ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

救国の秘策がある1~丹羽春喜氏

2010-12-21 08:50:57 | 経済
●「救国の秘策」を説くエコノミスト

 丹羽春喜氏は、日本経済復活のための「救国の秘策」を説くエコノミストである。現在は大阪学院大学名誉教授。ハーバード大学ロシア研究センター所員、関西学院大学、筑波大学、京都産業大学等の教授を歴任した。
 丹羽氏は比較経済体制論ならびに経済政策論を専攻し、旧ソ連時代には、ソ連経済、特に軍事支出の研究の第一人者だった。平成2年(1990)に著書『ソ連軍事支出の推計』で防衛学会出版推奨賞を受賞した。
 そうした丹羽氏は、平成6年(1994)から日本経済について、「政府の貨幣発行特権の発動によって国の財政危機を救い、わが国の経済の興隆をはかれ」と提言し続けてきた。私は、丹羽氏の提言を5年前、国際政治学者・藤井厳喜氏の『「破綻国家」 希望の戦略』(ビジネス社、平成17年[2005]6月刊)で知った。丹羽氏は、この時より以前に述べていた主張と以後に述べた主張が一貫している。まったくぶれがない。
 丹羽氏は「国家財政が破綻に瀕して経済政策が麻痺し、国の衰退が深刻化してやまない悩み、これを一気に解決できる方法はないのかという発想からあみ出したのが、『政府貨幣・政府紙幣』発行権の大規模発動というビジョン」だという。独創的かつ大胆な発想ゆえ、一部の人にしか理解されず、また支持されずにきた。丹羽氏は、小渕首相・小泉首相に宛てて、「救国の秘策」を提言する建白書を送った。しかし、採用されるには至っていない。
 今日、大多数の経済学者・評論家は、消費増税や国債増発をよしとする。だが、それに反対する有識者もおり、その中に丹羽氏の提言の賛同者がいる。丹羽氏が会長を務める「日本経済再生政策提言フォーラム」には、評論家・経済学者・経済人等が多く結集している。同会の理事長は、国際問題評論家として名高い加瀬英明氏である。小野盛司氏が主催する「日本経済復活の会」も、丹羽氏の理論を支持し、当会には70名以上の国会議員が参加し、経済人・経済評論家等が活動を続けている。
 平成20年(2008)9月のリーマン・ショックによって「100年に一度の大津波」といわれる世界経済危機に直撃されている今、わが国を救う経済政策として、改めて注目を集めているのが、「政府貨幣特権の発動」である。丹羽氏自身、これを「世界大恐慌の危機対処への模範回答」(『政府貨幣特権を発動せよ!』)だと自負する。また財政事情がこれ以上も増税はできず、また国債が累増しているわが国においては、「もはやこの策以外には、打つ手はない」と断言する。
 今回の世界経済危機について、私は、100年に一度ではなく、500年に一度の節目にあると考えている。500年に一度とは、西洋文明から非西洋文明、東洋・アジアを中心とした文明への転換を意味する。この転換は、単に文明の中心地域が移動するというだけでなく、文明の拠って立つ原理が変わることを意味する。
 私は、日本には、世界のこの転換を先頭に立って進める役割があると思っている。しかし、わが国は平成20年(2008)まで、アメリカの圧力に押されて、アメリカに決定的に従属し、収奪し尽くされる寸前の状態だった。ところが、ここで大きな転機が訪れた。物質中心・拝金主義のアメリカは、サブプライム・ローン、リーマン・ショックによって、自ら座礁したのである。
 ここにわが国に逆転の好機がある。わが国は世界経済危機の影響は米欧より少ない。ここで日本再興の経済政策を大胆に実行すれば、活路を開くことができる。日本の復活は、世界人類を共存共栄の社会に導く起動力となる。別項で紹介した菊池英博氏や丹羽氏らの提言は、こうした日本の再建と世界の共存共栄を切り拓く経済政策となり得ると私は注目しているのである。

●80歳にして旺盛な言論活動

 丹羽氏は多くの著書と論文を出している。著書の中では、最近刊行された小著『政府貨幣特権を発動せよ。』(紫翆会出版、平成21年[2009]1月刊、以下『政府』)が、氏の所論の概要を知るのに最適である。
 丹羽氏は昭和5年(1930)生まれ。本年(平成22年)80歳という高齢ながら、インターネットを駆使し、自身のサイトやブログに膨大な量の論文を載せている。中心的なサイトは、「新正統派ケインズ主義宣言」である。ここには、多数の論文の中から厳選された14の論文が公開されている。読者はこれらを読むことで、丹羽氏の理論と主張のエッセンスを知ることができる。また、ブログを開設し、日本経済と世界経済について旺盛な言論活動を行っている。「日本経済再生政策提言フォーラム」のサイトにも、多くの論文や報告が掲載されている。
 経済学者に限らず、本格的な学者の中で、これほどインターネットによる活動に力を入れている人はわが国では珍しいだろう。しかも、80歳である。その精力的な活動は、驚嘆すべきものである。そして、そのエネルギーは、日本の危機を救い、人類を共存共栄の世界にいたらしめんとする情熱に発するものである。

新正統派ケインズ主義宣言
http://www.niwa-haruki.com/
 ※厳選した論文14本を掲載
丹羽春喜の経済論(ブログ)
http://niwaharuki.exblog.jp/
日本経済再生政策提言フォーラム
http://homepage2.nifty.com/niwaharuki/

 丹羽氏の講演やインタビューを動画で見ることができる。氏の人柄に触れるには、ビデオを見るのがよいだろう。

ビデオ「財政政策で日本を再建せよ!!」丹羽春喜氏(平成21年7月)
http://www.youtube.com/watch?v=vWSfvY3Ay2g
ビデオ:丹羽春喜氏と藤井厳喜氏の対談(平成22年1月) 
パート1
http://www.youtube.com/watch?v=ZinaorkW8TA&feature=fvw
パート2
http://www.youtube.com/watch?v=Vyp6ZWeI0-s&NR=1
パート3
http://www.youtube.com/watch?v=YzThl41wTBk&feature=channel
パート4
http://www.youtube.com/watch?v=GTvOOmRDBhE&feature=channel
パート5
http://www.youtube.com/watch?v=2fEo5FVHugQ&feature=channel
パート6
http://www.youtube.com/watch?v=UJpO4zqY_hc&feature=channel
パート7
http://www.youtube.com/watch?v=wjPKJGjVszo&feature=channel
パート8
http://www.youtube.com/watch?v=_wGh4OzD5H4&feature=channel
パート9
http://www.youtube.com/watch?v=ZBK_Qwg9oBk&feature=channel
パート10
http://www.youtube.com/watch?v=aHCuY0UVBzI&NR=1
パート11
http://www.youtube.com/watch?v=wDJYWcH8UBg&NR=1

