ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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日銀はマイナス金利政策を~田村秀男氏

2013-02-14 09:31:24 | 経済
 安倍晋三氏は、首相就任前の昨年11月15日、都内のホテルで講演し、日銀の政策金利について「ゼロにするか、マイナス金利にするぐらいのことをして、貸し出し圧力を強めてもらわなくてはいけない」と述べた。日本の政治家で、マイナス金利政策を公言したのは、安倍氏が初と見られる。
 マイナス金利政策とは、昨年7月デンマークの中央銀行が、世界で初めて実施した政策である。中央銀行と市中銀行の間で、貸し手が金利を払い、借り手が金利をもらえることにする政策である。デンマークは、マイナス0・2%の政策金利を導入した。政策金利とは銀行間の短期の取引金利の誘導目標金利のことである。、デンマークは、マイナス金利の導入と同時に、資金供給量を一挙に1・8倍に増やした。マイナス金利と量的緩和を一挙に実行したことによって、、銀行の企業向け貸出金利は下がり、全体の貸し出しも拡大傾向にあると伝えられる。
 産経新聞編集委員の田村秀男氏は、マイナス金利政策を支持し、同紙1月6日号の「日曜経済講座」に次のように書いた。
 「銀行の中の銀行である中央銀行がマイナス金利政策に踏み切ったらどうだろうか。市中銀行が余った資金を預ける中央銀行の当座預金の金利をマイナスにする政策をとればよい。すると、銀行間で資金を貸し借りする短期金融市場金利がマイナスに誘導される。銀行の資金調達コストがゼロ以下に下がるので、貸出金利に反映するはずだ。
 ただし、中央銀行がよほど大きくマイナス金利にしないと、貸出金利はマイナスにまでは下がらない。残念ながら住宅ローンなど消費者向けや中小・零細企業向け貸出金利をゼロ以下にするのは困難だ。それでも、中央銀行がマイナス金利政策をとれば貸出金利低下により、貸し出し需要が大きく増える効果が見込める」と。
 日銀は現在、市中銀行に0.1%の金利を払って、当座預金口座に資金を預かっている。市中銀行は、利回りが0.1%以下に下がった金融資産を日銀に売って、日銀の当座預金口座に預けておけば、金利の差の分、利益を得られる。これでは、市中銀行が中小企業等に積極的にカネを貸し出すはずがない。国民に金融緩和をやっているように思わせながら、実はカネが市中に回らないようにしてきたのが、日銀なのである。
 1998年以降のわが国のデフレの直接的原因は、日銀の緊縮的金融政策にある。このことは、浜田宏一氏、岩田規久男氏らによって、理論的・実証的に明らかにされている。
 政府と日銀は1月22日共同声明を発表した。そこに、「日本銀行は物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とする」「日本銀行は、上記の物価安定の目標の下、金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指す」等と盛り込まれた。ついにインフレ目標が政策に取り入れられた。ただし、日銀が目標達成に責任を負うことにはなっていない。
 目標を達成する手段は、日銀に委ねられている。浜田氏、岩田氏ら金融政策の専門家は、デフレを脱却し円高を是正するために、まず打つべきは量的緩和であるという。その手段として、日銀が短期国債ではなく長期国債(ただし満期まで期間の長いもの)、CP(社債)等を購入することを提案している。私は、これらの手段に加えて、田村氏の提案するマイナス金利政策も検討に値すると思う。
 田村氏は、先ほどの記事で言う。1月6日付ゆえ、22日の政府・日銀共同声明より2週間ほど前の意見である。
 「安倍首相と白川総裁はこのところ、『2%のインフレ目標』設定で妥協しつつあるように見える。半面で、安倍氏は『マイナス金利』発言を控えているようだ。だが、インフレ目標をかたくなに拒否し続けてきた白川氏を譲歩させるだけで、首相は矛を収めるべきではない。安倍政権の大目標は脱デフレ・超円高是正なのだが、民間の生産と投資を活性化しないと実現しない。それにはまず、日銀の当座預金に張り付いたまま動かない金融機関の余剰資金を中小企業など一般向けに流すよう、日銀政策を転換させる必要がある。日銀の小手先の対応にごまかされてはならない」と。
 デフレ脱却、円高是正のためには、任期終了前に辞任を表明した白川日銀総裁の後任人事が極めて重要である。白川氏は、インフレ目標2%には同意したものの、これまでの日銀の金融政策や日銀流理論の誤りを認めていない。次期総裁は、日銀の官僚的な組織体質・無責任体制を打ち破り、日銀を積極的に改革する人物でなければならない。
 昭和4年(1929)の世界大恐慌後、わが国の経済を立て直した高橋是清は、昭和6年(1931) 犬養毅内閣の大蔵大臣として、デフレ下の日本で積極財政を断行した。高橋は農商務官僚、日銀総裁等を歴任した実務家として、独自の思考で政策を構築した。そして、新規発行の赤字公債を発行して、日銀に直接引き受けさせ、それを財源として政府投資を行った。この時、日銀総裁として高橋に応えて大胆な金融政策を行ったのが、高橋の愛弟子・深井英五である。わが国の景気は、高橋・深井の財政金融政策の連携によって、回復に向った。大恐慌後の世界でわが国はいち早くデフレを脱出した。昭和8年(1933)に始まるアメリカのニューディール政策の先を行っていた。世界に誇るべき偉業であり、見事というしかない。
 今日わが国は、安倍晋三内閣において、安倍総裁と麻生太郎副総理兼財務大臣が、かつて高橋是清の成し遂げたデフレ脱却・円高是正に挑む。これを成功させるには、高橋の右腕となった深井英五に匹敵する人材を日銀総裁にすえなければならない。さらに、日銀に過度の独立性を与えた日銀法(平成10年施行)を改正し、政府と日銀が一体となって財政金融政策を行えるようにすることが必要だと私は思う。
 以下は、田村氏の記事。

