情緒をたたえた音楽。見かけは慎み深い、しかし内には豊かな愛情をたたえた音楽と言ってよいのかも。「あの」不幸なベートーヴェン、運命に抗うベートーヴェンが、不安を秘めながらも、このような平穏で幸福な音楽を書く時期を持てたことを祝福したいと思います。

第1楽章、アレグロ・モデラート。「クロイツェル」ソナタの重苦しい開始とはがらりと変わって、ヴァイオリンとピアノとが歌い交わすような始まりです。軽やかなヴァイオリンの旋律のチャーミングなこと。
第2楽章、ゆったりとした美しいピアノの旋律で始まり、アダージョ・エスプレッシーヴォと指示されています。息の長いヴァイオリンの歌とともに、深いピアノの響きが実に素晴らしい。集中力がすごい音楽です。
第3楽章、スケルツォ、アレグロ。アタッカで入るところは少し不安げですが、すぐに晴朗な気分が戻ります。ここは、たいへん短い楽章です。
第4楽章、ポコ・アレグレット。オルゴールにでも出てきそうな、かわいらしい旋律で始まりますが、ピアノに導かれて次々と変奏されていきます。中間部のゆっくりしたところで、静かに転がるようなピアノの音の美しいこと!後半の情熱的な盛り上がりも見事ですが、合間に聞かれる静かなささやきのようなところも、たいへんに魅力的です。

ベートーヴェンの、このジャンル(*2~*4)最後の曲というだけのことはあります。どちらかといえば、私は「クロイツェル」ソナタよりも、この第10番が好きですね。



演奏は、ヨセフ・スーク(Vn)とヤン・パネンカ(Pf)、DENON の紙箱全集(COCO-83953-6)からの一枚。スプラフォン原盤で、1960年代後半のアナログ録音ですが、充分に楽しめる音質です。録音時期を見る限り、チェコスロヴァキアが「プラハの春」に高揚し、ソ連の鋼鉄の戦車が侵入する直前の時期かと思われます。

■スーク、パネンカ
I=10'20" II=7'16" III=2'10" IV=10'07" total=29'53"

(*):ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」を聴く
(*2):ベートーヴェンの「ヴァイオリン・ソナタ第7番ハ短調」を聴く
(*3):ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ第4番」を聴く
(*4):ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番「春」を聴く
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