 本稿は、丹羽春喜氏の「救国の秘策」を紹介するものである。25回ほどを予定している。

 次回に続く。

関連掲示
・拙稿「経世済民のエコノミスト~菊池英博氏」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13i-2.htm
 8に菊池氏の「日本復活5ヵ年計画」を掲載。

日本の移民政策に関する提言5

2010-12-20 08:55:02 | 国際関係
 最終回。

●日本国際フォーラムによる政策提言の内容(続き)

「提言7 秩序ある労働者受入れと労働者保護のために、「外国人雇用法」を制定するとともに、二国間「労働協定」を締結せよ。

 わが国では、外国人労働者の雇用・労働条件は、労働関係法令と出入国管理関係法令の二つの法体系によって規定されているが、必ずしも整合性がとれておらず、また、企業のコムプライアンス(法令順守)も不十分である。そこで、わが国と周辺国が二国間で「労働協定」を締結し、両国がそれぞれに義務と役割を分担し、秩序ある労働者受入れを実現し、もって効果的に外国人労働者の保護が確保されるようにすべきである。この場合、「労働協定」を国内的に担保するために「外国人雇用法」を制定することが必要になる。雇用対策法に規定した雇用状況届の規定などを「外国人雇用法」に移管するとともに、権利侵害からの迅速な救済の仕組を規定し、出入国管理行政と労働行政が協力して法律を施行する体制を構築すべきである。
 雇用の非正規化が進むなかで、健康リスクや失業リスクに対するセーフティ・ネットは十分に機能していないが、労働・社会保障法上の措置とは別に、入管法上の措置として、労働・社会保険加入の確認ができない外国人の雇用は禁止し、当該違反に対して罰則を適用すべきである。また、非正規な外国人労働者の斡旋、雇用及びトラフィッキングなどを行う者に対しては、周辺国とも協力して厳正に対応すべきである。

提言8 「社会保障協定」の締結を促進し、国内外を移動する日本人及び外国人に配慮した社会保障制度とせよ。

 わが国は、独、米、英、仏、加などの先進諸国及びブラジルとの間では「社会保障協定」を締結したが、今後往来の増大が予想される中国、韓国、東南アジア諸国、インドなどとの間では「社会保障協定」の締結交渉は遅れている。「社会保障協定」がない国に滞在する日本人や邦人企業は二重に社会保険料を支払うという不利益を蒙っている。
 他方、わが国において就労する外国人にとっては、公的年金の脱退一時金制度や、5年以上25年未満しか滞在しない外国人の基礎年金の保険料が掛け捨てになる問題が解決されず、外国人の社会保険加入意欲を著しく削いでいる。そのことが、同時加入の健康保険の無保険者を増やす結果ももたらしている。このため、外国人に限り、最低加入年数を25年から10年程度に短縮すると同時に、「社会保障協定」がある場合原則として加入期間を通算する措置を準用し、外国人の社会保険加入率の向上を促進すべきである。海外で活躍する日本人、日本で就労する外国人双方にとって不利益をもたらしている状況を早期になくすために、政府は、主要国や新興国と「社会保障協定」の締結を急ぐべきである。

提言9 永住外国人への地方参政権の付与は、憲法違反の可能性が高く、政治的にも懸念を抱かせる要素があり、慎重な議論が必要と考える。

 2009年末においてわが国における「外国人登録者」の数は218万人であるが、そのうち10年以上日本に住む「永住者」は94万人である。内訳は、1945年以前から引き続き日本に在留する者とその子孫である「特別永住者」が40万人、それ以外の「一般永住者」が53万人である。「特別永住者」の99%は韓国・朝鮮籍の人々である。「一般永住者」の中で最も多いのは中国人で、この10年間に5倍に増えている。次いでブラジル人、フィリピン人、韓国・朝鮮人の順である。
 永住外国人への地方参政権の付与に関しては、1995年の最高裁判決が、主文において「憲法第93条第2項にいう(地方選挙権を持つ)『住民』とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味する」と明言している。主文とは別に、異論を述べた傍論があるが、法律上の効力はない。永住外国人への地方参政権付与は、憲法違反の可能性が高いのみならず、かれらが地方参政権を梃子に、領土問題や安全保障問題の帰趨に影響を及ぼす恐れがあり、慎重な議論が必要であると考える。ただし、日本国籍を取得した外国人が国と地方の双方において選挙権のみならず被選挙権を有することは、言うまでもない。」

●結びに

 以上、財団法人日本国際フォーラムによる政策提言「外国人受入れの展望と課題」を掲載した。提言内容の詳細に関する検討は本稿では行わない。冒頭に書いたように、私は現在、「トッドの移民論と日本」を連載している。その連載の中に、日本の移民政策に関する私見を書いているが、全体の最後に改めて私見を述べる。その際、「外国人受入れの展望と課題」を参考資料の一つとする予定である。

参考資料
・財団法人日本国際フォーラムのサイト
http://www.jfir.or.jp/j/index.htm
・同フォーラムによる政策提言「外国人受入れの展望と課題」
http://www.jfir.or.jp/j/pr/pdf/33.pdf

日本の移民政策に関する提言4

2010-12-19 08:37:49 | 国際関係
●日本国際フォーラムによる政策提言の内容(続き)

「提言4 「経済連携協定」における外国人受入れ条項の条件の柔軟化を図るとともに、就労を認める分野を順次拡大せよ。

 現在わが国が締結している「経済連携協定」に基づく看護師、介護福祉士等の受入れに当たっては、わが国の国家試験合格などを条件としているが、この条件は緩和する必要がある。そもそも、海外で既に専門資格を有する者に対し、その資格の内容を全く考慮することなく、日本の国家試験を課し、日本語の知識・能力が十分でない結果落第となるのを放置することは、実質的に看護師、介護福祉士等の受入れを決めた「経済連携協定」のそもそもの趣旨に反することになる。日本の国家試験については、英語でも受験できるように改めるほか、日本語についてはむしろ職種に適した実践的な日本語能力を重視すべきである。
 政府は、「経済連携協定」における外国人受入れ条項の解釈を柔軟にし、海外の有資格者をより容易に受け入れる仕組とするだけでなく、日本または海外で新たに外国人有資格者を養成する仕組を導入すべきである。併せて、わが国の国家資格を取得した場合、相手国で、同じ資格が認知されるように、相手国にも制度の整備を求めるべきである。
 こうすれば、本人の希望によって母国に帰国しても、あるいは日本に再来日しても、同一の資格で両国において就労できるようになり、域内の人の移動の円滑化に寄与できる。

