行徳生活日記

「行徳雑学館」作者の日記。

2011年4月19日(火)の日記

2011年04月19日 | 日記

朝の強い雨は自分が家を出る頃には上がっていた。でも、帰りの時間には冷たい雨が降り、季節が1ヶ月ぐらいは逆戻りした感じだった。風引きに注意。

帰りはジャズライブのHot Houseへ行く。晩飯はこの店でピラフ

今日行ったのはこの本を持って行くため。

"THE REAL BOOK - VOLUME 2 C Instruments"というジャズのスコアブック。

この本には Holy Land という曲の楽譜が収録されている。

去年の秋、ジャズの曲をもっといろいろ聴きたいと思って買ったCDに、「BEST JAZZ 100 PREMIUM」というCD6枚組みで100曲収録のがあった。

この中にHoly Landが収録されていた。心の奥底に秘めた強い情念を感じさせる演奏。そういうものはインパクトが強いため、一時、はまった。それで、今年の1月にHot Houseへピアノソロの日に行ったとき、ピアノの松井節子さんにリクエストしたが、iPodに入れたのを聞いてもらっても、
「この曲、知らない。」
ということだった。松井さんが持っていた、かなり多くの曲が収められたジャズのスコアブック2冊を見せてもらっても、Holy Landは載っていなかった。それなら、いずれ楽譜が手に入ったらということにした。また、一時は、はまった曲だが時間が経つに連れて徐々に冷めて行った。

ところが、3月11日の東日本大震災のあと、時間が経つほど、再びHoly Landを無性に聴きたくなってきた。聞いてみると前とは聞こえ方が違っていた。

悲しみと向き合い、悲しみを分かち合って魂を慰め、そして、悲しみを背負って生き続ける力を得る-

そんな音楽に聞こえてきた。

同じものを見ても聞いても、見る側、聞く側の心理状態で見え方、聞こえ方が変わってくるというが、大震災が自分の心理状態を変えたのだろう。

大変な災害が起こっても、冷静さを保つように心がけ、仕事もそれ以外の生活も前と変わらず続け、同時に経済が落ち込まないように、自分ができる経済活動を続けている。でも、震災で2万8千人という人が命を落としたり、今も行方不明であり、また多くの街が破壊されて廃墟となったという事実が、毎日、メディアを通して意識にインプットされ、どんどん蓄積している。でも、直接被災したわけではないし、被災地はもっとひどい状況だという思いが、蓄積された悲しみと向き合うことを抑制している。

メディアを通しては、「がんばろう日本」というキャッチフレーズが代表するように、勇気を持って前向きに生きる力を与えようとする動きが伝わってくる。しかし、悲しみと向き合い、分かち合うことも、このような悲劇に見舞われたときは、前向きにがんばることと表裏一体であるべきだと思う。黙祷をささげる場面などがメディアで伝えられてはいるが、どうしても片側(「前向きに」の側)だけが強調されすぎる状況になっている。

自分がこのように感じているということは、今の状況では日本人の多くにとっても同じだろうと思った。Holy Landのような音楽が今、必要だ。同じ役割を果たすものは音楽の他のジャンルや、音楽以外の芸術でもあるだろう。また、すでに活動しているアーティストも多くいるだろう。自分がHoly Landに出合ったのは偶然だが、それがジャズの曲で、自分が歩いていける距離に10年余り付き合いのあるHot Houseというジャズライブの店があり、松井節子さんという大ベテランのピアニストがいて、

そして、店のママさんがチャリティライブを開くことを予定している。それで、自分で楽譜を手に入れて持って行き、店のライブでもチャリティライブでも演奏してもらおうと思った。自分に音楽を演奏する技能があればいいのだが、そんなものはないから、そこはアーティストにお願いするしかない。楽譜を手に入れるのに費用はかかるが、自分にできることとして、そうしたお金の使い方もアリだろう。

この前、六本木で映画を見た帰りに銀座へ寄って、山野楽器とヤマハの楽譜コーナーで探してみたが見つからない。仕方がないのでネットで探すと、アメリカの出版社が出している"THE REAL BOOK - VOLUME 2 C Instruments"というスコアブックが見つかり、アマゾンのマーケットプレイスに出店している日本の販社が扱っていたので、そこで注文した。アメリカからの発送で昨日、ようやく届いたので今日、Hot Houseへ持って行った。

ここまで書いたことをママさんと松井さんに話し、店やチャリティライブでの演奏をお願いし、快く引き受けていただいた。スコアブックは自分が持っていてもしょうがないので「差し上げてもいいですよ。」と言ったが、それは遠慮されたので、所有権は自分のほうに置いたまま、無期限でお貸しすることにした。

