電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

C.W.ニコル『勇魚』上巻を読む

2008年06月18日 06時44分20秒 | 読書
C.W.ニコル著『勇魚』の上巻を、ようやく読了しました。面白いです!

幕末、紀州の捕鯨の村の刃刺の長男に生まれた甚助は、勇敢でたくましい若者です。マッコウクジラを追っていた時に、米国の捕鯨船のキャッチャー・ボートに遭遇、米国人と接触して、鯨歯細工の櫛をもらいます。しかし、ある日海に落ち、鮫と格闘して左腕を失います。隻腕となった彼を、鯨舟職人の一人娘およしが思いを寄せるのですが、互いの家の事情が二人を妨げます。やがて、およしが子どもを身ごもった頃、甚助は松平定頼の命により、琉球に渡ります。
琉球では、定頼の計らいで、金城を空手の師として鍛錬に励みますが、黒船を観察する日常を疑われ、薩摩藩に密偵と疑われます。捕らえられた甚助は拷問を受けますが、松平の名前は出しません。薩摩に移送する途中で海に落とされますが、それは外国船に拾われるように計らった、救いの策でした。中国に渡った甚助は、海賊と戦ったりしながら、米国に渡ります。残されたおよしと結婚した、甚助の弟の三郎の穏やかさとが、対比的に描かれますが、三郎の絵の才能は鯨舟の装飾では生かせず、絵巻物の絵師として世に出ます。かたくななおよしが、三郎の深い愛情に気づくのが、遅いです(^o^)/

幕末の時代を借りていますが、いわゆる歴史小説ではありません。著者のことは、日本が好きで田舎暮らしをしている、ナチュラリストのヘンな外人、という程度の認識しか持っていませんでした(^o^;)>poripori
村上博基氏の訳が、幕末の時代を反映させた、たいへん格調高い日本語です。初版は、文藝春秋社から1987年に出ていますが、奥付を見ると1990年の第12刷とのこと。物語はまったく古びておりません。
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