提言5 社会統合政策を外国人政策の第二の柱とし、国と自治体が連携する効果的な実施体制を確立せよ。

 欧州における移民政策の失敗の一因は、移民を受入れ国に統合し、共存させるための社会統合政策が十分でなかったことである。2009年の「改正入国管理及び難民認定法」と「住民基本台帳法」は、外国人台帳制度を日本人と同じ住民基本台帳制度のなかに整備することとなった。これは進歩ではあるが、外国人の権利を尊重し、その義務の遂行を確保するという観点からいえば、まだ第一歩であるにすぎない。そこで、「出入国管理及び難民認定法」における在留管理に関する関係条文を整備し、出入国管理と並ぶ外国人政策の第二の柱として、外国人の社会統合政策の推進に関する根拠法令を設けることを提案したい。
 これをもとに、(1)外国人住民の権利の尊重と義務の遂行を確実にするため、自治体と関係省庁との間で効率的かつ公正な情報融通のシステムを整備すること、(2)国が、地域・自治体と連携して、日本語講習、学校教育、雇用対策などの施策を行うこと、(3)外国人と日本人が共生する環境を整備するため、地域で生じる問題の調整に当たる地域の専門人材を養成すること、(4)外国人に対する雇用や医療などのセーフティ・ネットを強化するため、国の出先機関と自治体が連携して、実効性の高いワンストップ・サービスを制度化すること、の4点を提案したい。

提言6 日本語能力を持たない外国人に対し、地域における日本語学習の機会を保障する体制を整備せよ。

 外国人受入れに当たっては、地域社会に異文化集団地域が発生し、日本人社会や他の外国人集団との間でコミュニケーション不足や誤解・敵意が発生することのないよう配慮する必要がある。定住外国人の受入れに当たって、予め日本語能力の有無を確認するのも一つの方法ではあるが、すでに合法的に入国しており、今後一定期間以上日本に滞在が予定される外国人には、日本語学習を奨励し、さらにはその機会を保障することも必要である。国は、生活・就労・就学に必要な日本語能力を判定する基準を設け、簡易に日本語の能力判定ができる仕組を、まず整備すべきである。
 さらに、市町村など関係機関においては、在留する外国人が生活に必要な日本語能力を有しないと判定された場合、一定期間(例えば入国後3年)以内であれば、市町村が当該外国人に対して受講の指示を行い、少ない個人負担で実践的な日本語を学ぶ機会を提供すべきである。自治体が受講指示を行った場合、当該外国人が雇用されている企業・団体は、受講のために労働時間などの面で配慮するべきである。外国人の子どもたちが早急に日本の小中学校に同化できるよう、日本語の特別補講を行うこと等の施策も講ずべきである。」

 次回に続く。

トッドの移民論と日本34

2010-12-18 08:45:57 | 国際関係
●率直で開かれた同化主義

 『移民の運命』の最後に、トッドは、「統合」(integration)という「曖昧で偽善的な用語」に替えて、「同化」(assimilation)という率直な語を採用すべきと提案する。フランス人に対し、「率直で開かれた同化主義」を採ることで、移民受け入れ国としての責任を引き受けることを、トッドは主張する。フランスの移民同化政策は独善的だったという反省に立ち、新たな同化主義を提唱するのである。
 この提案は、フランスという国家のための政策提言であるにとどまらない。トッドは、「フランス人と移民の関係」が「世界中からやって来る人々の同化へと発展するなら、それによってフランスは具体的普遍となるであろう」と自らの期待を語る。
 ここに言う「具体的普遍」はヘーゲルの用語で、真に普遍的なものが自己を特殊化する弁証法的運動の中で自己自身であり続けることを言う。私には、トッドは、特殊が普遍化したものという程度の意味で使っていると思われる。人類の将来のためにフランスという国民国家(ナシオン)には重要な役割がある、とトッドは信じている。「普遍的人間」という観念がフランスに誕生したのは「神の摂理」だ、とさえ言う。トッドは、フランスが移民への対応において、人類社会のモデル、雛形となるべきと考えているのだろう。
 フランスに期待を寄せるトッドは、フランスは「率直で開かれた同化主義」を採るべきだという。簡単に言うと、フランスは移民の同化はこういう方針だと率直に言い切るべし。それがいやな人はお断りする、と堂々と言うべきだという主張だろう。
 トッドは言う。「率直な同化主義への転向は、フランス的最低共通基盤に入らないすべての人類学的要素を、何ら恥じ入ることなくフランスの国土から排除するということを意味する」と。排除される人類学的要素とは、共同体家族・族内婚・父系、特に女性への抑圧といったフランスと対極的な要素である。フランスの文化・習俗を受け入れないマグレブ人はフランスから出て行ってもらう、と言っているに等しい。
 移民にとってもそのほうがよいのだ、とトッドは言う。トッドは「フランスが存在するということ、そして移民の将来とは多数派の習俗に同調することでしかあり得ないということを、堂々と言い切ることができないからこそ、受け入れ住民の不安が掻きたてられるのだ」と言う。
 フランスのためにも移民のためにも、「己れの習俗システムの優先性を断言しつつ、しかし己れの基本的価値を受け入れる個人は迎え入れる」という姿勢をフランスは取るべきだ、とトッドは主張する。

●自国の文化に誇りを持ち、移民に対し主体的な姿勢を取れ

 トッドは、自国の文化に誇りを持ち、移民に対し主体的な姿勢を取れと言いたいのだろう。反対の要素を排除して同化させるという方針は、単なる排除ではなく、また同化の強制でもない。同化を望む者、求める者は、受け入れる。ただ無条件に移民を受け入れ、自国の文化が異文化と融合するのをよしとするのでなく、フランスの言語・文化・習俗を習得し、フランス人になりたい外来者は受け入れる。そうでない者は受け入れない。移民に対して門戸を開いているが、率直に自国の考え方を伝え、それでよければ受け入れるという姿勢である。世界で最も普遍主義的とされるフランスを評価するトッドは、そのフランスにおいてさえ、無原則にすべての移民を受け入れるのではなく、自国の主体的な姿勢をもって対応すべしと言っているのである。
 トッドによれば、こうした率直で「開かれた同化主義こそが、マグレブ人、マリ人を初め、多くの移民集団が最大の効率性をもって適応の過程に向かうことを可能にするだろう。各人が何よりも自分を迎え入れる共同体から一個の人間として認められることを願っている以上、あらゆる出自の移民は、フランスが彼らの子供たちを完全なフランス人にしようとしていると知れば、少なくとも安堵し、喜ぶことであろう。」と。
 ここでマグレブ人、マリ人を挙げているのは、これらの人々は、フランス人から見れば女性を抑圧しており、受け入れの最低条件を満たしていないからである。しかし、マグレブ人、マリ人であっても、もし女性の地位を尊重するのであれば、彼らを一個の人間として受け入れるというのが、トッドが採るべきと主張する移民への対応姿勢である。
 私は、このトッドの主張に日本人が学ぶべき点があると思う。ただ移民を受け入れるのではなく、日本語・日本文化を習得して日本人になろうとする者のみを受け入れる。日本の中に別の文化集団として入り込み、そのまま居続けることは認めない。それでよければ、受け入れる。嫌なら自国に帰ってもらう、というはっきりした姿勢を取るということである。受け入れ国が移民に合わせるのではなく、移民の方に適応させること。これが、移民受け入れ国の原則でなければならない。また、受け入れる移民を能力・適性を見て選択することも大切である。自国にとって必要な人材を選択し、そうでない人材は受け入れない。選択的に受け入れた外国人に対しては、しっかり言語・文化・歴史・伝統・法規範・国家理念等を教育して日本社会への同化を促進し、また彼らが活躍できる環境・条件を整えて能力を引き出し、日本の国益を増進することが必要である。