チャリティライブと言っても、そんなに大規模ではないし(行徳文化ホールが会場だが、大きいホールではなく、1階の会議室のほう)、ごく限られた地域での催しだ。だから、Holy Landという曲が今の日本人に必要だと自分が思っても、やれることは限られている。あとは、まさにこのブログの日記に今、書いているように、こういう曲があることを発信するぐらいだ。

 

Holy Land だが、辞書で言葉の意味を調べると、聖地とかパレスチナとかが出てくる。でも、自分に取ってはあまり重要ではない。重要なのは楽曲それ自体だ。Holy Landのカタカナの表記は、この曲が収められていたCDの目録や解説書では「ホリーランド」となっているが、「ホーリーランド」という表記も多いようだ。一般的な言葉だから、ドラマのタイトルやいろいろな歌の歌詞などにも使われている。 

「BEST JAZZ 100 PREMIUM」に収められていたのは、アル・ヘイグ(Al Haig)というピアニストの演奏。1974年(昭和49年)に発売された「Invitaion」というアルバムの1曲目に収録されている。最初、
 holy land jazz
で検索したが、なかなか見つけにくかった。
 invitation al haig
で検索するとたどり着きやすい。iTunes Storeやアマゾンのサイトで検索すると、どちらもMP3版をダウンロード販売している。

そのアルバムのCD版はネットで探しても中古しかなかったが、やはり部屋のオーディオで聞きたいと思ったので買った。

アル・ヘイグは1982年(昭和57年)に58歳の若さで亡くなったとのこと。CD付属の解説書によると、あまり商業ベースに乗った演奏はせず、自分の音楽を追求するピアニストだったということで、アメリカでは人気はなかったが、イギリス、フランス、日本で人気があったということだ。亡くなったのが29年前、アルバムが37年前、アメリカで人気がなかったということで、演奏した曲も今はマイナーである理由がようやく分かった。

Holy Landを作曲したのはシダー・ウォルトン(Cedar Walton)というピアニスト。You Tubeで、
 holy land al haig
や、
 holy land cedar walton
で探すと、両者の演奏(音+静止画に編集したもの)が見つかる。

シダー・ウォルトンの演奏を聴いたら驚いた。同じ曲だから同じメロディが鳴っているのに、おどけた感じの演奏で、「いたずら小僧」という言葉が頭に浮かんだ。演奏者によるいろいろなアレンジを許す自由度の高さがジャズなのだろうけど、同じ曲がこれほど違って聞こえると言うのには正直、驚いた。だから、自分の心に響いたのは「アル・ヘイグのHoly Land」と呼ぶべきなのだろう。「BEST JAZZ 100 PREMIUM」に収められたのがアル・ヘイグのHoly Landだというのは、1974年のアルバムInvitationで日本人の、ジャズ好きな人たちの記憶に残ったからだと思う。

音楽でも、他の作品でも、一旦、生まれたものは一人歩きしてしまうところがある。作った人の思いは、それはそれとしてあるが、それとは別に、それが必要とされるところ、活きるところへ引力に引かれるように向かって行く。ベートーベンが第九交響曲を作曲したときにはそんなことは思わなかっただろうけど、日本人が年忘れの演奏会で聴いたり、合唱に参加することを好んでいる。「フランダースの犬」はイギリス人の女性作家が書いたベルギーを舞台にした物語だが、ベルギーでは少年と犬の悲劇は受け入れられずに忘れ去られ、日本人には愛されて広まり、日本からベルギーへ伝わった。

自然災害がまったくない国はないだろうけど、日本の国土は地震だけでなく、台風、高潮、火山の噴火、洪水、山崩れなど、人間の力でコントロールできない自然の力による災害が、相対的に多い。そして、毎年、そんな災害で多くの悲しみが生まれる。そうした風土だから、アル・ヘイグの心の奥底に秘めた強い情念を感じさせる演奏が受け入れられたのだと思う。そして、未曾有の大震災が起こった今、アル・ヘイグのHoly Landは日本人にとって

悲しみと向き合い、悲しみを分かち合って魂を慰め、そして、悲しみを背負って生き続ける力を得る-

音楽だと確信している。

今日はInvitaionのCDもHot Houseへ持参して、松井さんに聞いてもらった。でも、アーティストに他のアーティストのコピーをしてくれなどという失礼なことを言ってはいけない。なので、松井さんにはこうした音楽としての演奏を望むということを伝えてきた。