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●産経新聞 平成25年1月6日

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/130106/fnc13010608220001-n1.htm
【日曜経済講座】
編集委員・田村秀男 「インフレ目標」だけでは不十分

2013.1.6 08:19

◆日銀はマイナス金利に転換を
 銀行にカネを預けると金利がつくし、借金すると金利を払うことが当たり前になっている。ここで言う金利とは、プラスの数値である。ならば貸し手が金利を払い、借り手が金利をもらえるマイナスの金利があってもよい。
 よく引き合いに出されるのはドイツなど欧州の一部の信用力の高い国債の金利がマイナスで市場取引されるケースである。ギリシャ、スペインなどユーロ圏で政府債務危機にあえぐ国の国債を持つよりは、金利を払ってでも優等国の国債を買って様子をみる投資家がいるのだ。この場合、実体の経済活動には影響をほとんど及ぼさない。

◆貸し出し需要増の効果
 銀行の中の銀行である中央銀行がマイナス金利政策に踏み切ったらどうだろうか。市中銀行が余った資金を預ける中央銀行の当座預金の金利をマイナスにする政策をとればよい。すると、銀行間で資金を貸し借りする短期金融市場金利がマイナスに誘導される。銀行の資金調達コストがゼロ以下に下がるので、貸出金利に反映するはずだ。
 ただし、中央銀行がよほど大きくマイナス金利にしないと、貸出金利はマイナスにまでは下がらない。残念ながら住宅ローンなど消費者向けや中小・零細企業向け貸出金利をゼロ以下にするのは困難だ。それでも、中央銀行がマイナス金利政策をとれば貸出金利低下により、貸し出し需要が大きく増える効果が見込める。
 このことにいち早く気付いた政治家が安倍晋三新首相である。安倍氏は昨年11月15日、都内の講演で日銀の政策金利について「ゼロにするか、マイナス金利にするぐらいのことをして、貸し出し圧力を強めてもらわなくてはいけない」と述べた。まさに正論である。
 今の日本のようにデフレ不況下では、現金や金融資産のモノに対する価値が上がる。そこで金融機関は安全な国債を買い、残る資金を日銀の当座預金に寝かせる。わずかでも焦げ付きリスクのある借り手に背を向けて、貸し出しを増やさない。
 日銀は表向きこそ、脱デフレのために包括的な「金融緩和」のアクセルを踏んでいると言うが、同時にブレーキをかけている。何しろ、日銀は0・1%のプラス金利を当座預金に付与しているのだ。利回りが0・1%以下に下がった金融資産を日銀に売って、そのまま代金を日銀当座預金口座に預けておけば、銀行員が昼寝していても金利を稼げる。ドブ板を踏んで貸し出し先を探すはずがない。
 安倍提案の5日後、日銀の白川方明総裁は記者会見で「一般論として」と断りながら反論した。マイナス金利による「副作用」について4点ほど挙げたが、中でも「金融機関がマイナス金利のコストを貸出金利に上乗せすることになり、結果的に企業が直面する金融環境が引き締まるという指摘もなされています」と言う。つまり、貸出金利は逆に上がるか、それとも貸し出しを渋るようになる、というのである。プラス0・1%の当座預金の現行政策を死守しようとする意図はありありだが、白川氏は金融機関をそこまで甘やかせ、中小企業などの苦境を放置して平気なのだろうか。
 日本では日銀が無視するせいかほとんど注目されないが、欧州では「テストケース」として金融界で広く注目されているのが、デンマーク中央銀行が昨年7月に踏み切った「マイナス金利」政策である。



◆デンマークで機能発揮

 同中銀は金融機関から預かる預金商品をマイナスにし、銀行間の短期金利(翌日物)をマイナスに誘導している。同時に資金供給量を大幅に増やす量的緩和政策にも踏み切った。銀行の企業向け貸出金利は下がり、全体の貸し出しも拡大軌道に乗った。「デンマークは小国で参考にならない」とけなす向きもあるかもしれないが、先進的な金融市場制度を持つデンマークでは正常な市場機能が発揮されていると読み取れる。
 安倍首相と白川総裁はこのところ、「2%のインフレ目標」設定で妥協しつつあるように見える。半面で、安倍氏は「マイナス金利」発言を控えているようだ。だが、インフレ目標をかたくなに拒否し続けてきた白川氏を譲歩させるだけで、首相は矛を収めるべきではない。
 安倍政権の大目標は脱デフレ・超円高是正なのだが、民間の生産と投資を活性化しないと実現しない。それにはまず、日銀の当座預金に張り付いたまま動かない金融機関の余剰資金を中小企業など一般向けに流すよう、日銀政策を転換させる必要がある。日銀の小手先の対応にごまかされてはならない。
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■追記

この記事ののち、日銀総裁に黒田東彦氏が就任した。黒田氏は、副総裁の岩田規久男氏らとともに、大胆な金融緩和を進めている。
いかに関連掲示を示す。

・拙稿「デフレ下での日銀総裁の条件とは」20130301
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/5e0e59862bd00600dfdf7ffc3626f1f9
・拙稿「消費増税が異次元緩和を失効させた~田村秀男氏」20141111
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/47ad77512dcb7d95e6df0f1be959812c