昨晩、「目指す店が開いていたら呑むが、閉まっていたら酒を抜く」と、千歳空港から札幌へ向かう車中で賭けた。ホテルのチェックインが22時。部屋に荷物を入れてからそそくさと、お目当ての店に行く。ビルの壁に取り付けてある看板の明かりは点いている。だが、以前来た時もこの看板は点いていたが、地下にあるその店に行ってみると閉まっていた経験があるので安心はできない。恐る恐る階段を降りていくと、やってました、ちゃんと暖簾がかかってましたよ。「味百仙」という緑の暖簾が。あえなく禁酒日は見送りとなる。
暖簾をくぐるとそうは広くない店内に結構人が入っている。店の雰囲気は明るい感じで、初めてのひとり客でもすーっと入って行ける、そんな感じのいい店だ。カンターは6席ほどで、スミに一人客がいるだけで空いていた。カウンターに座ってまずは生ビール。小ぶりの陶器のジョッキに良く冷えたのが出てくる。陶器自体も冷やしてあり、ビールの冷え頃も調度良い。あまりに旨いので普通はビールは一杯と決めているのであるが、禁じ手のオカワリを頼んでしまう。
ツキダシは冷奴。この豆腐もいい。上にかかる海苔と浅葱の風味もいい。たのんだポテトサラダが出てくる。これがまた旨い。ウインナーの2~3mmの輪切りが入っていて、こんもりと持ったサラダの上にタタミイワシが振りかけてある。ビールに大変よくあう。生ビール二杯目の禁じ手を破った張本人はこっちかもしれない。
刺身は「黒がれい」を注文したのであるが、これがまた逸品。もちもちっとしていて最高にうまい。こりゃ、酒をたのまにゃあかん、と思ってメニューをもらうと、あるあるやたらと旨そうな酒がある。その中から吟醸「南部美人」(岩手)ついで吟醸「天空の鷹」(鳥取)をいただく。どちらもふぅわりと鼻腔をくすぐり、あまく喉を潤す、いい酒であった。
お品書きを見ると食べたくなるものばかりだが胃はひとつ。何回か足を運ぶことに決めて、今日のところはその中から「さばの味噌煮」「里芋の揚げだし」「梅漬け」などをオーダーする。どれも量は多くないがいい味だ。そうなのだ、酒を美味しく呑ますための料理なのだ。最後に好物の「いくら丼」で締めた。このいくら丼も旨かったのであるが、一緒についてきた白菜の古漬けでイクラとご飯を巻く様にして食べると、さらに美味しかった。
一時間ほどの“ひとり饗宴”であったが、十分堪能できた。この店の暖簾がしまっていたら、今日のこの幸せは得られなかった。よくぞ、開いていてくれたと感謝するとともに、何回か足を運ばねばなるまいと意を決しつつ、階段を昇ったのであった。
追伸:店は札幌駅の北口から歩いて2分程度のところにある。駅のすぐそばなので、会社帰りのサラリーマンが多い。すすきののような繁華街にいかなくても、手軽に呑める名店だ。
参考文献:「太田和彦の居酒屋味酒覧」