電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」を聴く

2008年06月03日 05時38分31秒 | -室内楽
春からずっと、断続的ではありますが、ヨセフ・スーク(Vn)とヤン・パネンカ(Pf)によるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ集(DENON COCO-83953-6)を聴いておりました。とくに、第9番と第10番の2曲が収録されたCDを聴くと、「スプリング&クロイツェル」という定番の組合せとは違った印象を受けます。

たとえばフランチェスカッティ(Vn)とカサドシュ(Pf)のLPや、西崎崇子(Vn)とヤンドー(Pf)によるCD(NAXOS 8.550283)では、はじめにスプリング・ソナタを聴いて、次に「クロイツェル」ソナタを聴きますので、どうしても第1楽章の緊張感に満ちた音楽に、強い印象を受けます。ところがスークとパネンカによるヴァイオリン・ソナタ全集から一枚を取り出して聴くときは、始まりの楽章の緊張感はもちろんありますが、第10番のおちついた静謐さに強い印象を受ける、といった具合です。

「英雄」交響曲の前年、作曲者33歳の1803年に作曲された、「協奏曲のように」と記されたヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」は、3つの楽章からなります。
第1楽章、アダージョ・ソステヌート~プレスト。ヴァイオリンの深刻な重音で始まる、この緊張感がたまりません。文豪や後の作曲家が何を妄想しようと自由ですが、あいにく当方はいたって人畜無害。音楽を抽象的なままに楽しみましょう。緩急の対比もまた激しいものがあり、録音を聴きながら、ヴァイオリニストはきっと厳しい表情で演奏しているのだろうなぁ、と想像します。それにしても、この楽章の堂々たるピアノの素晴らしさ。
第2楽章、アンダンテ・コン・ヴァリアツィオーニ、と読むのでしょうか。一転してピアノが軽やかな変奏にはねまわり、ほとんどピアノソナタの風情です。ヴァイオリンもまた、楽しそうに高音域の美音を聴かせますが、どちらかといえばピツィカートやオブリガートでピアノを引き立てるような役回りでしょうか。
第3楽章、フィナーレ。プレストで。始まりのピアノの強烈な一打に続くヴァイオリンのスタッカートの旋律が、次々に姿を変えて反復されます。

パソコン用の小型スピーカでは、表情豊かなヴァイオリンの印象が強く出ますが、自宅のステレオ装置で聴くと、ピアノの音が豊かに響きます。このソナタの協奏曲のような性格は、小型スピーカではやっぱり無理な面があるようです。それにしても、パネンカのピアノは良いなぁ。

スーク盤は、1967年の秋にプラハのスプラフォン・ドモヴィル・スタジオで収録されたアナログ録音で、西崎崇子盤は、1989年の春にブダペストのイタリア協会でのデジタル録音です。20年の差は音の鮮度に表れていますが、音楽を楽しむ上ではまったく支障はありません。

■ヨセフ・スーク(Vn)、ヤン・パネンカ(Pf)
I=14'28" II=15'25" III=9'18" total=39'11"
■西崎崇子(Vn)、イェネ・ヤンドー(Pf)
I=11'37" II=15'04" III=6'25" total=33'06"

写真は、山形市内の街路樹に咲くマロニエの花。先月下旬、たしか20日頃の撮影です。
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