大阪にいても暑いので、山のほうの少しでも涼しいところへ行く。3年前の夏休みには高野山へ行った。2年前は天候不順だったので特にどこにも行かなかったが、去年は比叡山へ行った。そして今年は吉野へ行く。吉野は22、3年前、自分が社会人になって3、4年目の頃、やはり夏休みに父親と二人で行ったことがある。父親は今はもう歳で、暑い時期に山の上の坂が多いところなどは行きたがらないので、今回は一人で行く。
大阪阿部野橋から近鉄線で吉野行きに乗る。行きは指定席などはないふつうの型の車両の急行で。
1時間半ちょっとで吉野に到着。吉野は観光地とはいえ、賑わうのは桜の季節。今は夏休みシーズンといっても、今日は平日だから閑散としている。電車で終点まで来たのも自分を入れて数えるほどの人数しかいなかった。
ロープウェイで吉野山へ上る。このロープウェイは昭和3年にできたという古いもの。自分の父親が生まれたのと同じ年だ。
吉野山は桜の木が多いことから、低いほうの地区から下千本、中千本、上千本、奥千本と呼ばれている。ロープウェイで上ったところが下千本。
街路は峰づたいにゆるやかに上っていくが、それにしても地元の人や、地元の車以外にはなかなか出会わなかった。
やがて前方に大きな山門、そのとなりに萱葺き屋根の大きなお堂が見えると、それが金峯山寺。
吉野山の中心となるお寺。萱葺き屋根の大きなお堂が蔵王堂。
ここまで来たら、外国人観光客が数人いた。
道を進むとわき道の入り口に鳥居。
その先に吉水神社というのがあるので行ってみる。事前には観光協会のホームページをざっと見たぐらいなので、どういう神社かは詳しく知らなかった。
境内の一隅に眺めのいい場所があって「一目千本」と名付けられていた。桜の季節には向こうの峰一帯の桜を見ることができるから、そう名付けられたのだろう。
お参りもしていくが拝殿隣の書院のほうが有名らしい。歴史上の著名な人物にいろいろと関係があるというのを来て初めて知った。
拝観料は400円かかるが払って見てくる。
この書院は、源平の時代には兄・頼朝に追われた義経・弁慶主従一行と静御前が吉野に身を隠したときに滞在したという間がある。南北朝の時代には南朝の皇居となり、後醍醐天皇はじめ南朝の天皇の玉座が設けられた間もある。そして、安土桃山時代には豊臣秀吉が諸将を集めて吉野の花見を催したときに本陣が置かれたといい、秀吉が使った屏風が残されていて展示されていた。また、一休さんや水戸黄門ゆかりの品(書き物)もあって展示されている。とにかく、歴史上の著名人とずいぶん関係がある。
少しきつめの坂が現れるが、そんなに長くなく、上ったところが中千本の中心部。そこまでそんなにきつくなかったし、長いとも思わなかったので、さらにその先、上千本まで行って戻ってくることにする。奥千本は距離的にバスでないと無理なようだ。
上千本に水分(みくまり)神社というのがあるようなので、そこまで行ってみることにした。その付近は眺めもよいらしい。徒歩で20分程度とのこと。時間的にも余裕はある。
上千本方面への入り口はこんな坂道。
きつめの坂だが最初だけかと思っていた。これが間違い。途中で平らになる区間はわずかしかなく、きつい坂が延々と続く。しかも途中から九十九折になる。でも、山の中とはいえ、まわりには集落が続いていた。
暑さでハアハアいいながら上り、途中、上千本の看板と公衆トイレとベンチがあるところで休憩。さらに上ってようやく水分神社が見えた。
これが水分神社の境内。お参りしてくる。
少し戻ったところに展望台がある。眺めのいいところに茶屋を作って展望台にしているが、今の時期にここまで来る観光客はほとんどいないのだろう、茶屋は休業状態だった。
上りはきつかったが、この眺めが見られたなら来た値打ちはある。
遠くに大阪と奈良の府県境の金剛山や葛城山、二上山が見えた。
今歩いてきた吉野山の峰づたいの街を見る。金峯山寺の蔵王堂はひときわ目立つ。
ロープウェイの山上乗り場からだと、100と数十メートルかあるいは200メートル以上の標高差を上ったと思う。
吉野はさらに紀伊半島の山を峰づたいに熊野本宮まで達する、修験道の修行道の入り口にあたる。水分神社までのきつい上りはそのほんの入り口。こちらは別に山岳修行をしに来たわけではないので、さっさと低いところまで下りて今日のお楽しみといく。
おいしいものを食べて昼呑みするつもりだったから、歩いてくる途中、よさそうな店がないかチェックしておいた。この静亭という店に入ることにする。
20年余り前に父親と吉野へ来たときのことはもうあまりよく覚えていないが、昼飯に鮎定食というのを食べたのは覚えている。当時はインターネットなどまだ普及前だから、新聞の行楽情報で鮎定食をやっている店のことを知り、それらしき店に入ったのだった。外から見るとそれがどうもこの静亭だったように思えた。今も静亭には鮎定食がある。もちろん、ほかにも鮎定食をやっている店はあったが。
鮎定食はもちろん注文。でも鮎を焼くのに多少時間がかかるので、間を持たせるために山くらげも一緒に注文。飲むほうはまず瓶ビール。
長い坂道を上って下りてきただけに、最初の一口が旨い。
鮎定食がようやく登場。ビールが終わったので地酒の生酒にする。やたがらすという銘柄。ラベルは静御前のイラストが載った、この店のオリジナルラベルだった。
やたがらす(八咫烏)とは熊野本宮の神の使いとされる鳥のことだということで、それにちなんで付けた名前だろう。
もうちょっと飲みたいので、やたがらすの本醸造のほうを燗にせず常温で一合だけ飲む。それと山ふぐ(こんにゃくの刺身)も食べる。
店は空いていたので眺めのいいテラス席に通された。帰りの列車までは余裕があったので、2時間ぐらいかけてゆっくりと飲んで食べる。向こうの山の稜線の上に入道雲が湧き出す眺めはなかなかいい。
遠くに入道雲は湧いたが自分のいた場所の真上ではなかったので、雨は大丈夫だった。
飲み食いし終わってロープウェイ乗り場へ向かい、吉野駅まで下る。列車まで時間があったので、駅前の店でソフトクリームを食べる。吉野桜にちなんださくらソフトクリーム。
ほかにはよもぎソフトもあった。また来る機会がいつかは分からないが、今度来たらよもぎのほうも食べてみたい。
帰りは座席指定の特急。でもたったの2両連結。
観光客が少ないときはこうなのだろう。しかも、最初のほうはこまめに停まってお客さんを集めていた。
途中までは起きていたが、やっぱり飲んだ後だから眠ってしまい、気がついたら大阪阿部野橋だった。親の家での晩飯も今日は軽く。