 次回に続く。

日本の移民政策に関する提言3

2010-12-17 08:45:02 | 国際関係
●日本国際フォーラムによる政策提言の内容

 続いて、具体的な提言内容を掲載する。産経新聞等に載った意見広告では、提言のタイトルのみで、説明文は掲載されていない。3回に分けて掲載する。

「提言1 観光やビジネスを目的とする外国人は極力受入れを拡大するとともに、定住目的の外国人については、日本の国益の観点から選択的に受け入れるべきである。

 わが国は、アジアで数少ない先進国の一つであり、給与や医療水準が高く、治安が安定している。基本的人権が尊重され、宗教的にも寛容である。かりに外国人の入国を完全に自由化すれば、近隣諸国だけでなく、世界中から移民が殺到するであろう。そうなれば、日本人にとって当然の所与である今日の日本の豊かさや安らぎは、それらを支える社会的基盤とともに、崩壊するかもしれない。観光やビジネスで短期間来日する外国人と異なって、定住目的で来日する外国人の受入れに当たっては、経済的・社会的な必要性だけでなく、安全保障、治安、国の一体性(アイデンティティ)などにも配慮して、総合的・選択的な判断により受け入れる必要がある。
 東アジアにおいては、過去の戦争の傷跡が完全には癒えていないのみならず、民主主義や基本的人権について価値観を異にする国々があり、また経済発展の度合いも国によって大きく異なる。欧州諸国間にあるような政治的、経済的、社会的、文化的な一体性や均質性はない。領土問題をめぐる確執さえあることを見れば、定住目的の外国人の受入れについては、十分に慎重でなければならないと考える。

提言2 外国人高度人材を優先的に受け入れ、わが国に滞在し、国内外を移動しながら自由に活動できる諸条件を整備せよ。

 選択的受入れ政策を採るなかでまず優先すべきは、わが国が戦略的重要性を付す科学技術や産業等において高度な知見や技術をもたらす学者・研究者、専門技術者、企業経営者らの外国人高度人材である。高度人材は、自分自身の能力を最大限に発揮できる環境や良好な就労機会だけでなく、家族の滞在にとっても良好な環境を求めて移動する。従ってわが国は、高度人材がアジア太平洋地域を中心に、日本を拠点としたネットワークを形成して活動できるように、条件整備すべきである。国、地方公共団体、大学、研究機関、企業等は、医療や社会保障、家族の就業機会や子弟の教育などについて、内国民待遇を保障することは当然であるが、必要があれば付加的な特典を与えるべきである。大学や大学院への留学生に対しては、来日、入学から就職にいたる体系的で実践的な支援体制を築き、日本国内で滞在する期間を有効に活用できるよう援助すべきである。
 永住権の付与については、原則10年とされる最低在留年数が、高度人材や日本人の配偶者等については5年以下に短縮されたが、米国、英国、シンガポールなどと比べ、依然として魅力に乏しい。高度人材に対しては、永住資格の付与についての現在のガイドラインを「点数制度」に移し替え、学者・研究者、企業経営者、専門技術者などのグループ別に評価項目を設定し、また国内の地域振興等に貢献した者に加算を導入するなどして、永住権の取得を促進するべきである。

提言3 狭義の不熟練労働者の受入れは今後とも慎重に対応する一方、日本人だけでは供給困難な職種を特定して、その人材開発と資格取得を支援せよ。

 近年、高齢層のみならず若年層でも、失業者や無業者が高水準となっている。技能や経験がなくても就労できる不熟練分野は、これらの日本人が労働市場へ再参入するために不可欠であり、今後とも、外国人に全面的に開放すべきではない。
 他方、日本人だけでは後継者養成が困難な職種や業種が増加している。また、年々高齢化が進展している。このような事態を直視し、政労使の合意のもとに、日本人のみならず外国人人材をも積極的に養成・活用すべき分野を、看護師、介護福祉士等に限定せず、拡充する必要がある。そのうえで、受入れ企業や大学などは、業界レベルで人材開発や資格取得を促進する措置を具体化し、国の支援のもとに推進すべきである。」

