イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「熊野木遣節」読了

2018年01月01日 | 2018読書
宇江敏勝 「熊野木遣節」読了

著者の最新刊である。
前作と同様、人々の山での生活を淡々と描いている。熊野のとある山里で生まれそこで70数年の生涯を過ごしたシナ代という女性が主人公の短編集である。
時代は昭和の初めから平成を迎えようというころあたりだろうか。山奥の里に道路が通り人々の生活がどんどん変わってゆくなかで主人公は山里での生活を続けることを選ぶ。選ぶというよりそれが当たり前だというように田に稲を植え、畑を耕す。
何の野望も望みも無く、また、社会に貢献しようという気概もないけれども、家族を守り集落で力を合わせて生きてゆく。それはただ食べて生きるだけの行為にも見えるけれどもそれが清清しく感じるのは著者の表現力なのだろうか。それともすべての人の心のなかの本質というか基本の部分がそれを求めているからなのだろうか。

退屈な生き方だと思う人もいるのだろうが、少なくとも僕はあこがれる。石の墓場のような都会のほうが退屈に思える。真っ暗な寝床で、明日はこれとこれをやらなければ・・・と思いながら眠りにつく方がよほどいい。釣りに行くのも山菜を採りに行くのもそんな疑似体験をしたいからなのではないかと思うときがある。

シナ代の子供の彦治は昭和41年生まれ。ほぼ僕と同世代だ。多分、僕もそうやって時代の流れに少しは抗って生きてきたように思う。だからあまり組織にもなじめないのか。それはやっぱりその流れに乗り切れなかった父親の影響も大きいのだろう。でも、それが残念だとか悔しいだとかあまんまり思ったことがない。まあ、高級車に乗れるような収入を得ることもなかったから仕方がないといえばそれまでだけれども、不細工でも極力自分の作ったもので生活してゆくような、そんな生き方がうらやましくすばらしいと思うのだ。

年越しの読書としてはいい本にめぐり合ったものだ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« この1年を振り返る。 | トップ | 水軒沖釣行 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

2018読書」カテゴリの最新記事