ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

ヨーロッパは移民問題で揺れている6

2017-12-29 08:49:28 | 国際関係
●結びに~対岸の火事ではない

 2016年6月、英国は国民投票の結果、EUを離脱することを決めた。この決定が、各国のリベラル・ナショナリズムの政党を勢いづけた。さらに同年11月のアメリカ大統領選挙で、「アメリカ・ファースト」を掲げ、不法移民の本国送還やメキシコとの国境に壁を建設等の政策を訴えたドナルド・トランプが勝利すると、これが一層の追い風になった。
 2016年12月のオーストリアの大統領選挙のやり直し決選投票では、リベラル・ナショナリズムの政党の候補者ノルベルト・ホーファーが、親EU・移民受け入れの候補者に敗れたものの、大接戦を演じた。またイタリアでは国民投票でEU追従的な憲法改正案が否決され、マッテオ・レンツィ首相が辞任を表明した。
 2017年3月のオランダの下院総選挙は、自由党が第一党になるか注目されたが、ルッテ首相率いるグローバリズム的リージョナリズムの中道右派の与党・自由民主党が第一党を維持し、自由党は伸び悩んだ。しかし、これに対抗するため与党が移民政策を抑制的なものに変えるなど、一定の影響力を与えている。
 4~5月のフランス大統領選挙では、国民戦線のマリーヌ・ルペンが台風の目となると見られた。第一回投票では中道系独立候補のエマニュエル・マクロンに僅差の2位につけた。しかし、一騎打ちの決選投票では、保守・中道・リベラルの票がマクロンに集まり、大差で敗れた。6月の国民議会選挙では、国民戦線はごくわずかの議席しか獲得できなかった。
 9月のドイツ総選挙では、アンゲラ・メルケル首相が率いるCDU/CSUが第1党の座を確保したが、議席を大きく減らした。難民の受け入れに反対するAfDが初めて議席を獲得しただけでなく一気に第3党に躍進し、議会運営や政策決定にも影響を及ぼす勢力となった。それとともにメルケルは、選挙後未だ連立政権を組むことが出来ず、他党と交渉が続いており、場合によっては再選挙の可能性も出てきている。
 他の国々では、チェコで10月に下院選が行われ、EUに懐疑的な中道右派「ANO」が第1党になった。東欧諸国は、西欧など多くの国が目指す難民受け入れの分担制度の恒久化に反対しており、EU内の東西の軋轢が増している。
 また同じ10月、スペインのカタルーニャ州議会が独立宣言を可決した。税制の不公平など、州民の積年の不満が噴出したものである。これに対し、スペイン国会上院は、憲法の規定に基づいて自治権停止を宣言した。プチデモン州首相はその座を追われ、逮捕を避けるためベルギーに避難した。しかし、中央政府が主導した12月21日の州議会選挙では、独立反対の政党が第一党になったものの、独立支持勢力が過半数を維持した。独立を巡って州民は分裂状態になている。同州は経済的に豊かで外国からの投資も多い。スペインから離脱する事態になれば、スペイン経済に大きな打撃となるに違いない。スペインは、EUで財政状況が特に悪い国々として、ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャとともにPIIGSの一角をなす。スペインの経済悪化は、PIIGSの他の国々をはじめ、EU諸国全体にとっても負の影響を与えるだろう。
 EUやユーロを維持しようとする勢力にとって、反難民・移民の政党が各国で台頭していることは、深刻な脅威である。彼らは、2017年に先のオランダ総選挙、仏大統領選で反EU勢力が権力を奪取するという事態を回避でき、EU推進を前面に掲げたマクロンが仏大統領になったことで、欧州統合の流れに勢いを取り戻した。ヨーロッパの支配集団である巨大国際金融資本家や欧州の王侯・貴族等は、強力な資金力を駆使して、情報操作や世論の誘導をしているところだろう。
 2017年12月15日、EU首脳会議が閉幕した。EUへの悪影響を最少化するため、各国の首脳らは英国の離脱交渉を前進させ、EU重要改革の論議に本格的に着手した。この会議でEUは、加盟国の本格的な防衛協力体制「常設軍事協力枠組み」(PESCO)を正式に発足した。防衛協力は1950年代の試みが頓挫した後、停滞していたが、今回前進できたことは統合への推進力となる。また、難民・移民対策やユーロ圏改革については、今年(2018年)6月に一定の合意を得ることを目標に議論を本格化させた。ただし、この問題こそ、EU加盟国のそれぞれの国内で、また西欧など多くの国と東欧諸国との間で、最も激しい対立を生じている事柄であり、合意形成は非常に困難だろう。
 こうした各国の状態及びEU首脳部の動きを合わせ見ると、反EU、反ユーロ、反グローバリズム、反リージョナリズムの動きが一直線に進むとは見られない。EUやユーロを維持しようとする勢力は巨大であり、また現状維持を望んだり、急激な変化を警戒する有権者は多いからである。しかし、それでもなお反EU、反ユーロ、反グローバリズム、反リージョナリズムの動きが長期的には段々、強まっていくことが予想される。

 ヨーロッパを揺るがしている移民問題は、世界的な大問題となっている。これは、わが国にとって、決して対岸の火事ではない。これから移民を積極的に受け入れ、移民を1000万人にまで増やそうという計画があるからである。1000万人の移民を受け入れるとすれば、そのほとんどは、共産党支配下の中国からの移民となる。これがどれほど危険なことか、移民問題で国家の方針を誤れば、日本は中国に呑み込まれ、衰滅に至る。ご関心のある方は、拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」の第4章以降をお読みください。(了)
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion09i.htm