 次回に続く。

日本の移民政策に関する提言2

2010-12-16 08:46:02 | 国際関係
●政策提言「外国人受入れの展望と課題」の主旨

 政策提言「外国人受入れの展望と課題」の「はじめに」という文章を転載する。

「はじめに

 2008年秋の世界経済危機で深く傷ついた欧米経済とは対照的に、東アジア経済は、新興国・地域が中心になって域内のネットワークをダイナミックに再編しながら、各国・各地域経済が急速に成長率を回復し、自立的発展の実現を目指す新たな段階を迎えつつあります。注目されるのは、世界経済危機の影響、域内に残る冷戦時代の不安定な構造、国際的なテロの懸念にもかかわらず、域内の人の移動は一層高まっていることです。特に、ビジネスや観光を目的とする短期的移動は急速に回復しています。
 また、短期滞在外国人だけでなく、日本に長期間滞在する外国人も、アジア出身者を中心に、2009年末現在で、その10年前の約1.4倍にあたる218万人に増加しました。外国人の定住化が進展し、永住権を有する者は、既に94万人を超えています。仮にわが国の外国人受入れ条件が現状のまま推移したとしても、東アジア経済の統合が進むのと並行して、国内の定住外国人は増加基調を強めるものと予想されます。
 このような定住化の段階は、1980年代半ばの欧州諸国の状況を想起させます。当時の欧州諸国は「多文化主義」への楽観論が支配的であり、移民受入れには寛容でした。しかし、1990年代になると、地域社会のなかに相互にコミュニケーションが成立しない異文化集団やゲットーが現れ、不法移民も増大しました。フランスでは、公共教育の場で禁止されているブルカを着用する一部イスラム教徒によって、国是である政教分離原則が脅かされ、それに対して右翼政党が反発するなどの状況も生まれています。
 わが国は、このような欧州の経験から学び、安易な外国人の受入れが、受入れ国の社会・文化の一体性を損なうだけでなく、政治・安全保障にさえも緊張をもたらしかねないものであることを理解し、必要な対策を講じなければなりません。因みに、欧州への移民は主としてイスラム圏からの移民であり、欧州のキリスト教文明と摩擦を生じていますが、予想される日本への移民の大きな部分は、古い歴史的経緯をもつ朝鮮半島出身者に加え、巨大な人口圧力を抱えながら大国として台頭しつつある中国からの移民です。永住外国人への地方参政権付与が問題となっていますが、憲法違反の可能性の高い提案であるだけでなく、政治的な結末に懸念を抱かせる要素があり、慎重な議論が必要と考えます。
 「外国人受入れ」に関するこのような欧州の経験から学びつつも、しかしながら、われわれがそこから出発せざるを得ない今日の日本の現実は、日本がグローバル化する世界経済のなかで生き残り、成長する東アジア経済との一体性や相乗効果を確保するためには、国内の人材を最大限に活用しつつも、基本的に外国人を受け入れなければならない、という現実です。問われるべきなのは、受入れの可否ではなく、受入れの条件です。どのような制度を設計し、どのような態勢を整備して、外国人を受け入れるか、が問われているのです。
 では、その条件とは、どのような条件であるべきなのでしょうか。1990年代後半以降、欧州諸国は、外国人の受入れは、移民送り出し国や移民自身の希望によってではなく、受入れ国が条件を設定し、その条件によって選択すべきものだとして、「選択的移民政策」を打ち出しています。移民は、受入れ国社会への統合が可能であり、さらには受入れ国への貢献が期待できる者に限るとの原則であり、その観点から受入れ国の言語を話せることなどの条件が導入されています。われわれは、わが国も、この原則を採用すべきだと考えます。
 受入れ国言語の習得については、欧州諸国は、1980年代の楽観的な「多文化主義」の失敗から学び、アメリカやカナダなどの定住移民受入れ国の経験も踏まえて、外国人のための受入れ国言語習得の機会を積極的に整備しています。外国人による受入れ国言語の習得は、受入れ国社会の一体性を維持し、外国人住民の縁辺化を防ぎ、貧困の堆積や治安の悪化などの社会的費用の発生を抑制する投資として認識されているからです。
 わが国は、人口減少時代に突入し、国内市場の力強い成長が見込めないだけに、東アジア地域統合の進展に伴う域内人材の開発や域内人材の秩序ある移動に期待するところが大であります。アジアと日本をつなぐ人材を確保するため、優秀な外国人留学生の受入れ拡大とそのキャリア形成の支援が必要です。地域活性化を目指す自治体では、日系人や技能実習生に限らず、地域の持続的発展を支える外国人労働者と家族の受入れが不可欠です。なぜなら、18歳人口が2017年以降、現在の130万人から110万人台以下へと急減するうえ、大都市への若年人口流出と大学進学率の上昇が続く結果、地方都市においては、若年層を中心に人口減少が加速するとみられるからです。 
 国内で就労する外国人が配偶者や家族を呼び寄せるなどの家族移民の受入れの保障も重要です。現状では、わが国の定住的な外国人に占める就労目的外国人の比率は3割強で、家族移民は1割程度に過ぎません。しかし、欧米諸国では、家族移民が外国人受入れの過半を占めています。定住外国人が増えるにつれ、日本でも家族移民の比重は上昇してくるでしょう。そのことを予想し、家族移民受入れの環境整備を進める必要があります。また、難民支援については、本年9月に第三国定住難民の受入れを開始したことを契機に、今後とも着実にその体制を強化すべきです。
 2010年11月」

 この「はじめに」に続いて、政策提言「外国人受入れの展望と課題」に署名した有識者87名の氏名が掲載されている。日本の国益を重視する国際派の保守ないし保守系のリベラルが多いようである。署名者のうち、私の目を引いた有識者を紹介する。

政策委員長
 伊藤憲一(日本国際フォーラム理事長)
政策委員
 愛知和男(日本戦略研究フォーラム理事長)、浅尾慶一郎(衆議院議員 みんなの党)、大宅映子(評論家)、櫻田淳(東洋学園大学准教授)、島田晴雄(千葉商科大学学長)、田久保忠衛(杏林大学名誉教授)、中西寛(京都大学教授)、平沼赳夫(衆議院議員 たちあがれ日本)、本間正義(東京大学教授)、森本敏(拓殖大学海外事情研究所所長)、屋山太郎(政治評論家)、渡辺利夫(拓殖大学学長)他の各氏

 次回に続く。

日本の移民政策に関する提言1

2010-12-15 13:21:44 | 国際関係
●わが国の移民政策に関する注目すべき提言

 私は、MIXIとブログに「トッドの移民論と日本」を連載している。この連載は、エマヌエル・トッドの名著『移民の運命』(藤原書店)を中心に、トッドの移民論を整理・考察し、それを踏まえてわが国の移民問題を論じるものである。
 トッドは本書で、西欧の四大先進国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスにおける移民への対応を比較し、各国の対応の違いを示すことで、ヨーロッパの抱える移民問題の深刻さを明らかにする。そして、多文化主義を批判するとともに、移民を隔離や排除するのではなく、受け入れ社会に同化させることを主張する。また、独善的に同化を押し付けるのではなく、「率直で開かれた同化主義」を取るべきことをフランスにおいて提唱している。
 こうしたトッドの研究と主張は、ヨーロッパの内部、特にフランスにおけるものだが、私は、移民の問題に直面しているわが国にとっても、大いに参考になるものと思う。
 現在、わが国では、永住外国人への地方参政権付与の可否が、重大な問題となっている。この問題は、地方参政権にとどまらない。外国人に日本の国籍を与える場合の基準にかかわる。さらに、移民をどれだけ受け入れ、どのように扱うべきかという問題に帰着する。わが国には近年、共産中国からの移民が増大しており、今後も中国を中心とする移民の増加が予想されている。既に移民による様々な社会問題が起こっているが、根底には国家と国家、文明と文明という構図がある。それゆえ、移民への対応は、日本という国家のあり方、また日本人のあり方を、根本から問い直さねばならない課題である。
 このような関心をもって見たとき、注目すべき政策提言が、最近出された。その提言は、財団法人日本国際フォーラムによるもので、「外国人受入れの展望と課題」と題され、総理大臣に提出されたほか、11月25日付けの産経・朝日・日経の各紙面に意見広告として発表された。
 提言は、移民は受入れ国が条件を設定し、その条件によって選択すべきものだとする「選択的移民政策」を提案する。移民の社会統合を重視しており、トッドの「率直で開かれた同化主義」に通じるものがある。日本の国益の観点から外国人高度人材を優先的に受け入れる一方、不熟練労働者の受入れには慎重に対応するなど、経済成長と社会秩序の両面に配慮している。永住外国人への地方参政権の付与については、憲法違反の可能性が高く、政治的にも懸念を抱かせる要素があり、慎重な議論が必要としている。私は概ね妥当なものと考える。そこで、日本国際フォーラムによる政策提言「外国人受入れの展望と課題」を紹介したいと思う。

●財団法人日本国際フォーラムとは

 財団法人日本国際フォーラムは、「独立・民間・非営利の国際問題・外交政策の審議・研究・提言機関を日本にも設立する必要があるという認識に基づいて、昭和62年(1987)に大来佐武郎氏、服部一郎氏、伊藤憲一氏ほか60名の参加により、「会員制の政策志向のシンクタンク」として設立された。
 同フォーラムは、「わが国の対外関係のあり方および国際社会の諸問題の解決策について、広範な国民的立場から、諸外国の声にも耳を傾けつつ、常時継続的に審議、研究、提言し、その成果を内外に問うことによって、わが国の世論を啓発するとともに、国際社会の対日理解を促し、かつ世界に向けた日本の発言および影響力行使を強化すること」を目的として活動している。
 専門は、(1)国際政治・外交・安全保障等、(2)国際経済・貿易・金融・開発援助等、(3)環境・人口・エネルギー・食糧等の地球的規模の諸問題、(4)アメリカ、ロシア、中国、アジア、ヨーロッパ等の地域研究、(5)東アジア共同体構想に関わる諸問題、(6)人権と民主化、紛争予防と平和構築、文明の対立、情報革命等の新しい諸問題、とされる。
 同フォーラムは、これまで、上記の分野について、33の政策提言をしてきた。その第33番目の政策提言が、本稿で紹介する「外国人受入れの展望と課題」である。

●政策提言「外国人受入れの展望と課題」について

 「財団法人日本国際フォーラムは、1987年の創立以来、その内部に政策委員会を設置して、年二回程度の頻度で定期的に政策提言を行ってきた(略)。今回発表する政策提言『外国人受入れの展望と課題』は、そのような当フォーラムの活動の第33番目の成果である。日本がグローバル化する世界経済のなかで生き残り、成長する東アジア経済との一体性や相乗効果を確保するためには、国内の人材を最大限に活用しつつも、基本的に外国人を受け入れなければならない。問われているのは、受入れの可否ではなく、受入れの条件である。
 このような問題意識を背景に、この政策提言は、2009年7月21日のこの問題に関する日本国際フォーラム政策委員会第1回会合においてその審議を開始し、本年9月28日の第4回会合においてその最終案を採択した。この間、本年4月26日の第3回会合までは井口泰関西学院大学教授を主査とするタスクフォースが政策委員会の審議を補佐したが、このタスクフォースは、第3回政策委員会の後解散され、新たに平林博日本国際フォーラム副理事長と井口泰関西学院大学教授が提言起草委員に選任されて、政策提言最終案の起草に当たった。第4回政策委員会を経て確定された政策提言最終案は、その後全政策委員に送付され、うち87名の政策委員がその内容を承認して、これに署名した。
 この政策提言の全文(日本語・英語)は、恒例により総理大臣に提出されると同時に、内外記者会見をつうじて新聞発表され、また、内外のオピニオン・リーダーに一斉に送付されるとともに、当フォーラムの日本語、英語の両ホームページ(http://www.jfir.or.jp)上で公開された。加えて、この政策提言の提起する問題の重要性に鑑み、広く世論に直接問いかけるべきだとの声を受け、その内容を11月25日付けの産経新聞、朝日新聞、日本経済新聞に各半ページを使った意見広告として発表した。
 なお、この政策提言審議の過程では、2009年10月27日開催の第2回会合において、ツルネン・マルテイ参議院議員(民主党)を講師に招き、貴重なご意見を伺った。改めて深く謝意を表したい。日本国際フォーラムは、外交・国際問題に関し、会員の審議、研究、提言を促し、もって内外の世論の啓発に努めることを目的とするが、それ自体が組織として特定の政策上の立場を支持し、もしくは排斥することはない。政策委員会によって採択される政策提言の内容に対して責任を有するのは、その政策提言に署名した政策委員のみであって、組織としての当フォーラムならびにその政策提言に署名しなかった当フォーラムの役員、会員、その他の関係者は、その内容に対していかなる責任を負うものでもない。

2010年11月
財団法人日本国際フォーラム
 理事長・政策委員長 伊藤憲一」

 次に「外国人受入れの展望と課題」が提案する9つの提言を列記する。

●提言1 観光やビジネスを目的とする外国人は極力受入れを拡大するとともに、定住目的の外国人については、日本の国益の観点から選択的に受け入れるべきである。

●提言2 外国人高度人材を優先的に受け入れ、わが国に滞在し、国内外を移動しながら自由に活動できる諸条件を整備せよ。

●提言3 狭義の不熟練労働者の受入れは今後とも慎重に対応する一方、日本人だけでは供給困難な職種を特定して、その人材開発と資格取得を支援せよ。

●提言4 「経済連携協定」における外国人受入れ条項の条件の柔軟化を図るとともに、就労を認める分野を順次拡大せよ。

●提言5 社会統合政策を外国人政策の第二の柱とし、国と自治体が連携する効果的な実施体制を確立せよ。

●提言6 日本語能力を持たない外国人に対し、地域における日本語学習の機会を保障する体制を整備せよ。

●提言7 秩序ある労働者受入れと労働者保護のために、「外国人雇用法」を制定するとともに、二国間「労働協定」を締結せよ。

●提言8 「社会保障協定」の締結を促進し、国内外を移動する日本人及び外国人に配慮した社会保障制度とせよ。

●提言9 永住外国人への地方参政権の付与は、憲法違反の可能性が高く、政治的にも懸念を抱かせる要素があり、慎重な議論が必要と考える。

 次回に続く。

トッドの移民論と日本33

2010-12-14 11:38:10 | 国際関係
●フランスは統一ヨーロッパの弊害を克服できない

 統一ヨーロッパの弊害を指摘するトッドは、フランスにはその弊害を克服する力はない、と指摘する。
 「同化と隔離のメカニズムを現実主義的に観察すると、ヨーロッパ人としてのアイデンティティの観念がぽっかりと空虚であることが露呈して来る。普遍主義的方向で価側観の統一が行なわれるという仮説は、きわめて非現実的であろう。フランスは、すでに大幅に進行しているイギリスとドイツの軌道を普遍主義の方向に戻すのに必要な物質的・精神的なカを持っていない」と。
 そのうえ、アメリカ合衆国とドイツは、「フランスが己れの普遍主義的意志と、黒人とイスラム系を含めてすべての移民を同化する己れの能力とを再確認しなければならない時に当たって、悪しき環境をなしている」とトッドは言う。米独は、「差異主義的理想を生き、表現し、輸出する」。「アメリカの影響は世界的に支配的な視聴覚文化によって運ばれ、巨大であるが、表面的でもある」。フランスはそのイデオロギー的圧力を受けている。ドイツの影響はもっと大きい。「ヨーロッパ圏内部では、ドイツはことさらに意図せずとも、その経済的威信によって、トルコ人の隔離と血統原理を含めて、己れの考え方を必然的に正統化することになる。そしてフランス社会の一部の分野に差異主義的教義が執拗に存続することを、助長するのである」と。
 フランスは、イギリスやドイツを普遍主義に変える力を持っておらず、逆にアメリカやドイツの差異主義の影響を受ける環境にある、というわけである。トッドは、また現在の世界において、アメリカの文化的・イデオロギー的支配の拡大に対抗し得る唯一の対抗軸を、フランスに見出している。

●統一ヨーロッパは、移民の対応でうまくいかない

 トッドは、統一ヨーロッパは、フランスにとって有害だと見る。
 「ヨーロッパ統一の夢はフランス社会にとって、『差異への権利』と同じように、一部の移民の子供がフランス国民の一員となることを阻止ないし妨害しかねない、破壊的神話となりつつある」
 第二次世界大戦より以前には、「フランスという国の理想の支配的定義がいかなる民族性、出自、系統の観念をも退けていたが故に」、フランスにおける移民の同化は「容易であり、効率的で痛みを伴うことがなかった」。 
 「フランス文化という枠組みのなかでは、強力な国民概念が同化を容易なものとしたのである。ところが統一ヨーロッパ神話は、国民というものの持つ集団的忠誠の固着点としての役割を弱めることとなった。かといってそれに取って代るにはいたっていない」とトッドは言う。そして次のように述べる。
 「フランス民衆諸階層と移民の子供たちとに共通のものたり得る唯一の集団的アイデンティティの源はフランスに他ならない。だが、ヨーロッパの建設はフランスを廃して、代わりにフランス民衆階層も移民の子供も賛同することのできない抽象的なヨーロッパを押しつける。それによって両集団のアイデンティティを解体してしまうのである」。
 このままではフランスの民衆と移民は、ともに統一ヨーロッパにも国民国家フランスにも、集団的アイデンティティを持てなくなる、とトッドは言う。私見によれば、その場合、彼らそれぞれのアイデンティティの対象は、政治的な組織より文化的な集団となるだろう。文明・宗教・民族(エスニシティ)が考えられる対象である。しかし、フランスの民衆は、文明(西洋文明)にも宗教(カトリック・プロテスタント)にも民族(ラテン系)にも、アイデンティティを持てない。一方、ムスリムの移民は、イスラム文明・イスラム教と各民族のエスニシティには、アイデンティティを持ちうる。こういう状態のフランスの民衆とムスリム移民が、ひとつの国に居住・生活することになるわけである。
 フランスだけに留まらない。ヨーロッパ全体が、大きな問題を抱えている。トッドは、「ヨーロッパという観念は内容のない抽象にすぎない」と断じる。統一ヨーロッパでは、同化しようにも同化のしようがない。「同化するとは、まず第一に、ある言語を学ぶことだが、ヨーロッパ全体には共通語が存在しない。第二に、同化するとは、一つの習俗システムのなかに入って行くことだが、ヨーロッパには共通の習俗システムがない」
 トッドは懸念する。「まずくすると、統一ヨーロッパはヨーロッパ大陸に現存するあらゆる差異主義を統一した、大規模な差異主義の企てとなって、ドイツ流の血統権をすべての国に拡大することになる。うまく行っても、統一ヨーロッパは、離れ離れの場所に住んで、異なる言語を話し、取るに足らない数の結婚でつながるだけの、フランス国民、イングランド国民、ドイツ国民の全く理論的な融合にすぎない、抽象的な世界を差し出すだけの話だろう」と。

 次回に続く。

「構造改革を告発したエコノミスト」を掲載

2010-12-14 08:52:28 | 経済
 本年10月から今月にかけて連載した「構造改革を告発した経済家」を編集して、私のサイトに掲載しました。通してお読みになりたい方は、次のページへどうぞ。

■構造改革を告発したエコノミスト~山家悠紀夫氏と菊池英博氏
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13i.htm

 本ブログ左下のブックマークからジャンプできます。

 目次は次の通りです。

はじめに~ある新自由主義者の「転向」
第1章 偽りの危機に警告~山家悠紀夫氏
(1)山家悠紀夫氏の理論と主張
(2)四つの危機説を検証
(3)財政危機説は誇張されていた
(4)偽りの危機から本物の危機が生まれた
(5)背景にあるのは「大競争時代」
(6)構造改革政策を厳しく批判
(7)構造改革を止め、積極財政を打て
第2章 日本復活の5ヵ年計画~菊池英博氏
(1)菊池英博氏は“経世済民のエコノミスト”
(2)橋本=小泉構造改革の失政を指弾
(3)失政の責任を取らない財務省
(4)アメリカの圧力による金融行政と郵政民営化
(5)消費増税は国家的危機を生む
(6)先例に学び、また伝統に立った改革を
(7)日本財政の考え方を正す
(8)「日本復活5ヵ年計画」を提言
結びに

構造改革を告発した経済家30

2010-12-13 08:42:06 | 経済
 最終回。

●結びに~山家氏と菊池氏の理論と主張

 構造改革を告発したエコノミスト、山家悠紀夫氏、菊池英博氏の理論と主張を見てきた。
 本稿の冒頭で、中谷巌氏がリーマン・ショックの3ヵ月後に刊行した『資本主義はなぜ自壊したのか』について述べた。中谷氏は本書で、新自由主義の思想は、「人間同士の社会的つながりなど、利益追求という大義の前には解体されてもしょうがないという『危険思想』」であるとし、新自由主義に基づく「グローバル資本主義や市場原理」は「本質的に個人と個人のつながりや絆を破壊し、社会的価値の破壊をもたらす『悪魔のシステム』である」と断じた。
 まさにその新自由主義・市場原理主義がわが国の政策に導入され、構造改革が推進されていた当時、山家氏と菊池氏は新自由主義を厳しく批判し、構造改革に異を唱え、それに替わる政策を提言していた。1990年代から2000年代の経済政策を総括し、今日の日本経済の課題に取り組むうえで、彼らの提言には有効有益なものが多く含まれていると私は考える。
 両氏の所論を要約すると、山家氏は、バブル崩壊後に現れた様々な日本経済危機説を検討し、「言われているのは『偽りの危機』である」と看破した。特に財政危機説について、政府は財政を粗債務だけで見て、わが国は財政危機にあるという。しかし、純債務で見ると「日本の財政赤字の状況は先進国中『最悪』ではない。『まだまし』といった状況にある」「財政再建は必要ではあるが、すべてに優先して進めるべき、と言うほどではない」。しかし、橋本政権は財政危機を強調し、その危機からの脱出の手立てとして規制緩和を行い、財政再建への取り組みを始めた。「これは極めて危うい試みである、このままでは人々の生活は大変厳しいものになる、日本の経済社会は『本物の危機』に陥る」と警告した。不幸にして、山家氏の予測は的中し、「偽りの危機」が「本物の危機」を生み出した。それが現在まで続くデフレである。
 次いで小泉政権の構造改革論について、山家氏は「サプライサイド強化論」であると規定し、これに反対した。そして「別の選択肢」として、構造改革政策の放棄または先送り、景気の悪化を食い止めて回復に向わせる積極的な政策、企業や金融機関などの行動が景気を良くし、人々の暮らしを良くすることにつながる仕組みを作り出すことを提案した。
 山家氏によると、1990年代以降の日本経済は「圧倒的な供給力過剰」という状況にある。日本経済の脆弱さの主因は「消費の低迷が長期化」していることにある。打つべき政策は、消費の拡大による需要の創出である。需要が回復すれば、日本経済は活況を取り戻す。経済が活況を取り戻せば、サプライサイドも強くなっていくと主張した。
 菊池氏もまた、日本は純債務から見ると財政危機ではないとする。菊池氏は次のように主張する。経済成長率を向上させれば、増税なしで社会保障費を賄える。財政規律の指標は、純債務を名目GDPで控除した数値であり、経済を活性化させれば、財政規律は改善する。「10年ゼロ成長」「10年デフレ」の元凶は基礎的財政収支均衡策にある。一国の財政収支を家計の借金にたとえるのは誤りである。また経済成長を抑制して債務の回収に走るのは大きな誤りである、と。
 そして、菊池氏は「日本復活5ヵ年計画」を提言する。第一に、制度面からのデフレ要因を根絶する。基礎的財政収支均衡目標と金融行政3点セットの適用を凍結・廃止する。第二に、国家のビジョンを「輸出大国」から「社会大国」に転換する。内需を拡大して、内需中心の成長産業を育成し、経済成長が促進されるなかで、社会保障費の財源を生み出せる形を取ることだ、と説く。
 具体的には、政府投資の30兆円と減税枠の10兆円を合わせた40兆円を景気対策としで毎年実施し、とりあえず、5年間にわたって継続させる。この200兆円の財政出動で名目GDPの成長率は4~6%に達すると予測する。
 財源は、特別会計の埋蔵金100兆円を一般会計の投資項目に振り向け、「内需創出国債」を80兆~100兆円発行し、個人向けに無利息の「デフレ脱却国債」を20兆円以上発行する、という政策を掲げている。

●日本復興のための経済政策を

 山家氏、菊池氏とも、銀行マンとして長年金融の実務に携わり、その後、学者となったエコノミストである。その理論と主張は、現場での実務経験に基づいている。学派の権威と学閥の人脈の中にいる純然たる学者とはその点が違う。理論より実際、権威より実利という特徴が、両氏にはあると思う。
 ただし、そうした特徴を持つゆえの弱点もある。それは、経済学の原理的な面の掘り下げをしていないことである。今日のわが国の経済政策の失政には、新自由主義・市場原理主義の理論によってもたらされた部分が大である。それゆえ、理論的な反論を行なわないと、経済政策の転換は大きく進まない。
 1929年の大恐慌以後、経済学では、マルクス主義とケインズ主義が対立してきた。対立は第2次世界大戦後、米ソの冷戦、資本主義・自由主義と共産主義・統制主義の対峙の下で、継続された。この対立に、1970年代から、ケインズ主義と新自由主義・新古典派経済学の対立が加わった。冷戦の終焉後、マルクス主義が大きく後退すると、ケインズ主義と新自由主義の対立が主となった。新自由主義が圧倒的な優勢となり、ケインズ主義は少数派となった。
 しかし、平成20年(2008)リーマン・ショックによる世界経済危機の勃発によって、世界的に新自由主義・市場原理主義の見直しがされるようになった。新自由主義・市場原理主義は、ケインズ主義へのアンチである。それゆえ、その見直しは、ケインズの再評価を伴う。私の見るところ、山家氏、菊池氏は自ら表明してはいないが、1990年代から変わらない少数派のケインズ主義のエコノミストである。
 新自由主義・市場原理主義を批判するには、単に政策を批判するだけでなく、経済学の原理的な面からの検討が必要である。この点においても、私は、丹羽春喜氏の理論と主張に注目している。丹羽氏は、1980年代から新自由主義・新古典派経済学を理論的に批判し、ケインズ主義の復権を唱えてきた。「正統派ケインズ主義」を自称し、独自の政策を提言している。それは国債の増発でも増税でもない財源調達によって、日本経済を再興する政策である。すなわち、政府の貨幣発行特権を発動するものである。これを、丹羽氏は「救国の秘策」として提唱している。丹羽氏については、別稿を掲載する。以上をもって、本稿を終えたい。(了) 

関連掲示
・拙稿「アメリカに収奪される日本~プラザ合意から郵政民営化への展開」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13d.htm
拙稿「日本経済復活のシナリオ~宍戸駿太郎氏」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion13h.htm

参考資料
・中谷巌著『資本主義はなぜ自壊したか』(集英社インターナショナル)
・山家悠紀夫著『偽りの危機 本物の危機』(東洋経済新報社)『構造改革という幻想』(岩波書店)『暮らしに思いを馳せる経済学』(新日本出版社)
・菊池英博著『増税が日本を破壊する』『実感なき景気回復にひそむ金融恐慌の罠』『消費税は0%にできる』(ダイヤモンド社)
・丹羽春喜著『政府貨幣特権を発動せよ。』(紫翆会出版)『ケインズは生きている』(ビジネス社)